2020年度は,やれ感染防止に十分注意しながら対面で講義しなさいだの,いやオンライン講義にはオンライン講義なりのメリットがあるんだだの,対面とオンライン,あるいはハイブリッドやらハイフレックスやら,いろいろと喧しい議論が続けられた1年だった.そのなかで,オンライン講義化がもたらした変化で確実に「オンライン講義をせよ」という号令が黒船だったといえる事実がある.それは,学習支援システム(LMS,Learning Management System)の活用が進んだ,利用率が遥かに向上した,ということだ.
振り返ってみればオンライン講義を一斉に始めた当初は,アクセス集中でLMSがダウンするといった混乱が生じていた.様々な経験を経て,LMSのシステム環境は増強され,快適に使えるようになっていった.教員になる前は民間企業でエンジニア(的な研究員)を勤めていたという経験から愚考すると,もともと,全教員が使うことは想定しないでシステムのキャパシティを設定していたのだろう.それは,不必要なリソースを用意せず,全体として最適化を進めるという観点からすれば,至極当然の行動であり,責められるべきではない.
LMSの活用状況
しかし,オンライン講義を行うとなれば別である.オンデマンド型は当然として,それ以外の形態のオンライン講義であっても,オンラインでやる以上はLMSを拠り所とすることが自然であり,ほとんどの教員がLMSを活用するようになった.
次の図は,広島大学の隅谷孝洋先生によるLMSの利用状況のグラフである(隅谷孝洋先生,図の引用をご許可くださりありがとうございます).
同大学で利用しているLMSのアクセス状況を,日次で集計したグラフである.薄いブルーで示されているものが2019年,グレーで示されているものが2020年,そして,薄い赤で示されているものが2021年,今年の状況である.
2019年,コロナ禍以前の状況では,LMSの活用が進んでいたとはいえない状況であったということがよくわかる.対して,昨年,授業開始の前後から,急激に利用が増えている.そして今年,完全に対面に戻ったというわけではなく,まだオンラインの講義はいくつもあるとのことだそうだが,いくつかは対面の講義に戻っているにも関わらず,利用状況が昨年とほぼ同じであるということがわかる.
黒船もときには必要か
そう考えてみると,コロナ禍によるオンライン講義の強制は,ことLMSの利活用という面に着目してみれば,黒船だったといえよう.黒船が来ないとなかなか新しい体制に移れないというコミュニティのあり方もいかがなものかとは思うものの,そこは世界各国共通で,人間の性なのかもしれない.いずれにしても,オンライン講義化で多くの教員がLMSを活用するようになり,教育の質が少しでも向上したのではないかと考えることも,ときには必要であろう.
自分自身を振り返ってみると,私はわりと旧来からLMSを活用していたほうではあると自負しているが,それでも使い方が変わり,いろいろと高度な機能を使いこなすことに挑戦した1年であった.さらには反転授業へのステップとしても利用している.逆境に立ち向かう努力が全体の状況を改善することもあるというよい例と捉えれば,少しは明るい気持ちにもなれようというものだ.
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