2020年11月30日月曜日

オンラインイベント支援ツールOLiVESの評価

COVID-19パンデミックで世の中のイベントがおしなべてオンライン化したことを受けて,オンラインイベント支援ツールOLiVESを作成し,いくつかのイベントで活用した.今回は,HCD-Netが開催しているHCD研究発表会において,発表の評価を円滑に進めるツールとして効果的な活用ができたことを確認したので,それについて報告したい.

OLiVESの活用

OLiVESは,オンラインイベントだといろいろ制約があるのでそれらの課題を解決するために考えられたシステムである.その詳細に関しては(飯尾2021)で詳細に報告予定であるので,ここでは割愛する.今回は,(飯尾・辛島2020)で論じた「発表の評価を効率よく行うツール」としての機能に焦点を当てる.

まずは次の図をみていただきたい.OLiVESが通常提供するユーザ向け機能に加え,OLiVESにちょっとした仕掛けを入れて,評価者権限を持つアカウントでログインすると評価シートにアクセスできるリンクが現れるようにした.

評価シートはGoogle Formsで用意されているので,集計は自動的に行われる.これまで,オフラインの研究会では紙に印刷された評価シートに手書きで記入するという方法をとっていたため,すべての発表が終わった時点でスプレッドシートに急いで入力して集計するという作業が発生していた.そのため「特別講話」などよく分からないセッションを設け,集計のための時間稼ぎをしていたという苦労話がある.

OLiVESを使えば,その点はほぼ自動化されているので集計も瞬時で終わる.行わねばならない作業は,せいぜい,誤った入力がなされていないかをチェックするくらいなので,それほど時間がかかるものではない.もう,特別講話を用意する必要は,なくなった.

入力の手間も軽減

さらに,評価者が評価結果を入力する手間も軽減するための工夫が入れられている.

この図の左側はOLiVESのセッション情報画面である.右が評価シートのGoogle Forms画面.評価者氏名と評価対象の発表タイトルは,OLiVES側からそのまま情報が伝わるため,間違いも起こりにくくなっている.さらに,評価者は選択肢を選ぶだけなので,評価も簡単に終わる.なお,必要に応じて,コメントも書けるようになっている.このコメントは発表者に伝えてあげたほうがよいと思われるが,その部分の議論はまた別のお話.

評価状況の評価

すべてオンライン化されているので,当然ながら誰がどう評価したかのデータも残る.それを分析してみると,評価の状況がどうだったか,今後どういうことに気をつけるべきかという議論もできそうだ.

実際に分析してみるとこんな感じになる(数値部分は生々しいのでボカシを入れた).発表✕評価者の集計表(Excelのピボットテーブルにちょっとだけ細工したもの),数字は発表開始時刻から評価結果の登録までの時間間隔である.下に表示しているグラフは時間間隔に関するヒストグラムである.冬季研究発表会は午後だけ,春季研究発表会は終日という違いがあり,よく見てみるとその影響も数字に表れていることがわかる.

このようにちょいちょいと分析するだけで,いろいろなことがわかる.こういうオンライン化はどんどん進めるとよいだろうね.なお,ここで論じた機能はオンラインイベントに限った話ではなく通常の研究会等でも活用できるので,今後は毎回これを使おうということになっている.もし「使ってみたい」という方がいらっしゃったら,飯尾までご相談ください.

参考文献

  • 飯尾(2021)OLiVES:オンライン・バーチャルイベント支援システムの開発と運用, 中央大学国際情報学部紀要, No. 1 (印刷中)
  • 飯尾,辛島(2020)オンライン研究会のあり方について, 人間中心設計推進機構 2020年冬季HCD研究発表会, pp. 49-52.


2020年11月29日日曜日

HCD-Netフォーラム2020に参加して

11月27, 28日に開催されたHCD-Netフォーラム2020に参加した.社会情勢に鑑み今年はオンライン開催ということになったため,自宅からオンラインで参加ということになった.なお,金曜日はいろいろと別件と重なり,夕方の表彰式にしか参加できなかったのはちょっと残念.

作年まで実行委員として参加していたが,今年はその役目を担っていなかったので,少し,気楽な立場での参加であった.ただし,28日の午前中はパラレルセッション「HCDと倫理」でWGメンバとして2時間登壇する立場だったし,午後は研究発表会で,口頭発表こそなかったが2セッションめの座長を担当,さらにHCD-Net研究事業部副部長としての立場から全体の進行を司るということで,気を抜くことができなかった.ずっと座っていただけだが,だいぶ疲れたなあ.

パラレルセッション「HCDと倫理」

午前中の倫理のセッションでは,30分弱の枠を頂いていたので,会員を対象として事前に実施したアンケートの結果を紹介した.登壇者のプレゼン資料はどこかで公開することを検討しているらしいので,その結果は別途,紹介することもできるだろう.いずれにしても,アンケートに回答してくださった方々の意識は高く,ニッポンのHCD専門家はおしなべて真面目である(それをどう評価するかは別として)ということが如実に明らかになったことは確実に示された.

そもそも倫理観に欠けている私が倫理を語るなんてのはおこがましいにも程があると自覚しているが,そういう立場になっちゃったんだから仕方がない.まあ,知命を過ぎて,社会的責任を担わねばならんのかと覚悟はしているので,どうか皆さん助けてください……と,これは心からのお願い.

HCD研究発表会

昼休みが30分だけあったが,いろいろ運営側との連絡やら調整やらで時間が過ぎ,昼食をとることができないまま午後のHCD研究発表会に突入した.なお,その後,失礼かとは思いつつ発表を聞きながら昼食を頂いた.これも,オンライン開催のメリットといえばメリットなのだが,はたしてこれをメリットとして認めてよいやら?という疑念は残る.これも「倫理」の問題か?

個々の研究発表については,ここでは論じない.それぞれ,議論が深められて発表者の方々は気付きを持ち帰ることができたのではないかと期待するに留める.全体を通してみれば,いつもの対面発表のときと比べてみると,参加人数の割には質疑応答が盛り上がらなかったかなあという気もする.いつもはだいたいフロアから質問やコメントが出るが,今回は,座長が捻り出す状況が多かったような印象である.先の昼食の件と同様,オンラインは参加意識が希薄になるのではという疑問を持っているが,こんなところにもそれは現れているのかなあ.

HCD研究発表会の反省点

今回のチャレンジは,オンライン研究会ではポスターセッションをどう実現するかという課題に対するひとつの解としての「ビデオセッション」を用意したことである.結果としてポスターセッションの代替にはなり得なかったのは反省すべき点ではあるが,口頭発表に登壇して発表するよりは気楽に参加できるという意味で,学生の発表者を増やすという意義はあった.

ビデオセッションの問題点は,すべてのビデオを視聴するには時間が足りない,というところである.これは予め分かっていた課題だったので,ビデオの提出を早めにお願いし,参加者には事前に視聴しておいてもらったうえで,ビデオセッションの30分で,ビデオのコメント欄を利用して質疑応答してもらおうという建て付けで考えていた.

なにぶん新しい試みであり,参加者にその概念が周知できていなかった点も反省点であろう.参加者から匿名で募った事後の参加者アンケートでは,「ビデオ観てから参加せよと事前にアナウンスすべき」とその点を指摘する声もあった.まあ,こちらとしては,ちゃんと「ビデオ観てから参加してね!」とメールで事前にアナウンスはしていたので,メールの文面をきちんと読んでから参加してほしかった…… と反論するしかないのだが.その点をもっと強調すべきだったとか,何回も念を押すべきだったかとか,そのあたりは,次回もし,またビデオセッションをやるとしたら,それに対する改善項目ではある.

次回開催に向けて

研究発表の質が落ちているのでは?という指摘も頂いた.これについては業界全体の問題とも考えられ,我々としては自ら奮するとともに業界の底上げを目指すべく,さらに鼓舞する施策を検討していくことしかできないが,まあ,エールとして受け止めておきたい.

そして今後の開催に向けてとても参考になった反応は,オンラインと対面のハイブリッド開催を望む声が多数派だったという点である.この点については,今後,真摯に検討していくべき課題であると考える.この反応を得られただけでも,参加者アンケートの意義があったといえる.世の中の多くのイベントでは,これまで,なんとなく「形式的に」参加者アンケートを取っているような印象を受けていたが,我々はちゃんと今後に向けて意見を汲み取って今後の運営に反映させることをお約束する.アンケートに回答してくださった方に御礼申し上げます.



2020年11月25日水曜日

下手な言い訳はしないほうがマシ?

PPAPが,ようやく批判の対象として世間に認知されつつあるらしい.PPAPといってもピコ太郎のあれじゃなくて,「(P)パスワード付きZIP暗号化ファイルを送り、(P)パスワードを送る、(A)暗号化 (P)プロトコル」のこと.それに関するたいへん見苦しい言い訳を紹介している記事を見かけたので,ひと言コメントしておきたい.

ところで,代替案を提案しないで批判だけするのはけしからん,というご意見を頂いたので,私から提案する代替案は,「機微情報はしかるべき手段で送り,PPAPは即刻廃止(機微じゃない情報なんてパスワードいらんやろ)」である.

さて,記事で紹介されている「某先進なニッポンのIT企業(従業員2万人規模)」に問合せたPPAPを捨てられない理由の言い訳が,ちょっと見てらんないほど酷い.真面目に考えた結果がこれだとしたら,「先進どころか悲劇的」ですらあろうよ?

さて,全文は記事を読んで頂くとして,1〜4のポイントで回答されているすべてにツッコミを入れる.なお,下記の見出しは私が考えたわけじゃなくて,その回答に記載されていたものなのであしからず.

1. 技術的見解

「若干の時間間隔をあけて開封パスワードを別送する仕組み」だから「別送信されるパスワード通知メールも同時に奪取されることは起こりえず,一定のセキュリティー効果が期待できる」し「受信側が誤って転送した場合の情報漏洩防止や,発信者が誤送信に気づいた場合,パスワード送信前に訂正・取消できるなど,副次的な効果も存在」するんだって!

この言い訳が通用するほどの時間差(何分?人間が訂正できるっていうくらいだから,まさか数秒じゃないよね?)でパスワード送ってくる運用してるところって,見たことないんだけど.だいたい,セットでメールを送ってこない?できるならやってから言い訳しなさいよ.これは言い訳としてもあまりにも酷い.

2. 国内諸資格関連制度への対応

「個人情報関連資格を中心に,メール添付ファイルへのパスワード運用が要件となる場合がある」そうな.

そういう資格自体がアホなんじゃないの?「この資格要件はアホですよ」と適切に主張しているのを寡聞にして聞いたことがない.私の勉強不足なんでしょうか.そんなんだとアホな資格を崇めたてるアホな企業というレッテル貼られちゃわない?

3. 企業としてのスタンス

「本施策をやめることは,効果の有無とは無関係に企業イメージ棄損につながることが予想される」っていう言い訳も同じだよね.アホな施策を続けているという悪いレピュテーション集めちゃうよ?

4.その他

これすごく重要な言い訳なので,全文を引用する(句読点だけ変えた).

極秘情報・関係者外秘情報は,リスクを伴うメール送信は基本的に利用せず,専用のファイル・サーバーやオンライン・ストレージサービスの利用を推奨しており,メールへの添付は代替手段である.その為,特に顧客等から依頼・要求が出た場合には,上記への切替を,システム部門としても推奨・支援する次第である.

だから機微情報はそういう対応すればいいんであって,ちゃんと分かってるんならそれを徹底すればいいじゃん.ほんでメール添付はPPAPやめていいっていう理屈にならない?「『飲み会のお知らせ』をパスワード付きで送ってくんなよ,面倒くさいなあ」っていう結論に至る.



2020年11月23日月曜日

グラフ項目の並び順が逆でイライラさせられる問題への対処法

 エクセルのグラフ機能は便利なのだが,表の項目とグラフの項目,並び順がいつも逆になってしまうのでイライラさせられていた.その修正方法を教えていただいので,メモがてら,以下に記録しておく.

並び順が逆になってしまうとは,つまりこういうこと.まずは例を見ていただきたい.

表では,項目1,項目2,項目3の順番で上から並んでいるにも関わらず,グラフでは下から並んでいる.これは,どうも「軸から順番に並べる」というExcelの仕様らしいのだが,いかんせん,気持ち悪い.

並び順が逆になっていることを解決する方法として,「軸の書式設定」でなんとかする方法がある.グラフの軸上でコンテキストメニューを出し,軸の書式設定を選択する.そのなかで「軸を反転する」という項目があるので,そこにチェックを入れる.

そこにチェックを入れると,グラフの項目が上下ひっくり返しになり,表とグラフで項目の並び順が揃う.めでたしめでたし…… というわけにいかないのが厄介なところ.軸を反転すると,横軸の位置までひっくり返ってしまい,横軸の目盛りが上に来てしまうのだ.

これを下に戻すために,「横軸との交点」という項目を「最大項目」に変更する.そうすると,望んでいたようなグラフができあがる.これでやっと,欲しいグラフとすることができた.

アンケート集計の手順(MS Excel編)

アンケートの選択肢をピボットテーブルでグラフにする手順です.


アンケート結果を開いて「ピボットテーブル」をクリック,そのまま新しいシートにテーブルを作ります.

集計したいデータにチェックを入れましょう.ここでは「あなたの職業」ごとに「タイムスタンプ」(このデータはすべての項目に含まれているので,これを使いましたが,IDとかNoとか,なんでも良いはず)を集計します.

集計されたテーブルが自動で現れます.グラフを描画するときは「ピボットグラフ」をクリックしましょう.

グラフ化されます.

あとは煮るなり焼くなりお好きなように.

円グラフにしてみました.

クロス集計も簡単にできます.

2020年11月21日土曜日

試験会場でウイルスが蔓延りたいへんだった話

もう何年も前の話なので昔話として語ってもよいかな.大規模私立大学にはよくある制度なのだと思うが,地方で同時に入試を行う「地方入試」という制度がある.その年,私は地方入試担当者の責務が与えられ,宮城県は仙台会場の責任者として杜の都に1週間,滞在した.

試験会場責任者といっても,何かあったときに管理責任を取る立場であって実際の試験監督業務を行うわけではない.試験会場のバックエンドで待機して,試験問題用紙の搬入や解答用紙の搬出などに目を光らせればよいというくらいのものだ.何かあったら陣頭指揮を取らねばない立場だが,何事もなくつつがなく業務が過ぎていけば,それに越したことはない.なお,入試関連書類の取扱いはそれはもう厳重に行われている.セキュリティ会社の面目躍如というところである.

事件の発生

さて,月曜日から入試が始まり,順調に,入試日程が過ぎていった.異変が生じたのは,木曜日の夜である.東京から出張組の二人とともに,いつものように業務の振り返りや反省などしながら夕食を共にしていたのだが,どうにも食欲が出ない.適当なところで切り上げて,ホテルの自室に引き上げたわけだが,そのあとがたいへんだった(体調の異変はバレてないつもりだったが,あとから同席していた二人に聞いたところによれば「途中からパッタリとビールが止まって寡黙になられたので,変だなと感じました」だそうだ).詳細は省くが,夜中に七転八倒,トイレに1時間籠もり,嘔吐下痢という状況でエライ目に遭った.

翌朝,ほうほうのていで試験会場に向かうと,どうもバタバタと騒がしい.それはそうだろう.食中毒が発生していたのだから.体調が悪くなったのは私だけではなく,試験監督業務を依頼している現地スタッフの多くで体調不良が発生し,その日の試験実施が危うくなっているという危機である.

その後の展開

その後の経緯を説明すると,試験監督スタッフについては地元および東京から応援が入り,なんとか試験はつつがなく遂行することができた.緊急対応体制がきちんと機能していて,その点は素晴らしい対応であったと評価できよう.なお,先に述べたように「何かあったらテキパキと陣頭指揮をとるべき」はずの私がそもそもヘバッていてほぼ何もできなかった点は,まったくもってお恥ずかしい限り.「先生はそこでOS-1飲んで休んでてください」というスタッフの配慮に甘えてしまった(まあ,それだけ私自身が機能不全だったということで,ご容赦願いたい).

そんなわけで,私はもうどうしようもなかったのだが,待機していた医療スタッフの見立てによれば,「おそらくノロウイルスですねえ.潜伏期間を考慮すると,水曜日のお弁当が怪しいでしょう」とのこと.たしかに,水曜日にいただいたお弁当には地元仙台らしく「牡蠣のマリネ」が入っていて,美味しく頂いた覚えがある.「ぼく牡蠣ニガテなんで」「私も食べませんでした」とは,ピンピンしていた東京出張組の二人による証言である.BINGO!それに違いない.

保健所に連絡して,その後はあれやこれやといろいろな手続きが行われた.これもめったに体験できない貴重な経験ではあったが,もう一度やりたいかと問われれば「No」である.二度とゴメンだ.そのような手続きを経て最終的にその弁当が原因であったらしいという結論に至った.弁当業者は1日だけ営業停止になったと聞いている(その日,仕入先の松島で同様のノロウイルス事件があったとか).まあ,自然災害に近いものなので,致し方ない話ではある.罹患したのが運営側だけであり,受験生に被害が及ばなかった点は不幸中の幸いであった.



2020年11月19日木曜日

トレンド分析から分かること

 Twitterのトレンドを分析するといろいろ面白いことが分かるのだが,2019年1月1日から毎日欠かさず分析を続けてきて最も興味深かった分析結果は,やはり2019年4月末から5月頭にかけてのトピックマップ分析であろう.


この図はその週のトピックマップを時系列で並べたものである.通常,このような極端にサイズの大きなクラスタは生成され得ない.これは,4月30日には東京のTwitter民はほぼ「平成最後の〇〇」という話題に言及していたということを表しており,翌5月1日には「令和最初の〇〇」について言及していたという結果を示している.国民的話題というか,ここまで話題が集中したケースは2年間弱の観測期間中でこのときだけであり,元号が変わる,ということがいかに国民の関心を示した話題であったかということが,図で示すことによって一目瞭然となった.

もっとも,国民的関心といえば今年はCOVID-19の話題かもしれない.ただし,この話題は年間を通してだらだらと「もう飽きた」というほど続いている.したがって,このような集中的なクラスタにはなりにくい話題である.いわば,元号の変化という話題は1点集中型の「圧力が高い」話題であり,COVID-19のようなジワジワ型の話題は分散型の話題という形態の差である.そのため,その絶対的な大きさについては,本分析手法では,残念ながら比較することはできない.

次のこのグラフは,トピックマップに現れたクラスタの大きさを集計してヒストグラムにしたものである.縦軸が対数目盛になっている点に注意されたい.対数目盛で直線的に減少しているということは,クラスタのサイズに対して指数関数的に数は少なくなっているということである.それはそのとおりであろう.大きなクラスタは滅多に現れない.一方で,小さなクラスタは日々,観測されている.これは自然の現象としてしごく妥当なものと考えられる.

2020年11月18日水曜日

異文化交流の楽しさ

「日本語が通じない高校生と話そうプロジェクト」については本欄でも何回か紹介してきた.今朝も,日本(Chiba)と台湾(Takao)を結んだセッションが行われた.プロジェクトも終盤に近づいてきたかなといったところだが,最後まで丁寧に対応して,まずはパイロットプロジェクトとして成功裏に終わらせたい.

ノウハウの積み重ねによる「よい経験」の提供

今回は機器や回線のトラブルがほとんど発生せず,生徒たちからのフィードバックにはgreat fun!という感想が溢れていた.まさに我々も「したり!」と手を打ったところである.

生徒たちの話している様子に聞き耳を立てていると,やはり,アニメの話題は強い.とくに最近では鬼滅の刃であろうか.私はそのあたり疎いのだが,What character in Kimetsu no Yaiba do you like? などという話題で盛り上がっていたのを見ると,微笑ましくなる.

台湾側の様子を見ていたら,台湾の学校の生徒が胸に名札を付けていた(写真).このプロジェクト用に,特別に作ってくれたものらしい.このようなちょっとした工夫がコミュニケーションを円滑にする.Hello, how are you? What's your name? といった挨拶から始まる会話を補強するちょっとした工夫だが,こういった細かなノウハウの積み重ねが成功の秘訣だなあと感じた.

なぜ異文化交流が必要なのか?

自画自賛ではあるが,今回のプロジェクトに参加した高校生たちは恵まれているといえよう.なるべくお金をかけずに,こんな経験をできる機会なんて,そうないのだから.まあ,できるだけ低額でこういった体験を年齢の低いうちから体験できるように,全国・全世界に向けて普及させていこうという我々の試みが間違っていないという感触を得ただけでも,今回のパイロットプロジェクトはほぼ成功したのではないかと考えている(なので,来年度以降に本プロジェクトに参加を希望する高校があれば,ぜひ,ご連絡くださいね!)

生徒たちが楽しそうに交流を深めているところをみていると,自分の世界が少しでも拡がっているという感触を得ている様子がよくわかる.これは日本の高校生に閉じた話ではなく,台湾側の様子を見ていても同様である.おそらく,台湾でなくとも,他の国でも同様の反応を示すことだろう(それを,今後,きちんと検証していく予定である).

社会がグローバル化していることに反論の余地はない.COVID-19で制限が加えられたとはいえ,それも一過性のものであろう(と,これは楽観的希望ではあるが……).英語を用いて他の国や地域の人と会話をする,それを英会話教育という狭隘な枠組みで捉えるのはもったいない.異文化に直に触れること,異文化から自分たちがどう見られるかを直接感じ,想像すること,そういった楽しさを知ることが,最も大切な意識なのだ.


2020年11月17日火曜日

GiNZAを用いた自由回答データの可視化

GiNZAという日本語処理ツールを使うと,アンケートの自由回答みたいなものも簡単に可視化して示すことができるので助かる.たとえばこんな感じである(図).これはアンケートの結果で得られた自由回答から名詞句を抽出し,単語ベクトル化したうえでPCAをかけて低次元化し,2次元の図としてプロットしたものだ.

こうやって可視化すると,なんとなく傾向が見えてくる.図の下のほうにはキャンセルに関連した記述が現れているし,右のほうには会員登録や退会,会員制ウェブサイトの登録に関する話題が現れていることを確認できる.図の上のほうに現れている話題は組織や企業に関するもののようだ…… という具合.

元データはこんなデータである.あるアンケートの自由回答から名詞句を抽出したものだ(この抽出もGiNZAを使ってできるが,今回は割愛する).

広告プラットフォーマー

時間ロス

結局意味

ショッピングサイト

学生支援システムサイト

一定時間経過

最終登録

データ保存時

全て白紙

情報デザイン

行動経済学

全てキャンセル

全て返品

ソーシャル関連サービス

新機能追加

...

これ(たとえばkeywords.txtというファイルとする)を次のスクリプト(plot.pyとする)で処理(コマンドライン上で $ ./plot.py keywords.txt)すると,先の図が表示される,という仕掛け.インタラクティブに拡大して確認することもできるので,便利に使える.

#!/usr/bin/env python


import sys

import numpy as np

import matplotlib.pyplot as plt

from sklearn.decomposition import PCA

import spacy


from matplotlib import rcParams

rcParams['font.family'] = 'sans-serif'

rcParams['font.sans-serif'] = ['Hiragino Maru Gothic Pro'

    'Yu Gothic', 'Meirio', 'Takao', 'IPAexGothic', 'IPAPGothic'

    'VL PGothic', 'Noto Sans CJK JP']


nlp = spacy.load('ja_ginza')


with open(sys.argv[1]) as f:

  texts = [s.strip() for s in f.readlines()]


vectors = [nlp(t).vector for t in texts]


pca = PCA(n_components=2).fit(vectors)

trans = pca.fit_transform(vectors)

pc_ratio = pca.explained_variance_ratio_


plt.figure()

plt.scatter(trans[:,0], trans[:,1])


i = 0

for txt in texts:

  plt.text(trans[i,0]+0.02, trans[i,1]-0.02, txt)

  i += 1


plt.hlines(0, min(trans[:,0]), max(trans[:,0]), 

            linestyle='dashed', linewidth=1)

plt.vlines(0, min(trans[:,1]), max(trans[:,1]), 

            linestyle='dashed', linewidth=1)

plt.xlabel('PC1 ('+str(round(pc_ratio[0]*100,2))+'%)')

plt.ylabel('PC2 ('+str(round(pc_ratio[1]*100,2))+'%)')

plt.tight_layout()

plt.show()

※ 最後のプログラム部分は「【初心者向け】自然言語処理ツール「GiNZA」を用いた言語解析(形態素解析からベクトル化まで)」に記載されていたものを大いに参考にしました.ありがとうございます.

2020年11月15日日曜日

「にこP」順調に進行中

以前,本欄でも紹介した「日本語が通じない高校生と話そうプロジェクト」,通称「にこP」も1回め,2回めの交流が行われ,高校生たちに異文化交流の楽しさを体験させる試みが進んでいる.


図は,1回めの交流が終わった時点で,プロジェクトに参加している4校(2組4校で実施している)においてオンライン交流セッションを体験した高校生からフィードバックを集めた結果をグラフ化したものだ.一部,質問が欠けていて集計できていないところはご容赦いただきたい.いずれの設問も,「たいへんよくできた(3)」から,「できなかった(0)」までの4段階評価で集計したものについて,平均値を取ったものである.

最下段の黄色で示されている,市原中央高校がおしなべて高いスコアを叩き出しているのは,国際交流クラスの生徒という,ややバイアスがかかっている点があるかもしれない.しかし,それはともかくとして,いずれの高校においても,「Did you enjoy the group activities?」という設問に対して高い値の答えが得られている点は,注目に値する(図の赤で囲った部分).試みとして,「とにかく異文化交流の楽しさを伝えたい」という我々の狙いは見事に叶えられたといって過言ではないだろう.

一方で,プロジェクトを遂行してみるといろいろとトラブルや課題が多数出てきた.それらはいまのところはノウハウとして貯めているところではあるが,分析したうえで解決策を検討し,今後の実施をより円滑にすべく考えている.ぜひ,「にこP」の今後に注目いただきたい.

2020年11月12日木曜日

RWC2020のプログラムが決まりました

RWC2020のプログラムが公開されました.Ruby World Conference 2020です(「Real World Computingじゃないよ」ってこの冗談が通じるオッサンどのくらい居るかしら).冗談はさておきMatzの基調講演,Ruby Prizeの表彰?に続いて一般講演のトップバッターという栄えある栄誉をいただきました.

講演の詳細はプログラムから中身をみていただくとして,中央大学で取り組んでいるAI・データサイエンス教育のなかでRubyをどう使っているかというお話をするつもりでしたが前半の「うちではこんな面白い研究を(主に)Railsで実装したWebアプリを使ってやってるよ」という話を喋りすぎました.最近の飯尾がどんな変なことをやっているのかをよくご存知の皆さんには退屈かもしれませんが,私をよく知らない皆さんや,最近ご無沙汰されている皆さんには,ちょっと興味深い話をご紹介できるかな?

バナーも貼っときますねー(頂いたので……)



2020年11月9日月曜日

オンオフ併用でお困りですか

「オンライン講義と対面講義,併用して学生に選ばせればいいじゃないか,学生に選択の自由を与えよう」という声は,一見,正しいように聞こえる.しかし,オンライン講義と対面講義の併用っていうけれど,そんなに簡単に実現できるもんじゃないよ,ということについては,このブログでも過去に述べてきた.

また,実際に併用を強いられたことを逆手に取って,反転授業方式を取り入れることにした.という報告もした.

そしてその反転授業方式は,いまのところ,うまくいっているようにみえる(結果としてどうだったかは,また,学期の終了後に,報告することにしたい).

ブログのアクセス状況を調べてみたら,やはり,「オンライン 対面 併用」というようなキーワードで飛んでくるひとが多いということがわかった.皆さん,困っているんだろうなあということが伺える.

なお,これは「クリックされた回数」が多いベスト10である.「表示された回数」でソートしなおすと,次のようになる.(たしかに四半世紀前を振り返ると卒研のプログラムはLISPで書いたけど)私はLispやPrologの専門家というわけではないが,しばらく「人工知能論」という講義を担当していて,その講義資料を長いこと置いていたからだろうなあ.


なかなか興味深い現象ではある.

2020年11月5日木曜日

SNSを新聞代わりにできるか?

TWtrendsというシステムを開発し,2018年の正月から運用を続けている.Twitterの「トレンド」を可視化してひと目で分かるようにしようというシステムである.SNSで話題になっていることは社会の鏡になっているのではないか?という仮説に基づき,毎日提供されているトレンドの傾向を可視化すればそれを確認できるのではないかと考えたものだ.

新聞代わりにはならない

結論からいうと,「予想したほどではない」というところ.たとえば次の図は2020年11月4日の東京のトレンド群から作成したトピックマップで,予想通り米大統領選挙が話題になっていたことがわかる(中心部にナナメに置かれている薄緑色のグループがそれに相当している)が,話題の大きさだけにもう少し大きなクラスタになると考えていた予想は外れた.

2年間と半年ほど運用を続けてきて,週末には必ず競馬の話題やニチアサ(仮面ライダーや戦隊シリーズ,プリキュアなどのTV番組)の話題で盛り上がるとか,芸能人のゴシップ,有名人の訃報は話題になりがちとか,元号が変わった瞬間は異常なほどその話題が集中したとか,いくつか興味深い性質を確認することができた.しかし,社会の鏡になっているか?と問われれば,かなりバイアスがかかっていると判断せざるを得ない.

より詳しくは,既報の「SNSは世論の代弁者たりえるか?」(飯尾2020)も参照していただきたいところだが,いま何が話題になってる?という参考にはできても,新聞代わりにすることは少し無理があるかな?という印象である.毎朝このトピックマップをFacebookに投稿していたら「毎日,楽しみにしています」と感想をいただいたこともある.話題のネタにはちょうどよい,かもしれない.

補足情報

システムの構成や原理については論文(Iio 2019)やシェルスクリプトマガジンに連載中の「バーティカルバーの極意」で解説を加えているので,そこに興味がある人はその記事も参考にしてほしい.連載中の4回を使って解説している(現在校正中の次号の記事で完結予定).

参考文献

2020年11月2日月曜日

オンライン講義化の副作用

「副作用」といっても悪い意味は含まない.いわゆるソフトウェア工学でいうところの「副作用(side effect)」であって,日本語で一般に使われる悪い意味でのニュアンスは持たない.いや,どちらかというと,よい効果があったと好意的に受け止めるべきかもしれない.

発端はこの記事

発端は毎日新聞の「オンライン授業は『悪』なのか 対面授業5割未満の大学名公表の波紋」という記事である(リンクおよび図).この記事ではオンライン講義化のメリットを指摘するアンケート結果として,次のようなものが紹介されていた.

理解度が改善した理由について,教員を対象としたアンケートでは,事前に資料をオンラインで提供したことで学生が板書を写す作業から解放され,内容の理解に集中できた可能性などが指摘されている.

いや,ちょっと待ってほしい.「事前に資料をオンラインで提供したこと」がオンライン講義化なら,そんなのずっと昔からやってるってば!

昨年までの私に「オンライン講義を実施している」なんていう意識は一切なかったが.

大学教育の底上げがはかられた?

当該新聞記事を肯定的に読んでみよう.レッツ・ポジティブシンキング.講義のオンライン化が強制されたことで,これまでの対面の講義では「資料を事前に準備してオンラインで提供する」というようなひと手間をかけていなかった教員が,その手間を掛けざるを得なくなった.その意味では,これも間接的なオンライン化のメリットなのかもしれない.

振り返ってみれば,「資料提示型」と呼ばれる,とにかく資料をLMSに上げるだけやっておいて,あとは学生に自習を促すタイプのオンライン講義も,4月の当初は許されていた.これは「急にオンライン講義って言われても,対応できないよ」というITにあまり強くない教員を救済する措置という意味があった(少なくとも私の知る範囲ではそのような雰囲気であった).しかし「これはあまりに教員の手抜きだ」という学生からの苦情が相次ぎ,その形態は認められなくなった(未だに認められている大学はあるかもしれない.そのへんは各大学の状況によるだろう).

いずれにしても,そのような緩衝期間,移行期間を経て,「資料を事前に準備してオンラインで提供する」さらには「動画や音声で解説する」「オンラインミーティングツールを用いて双方向オンライン講義を提供する」という段階にオンライン教育環境が,教員側の対応としても整備されていったことは,事実として理解してほしいところではある.

さらに願わくば,今回の騒動が落ち着いて,従来型に戻ったとしても,今回の経験を活かして教育の質がさらに向上することを期待したい.少なくとも自分としては,今回たくさん作成した講義動画が資産になり,反転講義にチャレンジできるようになった.その他の効用もあった.副作用万歳といったところである.