2024年7月25日木曜日

こんなところでHCD(6)

こんなところでHCDのシリーズ6回目は,またしてもホテルのバスルームからお届けする.

まずは次の写真を見ていただきたい.このシチュエーション,たいへん使いにくい状況が発生するのだが,お分かりだろうか?

そう,便器に座って用を足したあと,トイレットペーパーを使おうとすると体を右に捻らねばならず,とても使いにくいのである.

実際に使ってみればすぐに分かるこの不自然さ,正解は,次の写真のような配置であろう(雑なコラですみません).

このような問題は,プロトタイプを作ってユーザテストしてみれば一発で解決する.というか,そもそも経験値として共有すべき課題のような気がしなくもないが,ホテルの水回りの使いにくさが世界各地で見られるのは,建築業界になんらかの問題があるのではなかろうか……

2024年6月24日月曜日

【ダークパターン警察】ファイル02

やってはいけない「ダークパターン」.やりたくなる気持ちはわかるが,こういう設計はやめたほうがいい.そんな事案を収集するシリーズである.名付けてダークパターン警察.今回は,某通販サイトの事案である.


さて,今日取り上げるのは,SNSではあまりよい評判を聞くことがない,某通販サイトの1ページである.まずは次の図を見てほしい.

矢印の先には「特別セール」とあり,さらに「終了まであと01:58:13」とある.これ,カウントダウンタイマーという典型的なダークパターンではなかろうか.

終了まで2時間を切っていたので,そのまま放置してみた.すると,次のようになった.

タイマーはストップしたが,特別セールは終わってないやないかーい!そして,このページをリロードしてみると……


お,おう.時計が3日ほど巻き戻ってしまった.

こうなるともう,何も信じられない.左下にある46個のレビューや星4.9も,本当だろうか?ちょっと気になったので,いろいろやってみた.

在庫数もインチキ

「残り11」個とあるので(お急ぎください!),カートに入れてみた.その状態で,やおら,違うブラウザから同じページにアクセスする.カートに1個入れたので,残りは10個になるはずなのだが……あれれ?残り11のママじゃん.どういうこと?(ひょっとして決済されたら減るのだろうか.競合が起きたらどうすんの?)

レビューも,ブラウザによって微妙に異なっている.左はChrome,右はSafariでアクセスしたものだ.数やスコアも違ってるし,これいったいどういうこと?

まるでダークパターンの見本市のような印象を受けたが,皆さんどうだろうか(ちなみに,カートに入れた商品を削除しようとしたら,ダークパターン警察ファイル01で指摘したパターンと同様の課題も存在していた).

ということで,信じるも信じないもあなた次第.ダークパターンにはゆめゆめご注意めされよ……

2024年6月23日日曜日

身近になったジェスチャーコントロール

macOSの設定を眺めていたら,いつの間にか,ジェスチャー認識を活用したUI設定が実装されていたので驚いた.その設定手順は次のとおりである.

ヘッドポインタ

システム設定のアクセシビリティという項目に,「ヘッドポインタ」という設定がある(次図).この設定をONにすると,頭の向きでマウスポインタを動かせるようになる.

この設定を有効にして,顔の向きを変えるとそれに追随してマウスポインタが移動する.それはそれで面白いのだが,正直なところ,なくてもいいかなあという感じ.

まあでも,とくに効果を感じないのは,私が小さなMBP13"の画面で作業しているからかもしれない.大きなディスプレイで作業している皆さんには効果的なのかな.複数画面でマルチディスプレイ環境を作って作業しているひとには便利になるかもしれない.ていうか,マルチディスプレイのときは画面を超えて移動していくんだろうか?そこはまだ検証していない.

代替ポインタアクション

さて,マウスポインタを顔の向きで動かせるようになるとすれば,クリックはどうするの?という話になるのは自然な流れであろう.マウスポインタを移動させるだけでなく,マウスやタッチパッドに触ることなくクリックやドラッグができれば,それはそれで,便利な使い方が考えられまいか?

というわけで,次に注目すべきは,ヘッドポインタの上にある「代替ポインタアクション」という項目である.代替ポインタアクションを設定するには,右側にあるインフォメーションのアイコンをクリックし出現するダイアログで作業する(次図).

この図は,代替ポインタアクションで「+」をクリックすると出てくる選択ダイアログである.「顔の表情」を選ぼう.「次へ」をクリックすると,選択した顔の表情とそれに紐付けるアクションを選ぶ画面に進む.

「顔の表情」の選択肢は,笑う,口を開ける,舌を出す,眉を上げる,目をまばたく,鼻をしかめる,唇を外側に向けてすぼめる,唇を左側に向けてすぼめる,唇を右側に向けてすぼめる,というもの.対応させるアクションの種類としては,左クリック,右クリック,ダブルクリック,トリプルクリック,ドラッグ&ドロップを選べる.

面白いけど

いろいろ試してみると面白いだろう.「口を開けると右クリック」などという設定にしておけば,口をぱかっと開けるとコンテキストメニューが出てくる,なんていう動作も実現できる.でも唇を捻じ曲げてひょっとこみたいな顔をする動作で操作するって,たいへんそう…….

もちろん,マウスやトラックパッドが使えない状況など,このヘッドポインタと代替アクションの組合せが有効になるシーンもあるだろう.想像力の問題でもある.そして,一度でも試してみると,ジェスチャーインタフェースの課題を身をもって感じられるはずだ.疲れる,しんどい,不自然,という課題である.

未だ解決されていないそれらの課題だが,それを体験できるこれらの実装はとても有意義である.実際に試してみることで理解したうえで,「よっしゃいっちょ私が解決してみようやないかい!」という挑戦者が現れることを期待する.

2024年6月18日火曜日

HCD研究発表会の向かう道

HCD-Net研究事業部では,年に2度,HCD研究発表会を開催している.ここでは,本イベントの在り方に関する検討とその方針について論じる.

イベントの活性化,指摘と対応

我々は,HCD研究発表会というイベントを活性化すべく,これまで,論文誌への同時投稿制度やメンター制度,審査員によるコメントフィードバック,実践報告カテゴリの設置など,様々な工夫を重ねてきた.その努力が実ったのか,あるいは,たんにHCDやUXに対する注目が増えたせいなのかもしれないが,いずれにしても,年々,発表件数が増えてきているのはたいへん喜ばしい限りである.

一方で,発表数が増えてマルチトラックにした結果,従来のきめの細かな議論ができなくなった,あるいは,発表数は増えた一方で質の低い発表が増えた,といったご批判も頂戴している.これらのご指摘はたいへん有難く,今後どうしていくのが皆様にとって望ましい研究発表会になるのかを検討するうえでとても参考になる.真摯なご意見として受け止め,運営関係者で検討する材料としたい.重ねて,厳しいご指摘をくださった皆様には御礼を申し上げる.

発表数の増大に対してマルチトラックにするのか,開催日数を増やすのかの選択は,なかなか悩ましい問題である.シングルトラックのまま複数日開催とすれば,これまでどおりの議論の質は維持できるかもしれない.しかし,参加者の負担は増大する.開催側もたいへんである.どのような形が最適解なのかは,今後,慎重な検討を進めなければならない.

発表の質の担保は必要か

「たんなる思いつきの発表ばかりでけしからん,せめてプロトタイプを作った結果を報告せよ」とのご指摘を,ある先生からいただいた.しかし,それに対しては,我々は真逆の立場を指向していることを,ここで明確に示しておきたい.

マイクロソフトリサーチUKのSimon P. Jones氏は,彼の”How to write a great research paper”と題した文献のなかで「まずアイデアを発表せよ」と語っている.その理由は,最初のアイデアが間違っていると,そのあとの研究は無駄であるから,というものである.この考え方には強く共感する.そもそも最初のアイデアを学会で議論し,第三者の指摘を踏まえたうえで,適切な目標に向けて研究を進める,その考え方は,HCDのプロセスである,まず利用状況を適切に把握せよという考え方と合致するのではないだろうか.

また,発表の敷居を下げることは,研究会の活性化につながる.企業人が多いというHCD-Netの特性を踏まえても,学会発表に慣れていない皆様にも発表の機会を提供することが,重要な意味を持つと我々は捉えている.

もちろん,だからといって,安易な発表「だけ」に甘んじていてはいけない.その点では,先の先生による指摘もまた間違ってはいない.議論を重ね,皆様が切磋琢磨していくことを,期待している.成果を出して,さらなる発表に繋げることは大切である.提案発表を受け入れることは,当然ながら,そのような発表を妨げるものではない.次回のHCD研究発表会にも,たくさんの発表があることを期待している.

2024年5月29日水曜日

富裕層という幻想

野村総研が提示した「富裕層ピラミッド」なるものを日経が紹介していた.それによれば,日本にはそれなりの数の富裕層がいるんだそうだ.物価高にあえぐ庶民のひとりとしては,ホンマかいな?と滲み出る眉唾感を隠せないところだが,とりあえずその「富裕層ピラミッド」なる図式がこちらである(出典:「日経トレンディ」 Pick Up!野村総研「富裕層ピラミッド」、庶民割合 言ってはいけない真実も).

もう,マス層だのアッパーマス層だの,その定義からしてインチキくさいというか品がないというか,ゲスい匂いがぷんぷんしている.しかし,純金融資産を5億円以上も持つ超富裕層って9万世帯もいるんかよ!と驚きである.

そして中間のアッパーマスから富裕層までも,ピラミッドを見る限り,あれあれ?こんなにいるのか,日本もまだ捨てたもんじゃないな?と思わせる図式でもある.

いやしかし!これ,本当に正しいの?百歩譲って,というか,数値がそもそも信頼できなかったらどうしようもないので,ここに書いてある数字は信頼することにしよう.なお,保有額の比率は,富の偏在状況を明示するという点では意味があるが,お金持ちってナンボくらいおるん?という我々の肌感覚に近い「世帯数の比較」には意味がないので,ここでは純粋にそれぞれの層に属する世帯数のみに注目することとする.

さて,横軸の単位を「万世帯」として作成したグラフがこちらである.うーん,かなり下が厚いピラミッドじゃないか.先の図で示されているピラミッドには程遠い.

思い切って横軸を対数軸にしてみた.

いかがだろうか?こちらであれば,先のピラミッドと整合しそうだ.まさかの対数目盛りだったのか?

あまり意義は感じないながら,総保有額でも比較してみた(横軸の単位は「兆円」).

若干いびつではあるが,この比率であれば,先のピラミッドと乖離しているとも言い難い.うーん,そういうこと?しかし,なんだろう,もやもやする.ミスリーディングであることには間違いないよなあ.

2024年5月11日土曜日

皆さんのレポートを読んでの諸注意

以下は新入生が提出したレポートに対するフィードバックである.段落先頭の字下げや行間の問題はこのブログの設定に当てはまらないので忸怩たるところがないこともないが,学生に配ったフィードバックレポートそのものは,ワードプロセッサで作成した適切な文書で配布したことを補足しておこう.

(フィードバックここから)

皆さんが提出したレポートを読んで,気付いたことを述べる.自分が提出したレポートを以下の指摘と照らし合わせ,以下の項目に当てはまるひとは,次回から,注意しよう.なお,皆さんの書いてきた内容はどれも面白く拝読した.

1. 文体

レポートや論文は「ですます調」(「〜です / 〜ます」で終わっているような文)で書かない.「である調」で書くこと.また,口語と文語を区別すること.「こういった」や「そんな」というような書き振りは口語であってかしこまった文章には使うべきではない(SNSなどに書き散らかしている文章はその限りではないが,きちんと区別すること).

2. 全体の体裁

行間を適切な設定にする.通常,ワープロソフトの標準設定で使えば問題ないはず.無闇に行間を空けたり詰めたりしないこと.

「両端揃え」にすること.左側が揃っていない人はいないが,右側がガタガタになっているのはみっともない.下記のように指定して両側をきちんと揃えること.ワープロの機能は正しく使おう. 


3. 段落の取り扱い

「段落」というものを全く意識しておらず,改行が一切ない(!)レポートを提出したひとが何名かいた.文章は,意味のまとまりごとに段落に分けること.この文書も参考にせよ.この文書では,段落に分けるだけでなく,見出しも活用している.違う意味の内容を述べているかたまりは,ひとつの段落で表現すること.だらだらと書き連ねればよいというものではない.段落の長さは,目安として4〜5行くらいが妥当である.

段落の先頭は「一字下げる」.小学校で習ったはずである.せっかくなので,ワープロの機能をきちんと使って,次のような設定を用いて字下げを行うこと.空白文字で字下げをするのは不適切である(なぜか.考えてみよ).


4. 断定的記述

レポートや論文では,「断定」すること.「〜と思う」「〜と考える」などの表現は使ってはいけない.なぜならば,レポートはその書き手が考えたこと,思ったことを記述して報告するものであるから,そもそも「〜と思う」「〜と考える」という表現は「無駄」だからである.

断定するためには勇気が必要である.勇気を持って断定的に書き切るためにはその根拠が必要であり,そのために十分な調査やデータ分析,実験の実施などが求められる.そのことを肝に念じておいてほしい.

(ここまで)

2024年4月30日火曜日

メタバースに感じる違和感の正体

メタバース関連の研究にも参加しているのであまり大っぴらに批判はできないのだが,メタバース?セカンドライフの顛末を忘れたのか?と指摘しているくらいはメタバースに対して懐疑的な立場をとっている.

それはそれとして,メタバースに関していつもなんとなく違和感を感じていたその正体に,今日,気が付いてしまった.それは,SNSに出ていた次の広告を見たからである.

ここに,3人のアバターが存在している.しかし,何かおかしくないだろうか?3人が3人とも,そっぽを向いている.現実の空間で,こんな状況,ある?

しかもそれぞれが,見えない誰かとコミュニケーションをとっているようなそぶりを見せている.怖ぇよ.

というわけで,いくら高解像度なVRの世界が実現されたとしても,このような状況を発生させないようにしなければ,そこには不気味の谷が横たわるだけというお寒い状況になるだろう.逆にいえば,2人以上のアバターが同じ空間に出現したときに,強制的に面と向かわせるような仕様にすれば,この状況は改善されるだろう.

誰かそんな研究してみない?

2024年4月8日月曜日

ハノイメトロの不思議

FossASIA 2024に参加するために久しぶりにベトナムはハノイを訪れた.以前,ハノイは仕事でよく訪れていた街だし,なにより東南アジアで最初に訪れた街でもあるので思い入れがある.いまからおよそ20年前,2003年に初めて訪れたハノイ,東南アジア初心者にありがちな,腹をくだしてトイレに篭りっぱなしになったのも今では懐かしい.

さて,今回10数年ぶりに訪れたハノイの街は,ずいぶんと近代化していて驚いた.ノイバイ空港からの道は片側3〜4車線の立派なハイウェイになっており,ソンホン川を渡る橋も巨大なものができていた.夜中でしかも雨が降っていたのでよくわからなかったが,地図をみると,昔よく利用していた空港からの道路の東側に,近代的な高速道路が作られていたらしい.

昔は橋を渡ってから川沿いの細い道をタイ湖に向かって延々と走ってきたものだったが,いまや市内まで幅広い高架道路が通っている.さすがにバイパスを降りてダウンタウンの中心部まで来ると道も細くなり,なんとなく昔からの街を彷彿とさせる様子ではあったが,それでも,中心部から郊外に向けて高架鉄道が営業しているまでに近代化しており,10年という歳月の長さを感じさせる.

ホーチミン市のメトロはいつまでたっても完成せず,まるでサグラダファミリアの様相を呈しているが,そんな状況を尻目にハノイでは近郊電車,Hanoi Metroが2021年から動き始めた.今回の会場は路線沿線にあるPosts and Telecommunications Institute of Technologyという大学である.Hanoi Metro 2号線が便利だというので,今回は,ダウンタウン側の終点であるカトリン駅近くに宿をとった.

さて,今朝,チケットの購入にやや苦労しながらもなんとかカトリンからメトロに乗って会場まで辿り着いたのだが,驚くべきなのはその路線図である(図.Hanoi MetroのWebサイトより).

下の写真は駅構内に掲げられていたもの.

Wikipediaの記事によれば,いまは2号線と3号線しか営業していないはず.この複雑な路線図は何だ?Hanoi MetroのWebサイトにも,たくさんの路線による立派な路線図が描かれている.

なんかこれ既視感あるなーと,思い出したのはやはり20年前近くに訪れた北京や上海で見かけた地下鉄の路線図である.最近はどちらも訪れていないので現在の状況はわからないが,当時は4〜5本程度の路線しか営業していなかったように記憶している.ところが,当時からずいぶんと立派で複雑な路線図が掲げられていた.その路線図は,計画中の路線まで含めての路線図だった.しかし,全ての路線がさも営業しているように描かれていて,今回の路線図もまさにそれ.

その中国の路線図,図に描かれている情報を信じて地下鉄に乗って郊外に向かうと,路線図上では延伸しているはずの目的地まで線路がつながっていないなんてこともあり,はてさてどうしたものかと途方に暮れたことを思い出す.日本人の感覚からしたら「できてるところだけ線をひけよ!せめて建設中だったり計画中だったりするなら,点線で描いとけよ!」と思ったものである.

ベトナムは中国に隣接しており,当然ながら中国の影響は強い.これって中華の発想なのかな……などと,Hanoi Metroに揺られながら考えた.

2024年3月28日木曜日

習慣を変え「させる」ことの難しさ

前から気になっていたことがある.京急の羽田空港第1・第2ターミナル駅で,JAL側の改札に上がるエスカレーターでの人々の行動である.

次の写真を見ていただきたい.左側の2列が上りのエスカレーターである.エスカレーターの左側に並ぶ列ができており,右側には誰も乗っていない.首都圏の駅や公共の建物でよく見かける光景である.右と左が逆になるが,関西圏でも似たような光景は随所で見られるだろう.

エスカレーター手前の床に着目していただきたい.上の写真では分かりにくいかと思い,人の流れが途絶えたところで,再度,撮影したものが次の写真である.「歩かずに2列でご利用ください」とあるのがお分かりだろうか.

ここを通る皆さんの目に,この注意書きが入っているのかどうかは分からない.エスカレーターの片側を空けずに2列で詰めて並んだほうが,このように1列で並んで片側を「誰も使わない」場合よりは効率がよいことは火を見るより明らかである.

なお,片側を「間を空けずに」歩いて上る人たちで埋められれば「2列で詰めて並んだほうが,輸送効率が高い」という主張は間違いじゃないかと常々疑っているんだがまあその話はややこしくなるので置いておく(最も輸送効率が高くなるのは2列で詰め詰めになりながら皆で足並み揃えて歩いて上るという状況のはずである……さらに「走って上る」を許すとそれが最強となる).

なぜ注意は守られないのか

話がかなり脱線したので元に戻すと,「歩かずに2列でご利用ください」という注意喚起は最近いたるところでなされている.しかし,ついぞ,守られているのを見たことがない.なぜだろうか.

一つには,染み付いた習慣が考えられよう.長年培ってきた慣習は,そう簡単には変えられないのだ.

もう一つ,勇気を出して空いているほうに立って並んだとして,後ろから歩いて上ってきた人に邪魔者扱いされないだろうかという不安もあろう.歩いて上ってくる人は,ほぼ,急いでいる(健康のために歩いて上らんという人もいるかもしれないが).キッと睨みつけられて,ときとして罵倒されかねないと考えると,歩いて上ろうという人のほうが「指示を守っていない」とはいえ,反論するのも馬鹿馬鹿しいと人々が考えるのはいたって自然である.

エスカレーターに乗る行動を変えようとしているほう(この場合は,京急側)も,この問題に本気で取り組んでいるのか疑わしい状況もある.次の写真を見ていただきたい.

注意喚起の表示を床にした後に,下り側のリノベーション作業をしたのだろうか.まるっきり意味が分からない状態になってしまっている.これではダメだろう.

どうするのがよいのか

高速道路で右に左に車線変更を繰り返して遅い車を追い抜いたとしても,目的地に着く時間は10分も変わらない,などという指摘もある.安全のためにのんびりいこうや,というのは正論,ではあるが,急いでいる人,焦っている人にその理屈は通用しない.

エスカレーターを歩いて上っている人がいたらドリフのコントのように上から金タライが落ちてくるとか,まあ,それは冗談としても,警備員を配して公衆の面前で注意を促すとか,「エスカレーターでは歩かないで2列に並んで落ち着いて乗りましょう」とアナウンスを繰り返すとか,もう少し強い刺激を与えないと,この問題は解決しないのではなかろうか.

言葉を変えれば,この問題の解決に対する行政や施設側の本気度が問われているともいえよう.ある程度の変化,2列で立ち止まる人が3割くらいにもなれば,あとは自然に行動が変わっていくはずである.それまでは,考えている以上に強いドライビングフォースをかけねば,集団行動の変化は起こりにくい,そんなことを痛感した.

2024年3月16日土曜日

沖縄研修・2024春

飯尾研春の研究室旅行……ではなく国内調査実習ということで2・3年生総勢17名で沖縄に行きました.訪問先は,琉球大学の琉ラボ,沖縄科学技術大学院大学(OIST),沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)などです.

琉ラボでは,同ラボにおけるスタートアップ支援や起業等に関するレクチャーを受け,そのあと積極的な質疑応答が行われました.

OISTではその豪華な設備や森の中に突如現れるコミュニティに,まるでZootopia!と驚きました(私も開学前の準備期間に一度訪れたことがありますが,そのときからの変化にびっくり).

最終日,ISCO訪問では,那覇市職員の方による沖縄県経済やIT振興に関する説明,ISCO山田専務による観光DXの現状等に関する講義を受けたあと,活発な意見交換が行われました.

ISCO訪問のあと,夜の飛行機で帰京する前のちょっとしたエクスカーションとして,慶良間諸島のあたりまでホエールウォッチングに出かけました.大きなザトウクジラの親子に遭遇,何度も豪快なブリーチを繰り返してくれて,見応えがありました.

(NEWS staff 撮影)