2024年2月10日土曜日

講演タイトルと絵文字

「半角カナ」と呼ばれる文字セットがある.JIS X 0201として制定されているカタカナの文字コード集合である.文字コードを8ビットないしは7ビットで表現していた時代,コンピュータの黎明期において日本語をなんとかしてコンピュータで表現しようとした結果の,ひとつの産業遺産である.

翻って現代,日本語はほぼ不自由なくコンピュータで表現できるようになった.文字コードも,JIS,Shift JIS,EUCといった複数のコードが使われることによりときとして文字化けが起こるといった混乱の時代を経て,いまではUnicodeによってほぼそのようなトラブルは回避されている.

いわゆる半角カナは一時期,トラブルの元になるので使わないほうがよいとされていたが,今ではUnicodeに組み込まれているので問題なく利用できる.ただし,コード云々よりも,デザイン上の問題というか,同じ文字なのに全角と半角という2種類の文字が存在すること自体が,根本的な課題であろう.同じことはA-Z(a-z)とA-Z(a-z)にも当てはまる(前者は半角,後者は全角).システムを頑健にするためには入力されたテキストに対し,同一化の処理を施さねばならず,面倒くさいことこのうえない.

この問題はもう,強制的にどちらかを使わないようにするというコンセンサスを共有するしか解決方法がないが,それはなかなか難しいだろう.

ところで,Unicodeで問題が全て解決したかというと,残念ながら,そうでもない.なぜならば,古いシステムを延々と使い続けている人や組織が絶えないからである.ありがちなのが,丸数字と(月)(火)(水)……の文字化け問題である.WindowsのShift JISで①②③という文字を使うと,Mac側では(月)(火)(水)になってしまう,というアレ.令和の世の中でも,ときどき遭遇する.

最近,私が遭遇した出来事は,講演タイトルの変更を余儀なくされたことである.正確には,データベースに登録できないから,登録するタイトルを修正せよ,というもの.当該講演は,こちらである.

飯尾淳, "にこP(大学版)中大 iTL🇯🇵 x KMITL🇹🇭 実施報告," インターネットを用いた海外の高校との協同授業:実践報告シンポジウム 第2回, 東京 市ヶ谷 & オンライン (2022.2.26).

「講演タイトルに絵文字なんて使うなよ!」っていうマジメなご指摘は承るが,遊び心はあってもいいじゃんねーとも思う.まあ,そんな開き直りはともかくとして,この講演の情報を researchmap の講演実績に入れていたら,そこからデータをフィードするようにした研究者DBの管理者から「うちのシステムは絵文字使えないから当該絵文字を削除してください」という連絡が来た.残念な話である.

そもそも講演や論文のタイトルって,もっと自由に付けていいんじゃないかと,常々,悩ましく思っている.同じく2022年の2月には,ヒューマンインタフェース学会の学会誌に,次のような記事を寄稿した.

飯尾淳, "ポストコロナ時代の〇〇コミュニケーション," ヒューマンインタフェース学会学会誌, Vol. 24, No. 1, pp. 4-7, (2022.2).

この記事の校正中に,事務局から「そろそろタイトルきちんと決めてください」と連絡が来た.「〇〇コミュニケーション」の「〇〇」の部分が,仮置きだと思われたらしい.これは,正規表現でいうところのワイルドカード,すなわち,よくある(〇〇には好きな言葉を入れてください)という意味でそのように表記したものだったが,その意図が伝わっていなかった.

このときは丁寧に説明し,当初の意図通り,記事はこのままのタイトルで掲載された.

なお,論文のタイトルは,「システム名: その説明」というようなタイトルを付けることが多い.Proposal of … とか,Research on … ,Development of … みたいな紋切り型のタイトルは面白くないし,タイトルの頭文字が偏ってしまう.AからZまで頭文字が散らばったほうが,多様性の時代に合っている.「システム名: その説明」であれば,その説明部分は好きに書けるという理屈である.

ところで,ここまで書いてふと疑問に思ったのだが,絵文字で始めたら,インデックス作るときにどういう扱いにされるんだろう?こんどやってみようかな(また怒られるかも……)

講演タイトルといえば,心に残っているのは,2004年のWISSにおける大和田さんの発表である.

大和田茂,”切る," WISS第12回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ, (2004).

3Dモデルのボクセル表現で,どこで切っても断面が表示できる,みたいな発表だったと記憶しているが,なんといってもタイトルが衝撃的である.わずか2文字.これ以上,短い論文タイトルを,私は寡聞にして知らない.