2021年4月7日水曜日

IT業界・温故知新(1)

先日,MRIが提供していたTake IT Easyバックナンバーに触れた.思い起こせば1998年にメンバ5人で始めたこの連載,始めた当初は毎週更新していたので,かなりしんどかった.なにせひと月に1度は執筆担当が回ってくる.しかも,いま書いているこの勝手なブログと異なり,論文の査読に近い体制でクオリティを担保しようと,毎回,メンバ全員で閲読してから公開するという力の入れようだったので,工数的にはけっこうな負担を強いられていた.

しかし,その甲斐あってというか,Easyの記事経由でプロジェクトの引き合いが来たこともあったし(その後,受注してちゃんとした仕事になったかどうかは忘れた.たぶん,いくつかはあったはず),なにより自分たちの情報収集能力,業界の状況を分析する力,そしてアウトプットとしての作文能力などがずいぶん鍛えられた.Easy執筆メンバと,そうじゃない同僚も交えて,「ネットでこんな駄文を垂れ流すよりちゃんと学会誌に論文や解説記事を書くべきだ!」「いやこうやって少しでも手軽に発信していくべきだ!」といったけっこう激しめの議論をしたことも懐かしい.

その後,連載内容が本になったり,担当メンバが相当増えて負担がかなり減ったり,さらには業務多忙を言い訳にして毎週連載を隔週連載したりなどの変化があり,2013年,私は自身がMRIを退社したことから「微笑がえし」という記事を最後にして執筆陣から外れた.最近,更新が途切れてしまっている点が,若干,心配ではある.

記事の振り返り

全体では1,000件にも迫るろうかという多数のバックナンバーが揃っているなかで,調べたら,私は68本の記事を投稿していた.せっかくのいい機会なので,ざっと振り返ってみたい.

「ソフトウェアの健全な成長は何か」(1998年12月8日)

記念すべき「私の記事第1号」である.初期メンバー5人のなかでは私がいちばん若かったはずで,5番めの記事かなと思ったら意外にも2番めに登場していた.1998年12月1日に発表された比屋根一雄氏による最初の記事に続き,2つめの記事を私が書いていた.なお,余談だが,比屋根氏は,この企画の発案者であり編集長を担当,私自身多数の仕事を一緒にやり大きな信頼を寄せていた(今でも私のよき理解者であると信じている)長いこと直属の上司でもあった方である.

さて,この記事では,Javaを巡るサン・マイクロシステムズとマイクロソフトの争いについて,主として技術的な観点から評論している.そのサン・マイクロシステムズもオラクルに買収されてしまった.オラクルに買収されたころからJavaも坂道を転がり落ちていってしまったような印象を受けている.95年前後にアルファ版のころから「これは面白い言語が出てきたな」とばかりJavaに傾倒していた私も,サンがオラクルに買収されたあたりからさっぱり使わなくなってしまった.思想信条的なものというよりは,単純に使いにくくなってしまったなという理由だったと記憶している.

振り返ると,この記事ではひと言も触れていない展開ではあったが,いずれにせよ最近のJavaは「健全に成長してる?」という疑問符が付く印象を受ける.温故知新.南無阿弥陀仏.

バージョン番号の謎(1999年1月26日)

続いて2つめの記事.正月休みを挟んでいるせいか少し間が空いている.2つめは随分と軽い記事で,毒にも薬にもならない話をしているなあ.

この話題は,今でも通用しそうである.ポストペット,懐かしいですねw

モバイルツールは本当に必要か(1999年3月2日)

紙とペンからデジタルツールへ,身近な生活のデジタル化を論じている.なんだ,今でもDXとか言ってるじゃない.日本は20年間,何の進化もしていなかったのか?

しかし世界は確実に進化していた.注目すべきは最後の項目,「こんなモバイルツールが欲しい」という記述である.該当部分を引用する.

以下に,こんな条件を満たすモバイルツールがあればなあ,と期待する要件を挙げてみた.

    • スイッチを入れたら瞬時に使えること
    • 「紙と鉛筆」と同程度の手軽さで使えること
    • バッテリーの心配をしなくてもよいこと
    • 通信機能が電話並みに使いやすいこと
    • 手帳程度(あるいはそれ以下)の携帯性であること

どうだろうか.手元にあるiPhoneをじっと眺めてみる.

スイッチを入れたら瞬時に使えること……◎.これは実現されている.まあ,正確にいえばサスペンド状態からの復帰だけれど.サスペンドからすぐに復帰できて,しかもスリープとサスペンドを繰り返しても何ら問題ない,ということでこの要件は満たされた.

「紙と鉛筆」と同程度の手軽さで使えること……◎.これも二重丸をあげていいのではなかろうか.UIも随分と洗練され,モバイルツールとしてのUXは確立された.当時まだUXなんていう言葉はなかったけど.

バッテリーの心配をしなくてもよいこと……◯もしくはキビシメに判定すれば△,といったところか.ほぼ1日は持つようになっているので,さほど心配する必要はなくなったが,それでも毎日充電しないといけないのは辛い.ここはあまり進化していないかなという感想である.物理的(化学的)な制約条件はなかなか厳しい.

通信機能が電話並みに使いやすいこと……◎.これも合格.そもそも電話だし.無線通信の速度も十分に速くなったし,公衆Wifiなどのインフラもだいぶ整った.

手帳程度(あるいはそれ以下)の携帯性であること……◎.これも合格としてよいだろう.私はiPhone 7を未だに使っているが,世の中は揺り戻しで少し大きめのサイズに戻っている気もする.

こうやって振り返ってみると,バッテリーの問題以外はほぼクリア.記事は「愛用の手帳を捨ててまで使ってみたくなるような, そんな購買欲を刺激する製品の発売される日が,遠からず来ることを期待したい」と締めくくっているが,紙の手帳などおよそ10年も前に捨てているので,いつの間にか未来はやって来ていたというところである.

To be continued...

このシリーズ,書いてて面白くなってきたので,続けます.



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