2024年12月28日土曜日

2024年の出来事を振り返る

年の瀬も押し迫ってきた.今年の10大ニュースはなんだろう?

第10位:大きな買い物

1月にビックカメラで大きな買い物をした.リビングのTVが壊れたので65インチの大きなTVを購入,ついでに7年使ったiPhone 7を(当時)最新版だったiPhone 15 Proに更新した.店員さんに「あー,7年もお使いになっていたんですねー.物持ちがよいですね」と褒められたのもよい想い出.

第9位:Duolingo

今年,とうとうDuolingoに手を出してしまった.課金はしていない.でも韓国語をずいぶん勉強できたのでそれはよかったかな.まあしかし,よくできたアプリだと感心した.저는 한국어를 공부하고 있어요. 감사합니다.

第8位:老眼鏡

歳には抗えないもんですなあ.老眼がかなり進行して抗えなくなってきたので,Zoffでちゃんとした老眼鏡を誂えた.これまでメガネには縁のない人生を送ってきたのだけれど,いまや老眼鏡がなければ集中した作業ができなくなってしまった.これもまた人生.

第7位:CW研究会の離島開催

COVID-19になる前に,一度,石垣島でCW研を開催したことがあった.そのときは参加者がいつもより増えて盛況だったので,今年は3月の年度末も押し迫ったタイミングで宮古島で開催し,調子にのって12月の開催も久米島で行った.いずれもとてもよかった.しょっちゅう離島でやるわけにもいかないけれど,たまにはよいよね.

第6位:論文賞(選奨論文)

情報処理学会の英文論文誌JIPに掲載してもらったペーパー「An Evaluation of the Flipped Classroom Approach Toward Programming Education」が選奨論文(Specially Selected Paper)として指定された.いわゆる論文賞に準じる栄誉としてありがたく受け取った.ありがとうございます.

第5位:HCD-Netの研究活動活性化

研究事業担当理事として参画しているHCD-Netが今年は例年にない盛り上がりを見せた.悲願であった日本学術会議協力学術団体としての認定を受け,学会として認められた件が大きいが,それに伴い年に2度開催している研究発表会の発表件数や論文投稿数も右肩上がりの躍進を見せている.よいことだ.

第4位:国際会議SPICEの開催

研究活動も本格的に国際展開が軌道に乗り始め,今年の2月には台湾の高雄師範大学(NKNU)で国際会議SPICE2024を開催した.来年の2月にはインドネシアのジョグジャカルタ,ガジャマダ大学でSPICE2025を開催予定である.他にも懸案だったHCIIのオーガナイズドセッションをなんとか来年は成立させられそうで,いずれにしても皆さんのご協力あってこそ.有り難い限り.

第3位:技術士の試験委員

情報処理技術者の試験委員やってるからコンフリクトするんじゃない?と逃げ回っていた技術士の試験委員が「両方やってるひといますから大丈夫です」の一言で,今年,とうとう担当させられることになった.貴重な経験ではあるけれど,負担は大きい.しばらくご奉仕せよということか.

第2位:多数の研究発表

第2位と第1位はいつもどおりの感じかな.硬軟取り混ぜて今年度も飯尾研から30件以上の論文・学会発表があった(発表決定済みの予定を含む).今年は学部生の国際会議の発表は1件だけだったけれど,学部としては盛り上がりを見せているようでそれはそれで素晴らしいことである.いずれにしても研究活動が活発化してよいことですな.

第1位:海外活動

今年もあちこちに出かけていろいろな活動をした.台湾に4回,ベトナムと韓国,タイにそれぞれ2回ずつ,インドネシアに1回,フランスに1回.ほぼ月イチのペースでどこかに出かけていたことになる.学生たちを引率して出かけたベトナムと台湾でもなかなかよい経験をした.国際情報学部の名のもとで国際的な活動ができているのは素晴らしいことだろう.

2024年12月10日火曜日

例外は必ずある

以前,visit japan webの意義について論じたことがあった.最近はようやく電子化ゲートの運用が軌道にのったのか,紙での申請には行列ができている一方で,電子申請のゲートはスムースに通れるという,あるべき姿になってきているような印象がある.

まあ,場合によってはキオスクに行列ができていて紙のほうが早いという状況も稀にあるようだが.イラチな人は,紙申請と電子申請の両方を用意しておき,早そうだ!と思うほうを利用すればよい.選択肢があることは良いことだ.

ところで,DX時代の現代では,電子化,システム化は必須の流れでありそれに意を唱えるものではない.しかし,システム化には必ず穴があることも,忘れてはならない.穴,すなわち要件定義の漏れである.人間の想像力には限界がある.ゆめゆめ奢ることなかれ.えー?そんなことが?という状況は意外と発生するのである.

こんな例があった

ここで,私が体験した税関申請の電子化に関する仕様のバグを紹介したい.

たしかカタール航空だったと記憶している.23時30分に羽田到着というえらく遅い時間に到着する便で帰国した.ずいぶんと端のほうに停められた飛行機から延々と歩かされ,入国審査こそ自動化されているゲートで速やかに進められたものの,バゲージクレームで預けた荷物が出てくるのを待っているうちに,日付は変わってしまっていた.

さて,到着して荷物が出てくる間にvisit japan webの帰国登録をすればいいやとタカを括っていた私,ポチポチと入力を進めていたが,なんと,入力すべき情報にある「到着日」は過去の日付を選べない仕様になっていたのである.なんてこった.すでに前日になっていた到着日を選べない!

帰国便に乗る前にやっておくべきだった?以前,海外で手続きしようとして電波状況が悪く,どうせならちゃんとネットに繋がる日本でやって問題ないよね,荷物出てくる間の待ち時間にやればいいよね……と気軽に考えていた私を誰が責められようか?

このときは,致し方なく紙の申請書に記載して税関を通った.紙がなかったらどうしたか.日付を1日偽って,虚偽申請でもしただろうか(まあ,それはそれで,たいした問題でもないような気もするが……).

どうすべきか

アナログのシステムを全廃して全て電子化しようなどと,簡単に決めて強引に進めるべきではない.人間の想像力には限界があり,先に示したように例外は必ず生じるのである.そのようなときのために補助的手段は残しておくべきである.ユーザとのインタラクションが介在する現場を上意下達的に改革できると思ったら,それは大間違いである.

デジタル化というとTV放送の地デジ化が思い起こされるが,地上波をデジタル放送にしたケースとは違う(あれはある種のユーザ切り捨てでありそれはそれで問題ではあったが,そこまでユーザ保護を論じると何もできなくなる).いま日本で起こっている事例では,これからいろいろな例外が多数発生して混乱が生じるはずだが,おら知らんもんねー.

下記はいらすとやの「入国審査で言葉が通じない人のイラスト」.いらすとやには何でもある.



2024年11月25日月曜日

2024CBNUスタートアップコンペ

11月25日に開催された,韓国の忠北大学(Chung Buk National University)が開催する 2024 Chung Buk Startup Competition に参加した.縁あってお声掛けいただいたこのイベント,飯尾研からは院生1名,学部学生4名が参加,私を含めて6人での訪問である.

初日のコンペ,午前中は大学院生の部だったが,院生の竹村くんがスーパーバイザーとして参加したテイで,実際には学部4年生の飯島くん,2年生の山片さんのチームによるプレゼンテーションが行われた.15分のプレゼンテーションに引き続き,10分のQ&Aタイムを無事にこなした二人は,しっかりと対応できて素晴らしかった.韓国やドイツから参加していた大学院生に混じってよく頑張った.

結果として3位の忠北プロメーカー・センター長賞,賞金100,000ウォンをゲット,上出来である.

午後は学部学生の部で,こちらは私をスーパーバイザーとして,3年生の渡辺くんと2年生の本間さんが参加.こちらも二人はしっかりと発表できた.質疑応答も厳しい質問に苦しみながらもなんとかこなし,やはり3位の忠北プロメーカー・センター長賞,賞品ギフトカード100,000ウォン分をゲットした.素晴らしい.

2024年11月17日日曜日

データ分析は楽しい

AI・データサイエンス演習というゼミ(通称iDSゼミ)を担当している.学生たちはいろいろなテーマに取り組んでいてなかなか楽しいゼミなのだが,今年はあるチームが楽天トラベルのレビューデータを対象に,いろいろと分析を進めている.

今回ちょっと面白い着眼点かなと思ったのは,どのレビュー項目が総合判定に寄与しているのか?という問題設定であった.

楽天トラベルのレビューは,立地,部屋,食事,風呂,サービス,設備という6項目と,総合,合わせて7項目の評価項目がある.その評価のうち,総合評価に最も影響の与えている評価結果は何?という問題である.

単純に考えると,それぞれの項目と総合評価の相関係数を求めればよさそうではある.ただし,この評価データは1〜5の離散値なので,散布図を書いてもよくわからない.実際,52万件からある2019年のデータを用いると,5段階×5段階の組み合わせは全ての組み合わせがあり,散布図は単純な格子点となって全く面白くない.

そこで,重回帰分析の事例として考えてみたら?とアドバイスした.すなわち,6項目を説明変数,総合を目的変数としたとき,影響度の大きな項目は何になるのか?という分析方法である.

StatsModelsを用いて計算した結果は次に示す図のようになった.t値の欄をみると,サービス,部屋,食事の順に影響度が高い.一方,風呂や設備はあまり影響していない.皆さんはこの結果をみてどう考えますか?

2024年10月20日日曜日

ゲーム・プログラミングの妙

プログラミングは楽しい.少なくとも,自分のために実施するプログラミングはいくら時間があっても足りないくらい.というわけで,今回はゲーム・プログラミングである.

題材はThe Chain Triangle Chess Gameというゲームである. Triggle Gameという名前でも流通しているらしい.Amazonで販売されていたゲーム盤のページから商品画像を引用する.

みてのとおり,ルールはとてもシンプルである.6角形の盤面に,37本の柱が立っている.プレイヤーは,交代でその柱を使って区切りを指定する.区切りの指定方法は,輪ゴムを4本の柱に引っ掛けて直線の区切りを設定するというものである.三角形の小さな区画の3辺が全て区切られたら,区切った人の領土になる(それを示すコマを置ける).

YouTubeのショート動画で楽しそうに遊んでいるのをみて,プログラミングの題材に選んだという次第.

環境の選択

最近であればPythonで書くべき?ゲームならUnityだろうか.まあ,慣れているからということと将来的に分散オンラインゲーム化することを見込んで,シンプルにHTMLとJavaScriptを用いて書くことにした.

GUIはHTMLのCanvasを利用する,Canvas要素に直に描いていく方法である.最も単純なパターンである.余計なライブラリに依存しないぶん,安定してメンテナンスできそうという目論見もある.

プログラミング

というわけで,1日くらいかけて実装した.ソースコードはGitHubに置いておいたので,興味がある人は参照してみてほしい.アプリは下記に置いてある.URLのパラメータを指定して2人〜4人の対戦に対応できるようにしてある.

プログラムを大まかに解説すると,GUI部品としてはWidgetクラスを継承したPole, Wall, Patchというクラスがそれぞれ,柱,壁,三角形の領域を表す.さらに,Containerクラスを継承したPoles,Walls,Patchesというクラスが,柱,壁,三角領域をまとめて管理するという構成になっている.

さらに,それぞれのインスタンスの関係を配列の配列で定義して,適切な参照関係を事前に用意してからゲームを始めている点も重要な点であろう.

遊び方

遊び方は,説明するまでもないのではなかろうか.まずは,どこでもよいから柱をクリックしてみよう.クリックした柱は黄色くなり,そこから直線上に3つ離れた場所にある柱が水色で表示される(次図).

水色で表示された柱以外は選択できない.なお,黄色の柱を再度クリックすると,選択を取り消せる.水色のどれかをクリックすると,最初に選択した黄色の柱と次にクリックした柱の間に区画が作られる.

3個の辺に区画ができた三角形は,その回を担当したプレイヤーの持ち物となる.色で示されるので分かりやすいだろう.全ての区画が誰かのものと定まった時点でゲームは終了,ページの最下部に得点状況が表示される(次図).

今後の課題

一通り実装できたので,今日のところはいったん完成としよう.しかし,まだいろいろと考えるべきところはある.細かな話をするとすでに壁ができているところに同じ壁を作るのを許容するかどうか.いまの実装では,その操作は許されているが,三角領域の獲得には何の寄与もしない.いわば「パス」を許していることになるが,ゲームとしてそれはよいのかどうか.検討が必要であろう.

オンライン対戦化させるのも興味深い.旧来の中央集権的サーバを用意して管理するもよし,WebRTCのような分散型の通信方法を利用するもよし,いろいろと工夫の余地はあろう.卒研生の題材にするってのも面白いかもしれないな.

2024年10月15日火曜日

タイポグリセミアで遊ぶ

皆さん「タイポグリセミア」という概念をご存知だろうか.まずは,次の文章を読んでみてほしい.

みさなん こにんちは こんのぶうしょは タポイグセリミアと よばれる げしょんうの デモスントーレションを しめしてまいす.

どうだろうか,何が書かれているか,すんなり読めたかな?

タイポグリセミアとは

もとは英語を対象とした現象であり,日本語で分かりやすく示すためにひらがな・カタカナで示している点の読みにくさは割り引いて考えていただきたい.タイポグリセミアとは,単語の始まりと終わりの文字さえ固定しておけば,中間の文字がある程度入れ替わってもすんなりと読めてしまうという現象を表す用語である.

先の文例では「皆さんこんにちは,この文章はタイポグリセミアと呼ばれる現象のデモンストレーションを示しています」をひらがな・カタカナで表記し,何箇所か文字の順序を入れ替えた.

さて,この現象をテーマに卒論を書きたいという学生が現れ,タイポグリセミアの軽重で読み方がどう変わるかを調べたいと言い出した.なかなか面白い着眼点である.さすがうちの学生だ.

タイポグリセミア度の定義

ところでその軽重の度合いをどう定義するんだ?というところで議論になり,次の定式化を提案した.

簡単にいえば,タイポグリセミア文とオリジナル文のレーベンシュタイン距離(編集距離)を測り,それを文の長さで正規化したものを軽重のレベルを示す値とする,というものである.

レーベンシュタイン距離(編集距離)とは,文Aと文Bがあったときに,文Bに何回の編集操作を加えれば文Aに一致するかという回数で距離を定義するというものである.たとえば,「はんばいき」と「まんばけん」という言葉があったとすると,「まんばけん」ー(1.「ま」を「は」に入れ替え)→「はんばけん」ー(2.「け」を「い」に入れ替え)→「はんばいん」ー(3. 最後の「ん」を「き」に入れ替え)→「はんばいき」となるので,それらのレーベンシュタイン距離LDの値は3,すなわち,LD(はんばいき,まんばけん)=3,となる.

タイポグリセミア文を作るサービスはいくつか提案されている.たとえばこれ.「タイポグリセミア変換ジェネレーター」.ただし,その度合いは調整できない.まずは,元の文章とタイポグリセミア度を入力して相応のタイポグリセミア文を作るところから始めよう.これを作るのはそう難しくないぞ.

追記:

実際にプログラムを作って試してみたら,編集距離ではなくもう少し違う定義でやったほうがよいということに気づいた.次の定義でやるべきかな?

2024年10月13日日曜日

今度のHCD研究発表会は面白そうな発表が盛りだくさん

2024年11月30日と12月1日に,芝浦工業大学豊洲キャンパスにおいてHCDフォーラム併設で開催される2024年度冬季HCD研究発表会は,これまでにない盛り上がりを見せそうで今からとても楽しみである.

次回開催の概要

先日,発表申込みを締め切り,プログラムを策定した.現在,発表者に確認をとっている段階であり,12月15日までに修正の申出がなければ,このプログラムで確定する.

年々,発表件数が増えているのは喜ばしいことであり,今回は口頭発表が22件,ポスター発表が26件と,合計48件もの発表が予定されている.

春の研究発表会では37件の発表があり,マルチトラックでの開催となった.マルチトラックでの開催を余儀なくされるほどの発表件数増加は,開催側として目標の一つではあったのだが,「聴きたい発表が重なって両方に参加できなかったのが残念」などと不満も出ていた.前回の反省点である.

今回はHCDフォーラムと併催という事情もあり,2日間開催,シングルトラック(ただしポスター発表は別会場)という,比較的余裕のある予定を組めた.来年の春開催をどうするかは悩ましいところではあるが,それはまた来年考えよう.

セッション紹介・初日

プログラムの変更はあるかもしれないが,各セッションを簡単に紹介する.

まずは【企業・組織とデザイン】 セッションである.座長は私が担当する.このセッションは,組織運営にHCDの観点を導入したケースやそれに関する研究発表を集めた.トップバッターは東京情報大学の河野先生で,研究室に漫画ドラゴンボール全巻を置いたら学生がどういう行動を示したかというものである.いきなりの変化球.

続いて【AI活用】セッションはその河野先生が座長をご担当してくださる.生成AIを用いていろいろやってみたという研究発表はHCD研究発表会以外でも最近よく見かけるテーマである.今回も3件ほどそのような発表申し込みがあったので,このセッションにまとめた.

昼休憩を挟んで,午後の最初のセッションは【実践報告(1)】,実践報告のセッションその1である.今回も多様な実践報告が予定されており,8件の実践報告があった.そのうちの4件が【実践報告(1)】で報告される.個人的には,本セッション最後に発表が予定されている「鶏中心的プロセス」がたいへん興味深く,注目である.

初日の最後は【文化と社会】 セッション.組織とデザインのセッションに入れるべきだとか,AI活用のセッションに入れるべきだというような発表もあるが,時間配分の問題もあり,文化的側面に着目してこのセッションに並べたことはご容赦いただきたい.

ポスターセッションは二日目を予定しているが,ポスターセッション会場には初日からポスターを掲示できるようにしておく予定である.ポスター発表者はできれば初日からポスターを掲示しておいてくださると,議論が深まるのではないだろうか.

セッション紹介・第2日

二日目の午前中は 【デザイン手法・他】 セッションである.うちの研究室にダークパターンをテーマに修論をまとめようとしている院生がいるので,「ダークパターンのユーザーへのインパクト ~ユーザー特性による違い~」という吉武研の学生による発表には注目している.

午後イチで,ポスター発表のセッションが2時間予定されている.先に述べたように今回はポスター発表が26件予定されているので,はたして2時間で全てをみて回ることができるだろうか.嬉しい悲鳴である.そのためにも,前日からポスターの掲示がなされていることを期待したい.

ポスター発表のあと,最後のセッションが【実践報告(2)】である.「人に依存するHCDからの脱却 〜AI技術の進展を見据えて〜」というご発表,人に注目するHCDからあえての脱却を図ろうとするそのご提案は興味深い.

他にも面白そうな発表が目白押しである.ポスター発表にはピクトグラムに関する発表も4件ある.3件は青学ピクトグラム研究所所長の伊藤先生が関与しているものだが,もう1件は芝浦工大吉武研からの発表である.人型デザインということで,ピクトグラムとHCDは親和性が高そうだ.

そんなわけで,皆様のご来場をお待ちしております.11月30日,12月1日は豊洲でお会いしましょう.

2024年9月21日土曜日

よくできた自動注文機

仁川空港の第2ターミナルにあるフードコートの自動注文機でユッケジャンクッパをオーダーしていただいたのだが,そのUXが「なかなかよく出来ているな」と感心した.フードコートにおいて,タッチパネルで注文するシステムや,注文が来たら呼び出しするベルのシステムは,最近は世界中どこでもある.しかし,それらを組み合わせたシステムを,私は,これまで見たことがなかった.

写真の右側になにやら数字が並んでいる以外は,最近ではきわめて一般的になった自動注文機である.クレジットカードのみ利用可能でキャッシュ不可というのもイマドキらしい.インストラクションに従い,注文と支払いを確定する.そこまでは通常のものと何ら変わらない.

面白いのはその後である.決済が終わると,右側の呼び出しベルがひとつ,ポップアップして飛び出てくるのだ.いやあ,びっくりした.右側に並んでいる数字は,呼び出しベルのID番号なのだった.

9314番の呼び出しベルがポップアップしたので,それを取り出し,席で待つ.小さな液晶画面まで付いていてそこにメッセージも表示される.至れり尽くせりである.

あとは,日本のフードコートでもよくある手順が進む.料理が出来上がると呼び出しベルが光り,ブーブー鳴りながら振動する.さあ,カウンターに受け取りに行こう.注文した料理が待っている.

最後の写真は注文のユッケジャンクッパ.たいへん美味しゅうございました.

2024年9月17日火曜日

2024年度台湾研修

例年,海外への研修は3年生と4年生(場合によっては2年生も)混在で出掛けているのだが,今年は,8月の頭に実施したベトナム研修には3年生だけが参加した.4年生は昨年のベトナム研修にすでに参加しているからという理由である.そこで,今年は,4年生は4年生で別の場所に行きたいと,台湾を訪問することなった.

9月14日に大学院入試がありまた18日から国際会議で韓国に出かけなければならないと,私が少し忙しかったため,9月の15日から17日,2泊3日というかなり多忙なスケジュールとなった.しかし,TSMC博物館(TSMC Museum of Inovation, 台積創新館)と故宮博物院を見学し,最先端のデジタル技術と悠久のアナログ資産の両極端に触れられたのは,学生たちにとってとてもよい経験になったのではないだろうか.

TSMC博物館は私も初めての訪問である.今をときめく半導体メーカーのTSMCが公開している博物館で,見学には予約が必要だが,丁寧で分かりやすいガイド付きで案内してくれる.なお,TSMC博物館は台北から少し離れた新竹科学工業園区にあり,やや行きにくいのが難点か.台湾の新幹線,高鐵に乗り高鐵新竹駅まで行き,そこからタクシーで1,000円程度である.

TSMC博物館の展示物は,デジタルデバイスで使用されている半導体の説明,集積回路(IC)の進化,そしてTSMC創設者,モリス・チャン博士の紹介といったところで,小規模ではあるものの,興味深い展示物が公開されている.

世界最大の半導体や同じく最小の半導体(体内に入れるカメラ)など,他ではなかなか見られないICや,古いCPUと最新のCPUでどれだけ処理能力が違うかなど,いかにも最先端のデジタルミュージアムという仕掛けが仕組まれていて面白い.

たとえばこの写真,一見,なんともない展示のようにみえるが,奥にある物体はVRゴーグルやコントローラの実物であり,手前は透明ディスプレイに表示されたデジタルコンテンツである.透明ディスプレイを上手に利用した展示になっている.

VRライドで仮想現実を体験できる施設もある.私はVR酔いにはわりと強いほうのつもりだが,隣に座った学生が途中で「ぐぇー気持ち悪い」と中断していたのでつられてちょいと酔ってしまった.

さて,せっかく台湾を訪れたからには現地の文化も楽しむべきだろう.海外の楽しみといえば現地の料理.夜は台湾料理と台湾啤酒を楽しんだ.台湾料理,美味しいよね.

2024年9月16日月曜日

こんなところでHCD(9)

さて,こんなところでHCDのシリーズ,はやくも9回目を迎えた.今回もバスルームからお届けするが,今回は珍しく「褒めてる」一件である.以下はいま宿泊している台北のホテル,Cosmos Hotel Taipeiのバスルームで見つけたインストラクションである.

これは実にわかりやすい.操作に迷う余地は全くない.よい事例として記録しておきたい.

2024年9月4日水曜日

木曽の宿場町めぐり

諸事情があり木曽の宿場町を巡るツアーの「ガイド兼ドライバー」を勤めることになった.訪れた宿場町は,訪問した順に,妻籠宿,馬籠宿,奈良井宿.元信州人としてそれらの宿場町については初等教育において机上で習ってはいたが,実際に訪れたのは今回が初めてである.

どの宿場町も風情があり,思っていたよりずっとよかった.それぞれについて感想を記しておきたい(写真は最後に訪れた奈良井宿).

妻籠宿

「つまごじゅく」と読む.ひなびた風情がたいへんよろしい.とにかく「江戸時代に造られた宿場町の保存に徹するぞ!」という姿勢がよい.観光客に迎合する気ゼロ.来るなら来いやーというストロングスタイル.そのくせ,「十八世紀中期に建築された旅籠を解体復元したものです」なんていう,江戸の空気をそのまま運んでくるようなタイムマシンがしれっと存在していたり,桝形の跡という街作りの仕掛けがそのまま残されていたりして,江戸大好きっ子が喜びそうなアトラクションがいくつかあって楽しい.

駐車場は有料で500円.駐車場の広さはそこそこあるのでハイシーズンの休日以外であれば問題なく駐車できそう.駐車場から宿場町へのアクセスは,可もなく不可もなくといったところか.クルマ以外で行きにくい場所であり,公共交通機関でのアクセスはよくない.

馬籠宿

「まごめじゅく」である.妻籠よりかなり観光地化が進んでいる.宿場町全体が坂になっており,伊香保温泉とか台湾の九份とかを彷彿とさせる……は言い過ぎか.観光地になってしまっているので,江戸の宿場町のロマンを求める人にはちと物足りないかもしれない.

北側入口から入り南側入口に向かって坂を下りながらの散策がよいだろう.南側入口から坂を上っていくのは,観光と健康を兼ねたい!という変態さん以外にはオススメしない.今回,90代の後期高齢者がいたので,クルマを北側入口近くの無料駐車場に停め,南に向かって坂を下りつつ,ドライバーである私は途中から坂を戻って南側入口付近までクルマを回すというサービスに徹した.かなりしんどかったので,ドライバー氏は送迎に徹したほうがよいかも.

北側入口にはさほど広くない無料駐車場がいくつかあったものの,南側入口付近には無料駐車場が見当たらなかった(有料駐車場はいくつかある).妻籠より馬籠のほうがメジャーっぽいので,駐車場問題は少し気になるところではある.

奈良井宿

最後は「ならいじゅく」.どちらかというと妻籠に近い「観光よりも保存」というスタンスを感じたが,妻籠ほどのストイックさはなく,交通の利便性もあり観光客はウェルカム!でも観光客に阿るのもね……という印象であった.

無料駐車場があり駐車場からのアクセスもよい.なにしろJRの奈良井駅からすぐという交通至便さである.訪れやすい宿場町といえよう.

無料駐車場の反対側には木曽の大橋なる檜の立派な橋が架けられていた.ん?木曽の大橋?そんなん知らんぞ?と調べてみたら,平成3年竣工だとか.そりゃ知らないわけである.私はすでに東京人になっていた.

所感

いずれの宿場町も,外国人観光客が半数以上で驚いた.平日だからということもあろうが,そもそも交通の便があまりよろしくない.交通至便な奈良井宿にしても,各駅停車しか停まらないJR奈良井駅まで東京から行くのはけっこうたいへんだ.なにしろその電車も一時間に一本しか走っていない.

彼らはいかにしてその存在を知ったのか,いかにしてそれぞれの宿場町にやってきたのか,どこに宿泊しているのか,いろいろ謎ではあるが,そのバイタリティは見倣いたいところであると,しみじみ思った.

2024年8月31日土曜日

国家による情報統制は意外と身近な出来事

中国のグレートファイアウォールは有名で,よく知られている.中国共産党に都合の悪いメディアには触れさせないようにと,海外のSNSなどには接続できないようにして国レベルで特定の通信をシャットアウトするものである.その是非はともかく,誰が言い始めたか知らねどグレートファイアウォールとはよく名付けたものだ.万里の長城(Great wall)にちなんで付けられたあだ名である.

ところで,特定のサイトを国レベルでブロックするというのはよくある話.今まで私が経験したのは,韓国,ミャンマー,インドネシア.他にもあったかな.

また,国家による情報統制とはやや事情が異なるが,欧州経済領域(EEA)およびイギリスからはYahoo! JAPANのサービスにアクセスできない(ここにその説明がある).日本から欧州に出張する人はたくさんいらっしゃるだろうから,Yahoo!ニュースが見られない!などという経験をした方も多かろう.

具体例

実例を示そう.次の画面はインドネシアの例である.この例で接続しようとした先は,どことは言わないがさほど問題のありそうなサイトではなかった.しかし,ブロックされていた.ちなみに,httpsでアクセスすると「信頼のおける接続ができない」旨のエラー画面になる.ハテ?と思い,同じサイトにhttpで再接続すると,次の画面が出てきた.

どこの国でも,アダルトサイトはブロックされがちである(重ねて指摘しておくが,上記はアダルトサイトに接続しようとしたわけではない.シークレットモードでアクセスしているのは,話題がちょいとセンシティブな話題だけに,用心したというだけだ).韓国では儒教的な配慮なのだろうか.インドネシアも同様な事情で,ムスリムの教義に沿わないからだろう.文化的背景や宗教との関係は国家レベルの情報アクセスコントロールに大きな影響を与えていることがわかる.

迂回方法など

蛇の道は蛇といったもので,このようなアクセス制限は仮想プライベートネットワーク(VPN)を張ればすり抜けられる.実際,どうしても必要な場合はVPNを利用して回避することもある.しかし,「研究用途のみに使うこと」というルールがあるため,濫用は避けなければならない.というわけで,あくまで,理論上は可能,ということにしておこう.なお,「VPN使えばOKよ」ということを「検証」するのも我々の研究の一環である.ああ,情報学者って便利だなあ(おいおい).

ところで,中国のグレートファイアウォールを体験したときの話である.久しく中国には行っていないので,かなり昔,2000年代なかばのことである.Linux上で動作しているFirefoxからアクセスしたのに,Internet Explorerの「DNS解決ができません」とかいうエラー画面が出てきて,稚拙すぎる……と思ったものだ(実話である).今はどうなっているだろうか.

2024年8月23日金曜日

こんなところでHCD(8)

毎回バスルームにケチを付けているわけではないが,ホテルのバスルームには落とし穴がいっぱい.今回も,ユーザのことを無視してカッコ良さ優先で設計したとしか思えないデザインのバスルームに遭遇した.

今回宿泊した部屋のバスルームはシャワーとトイレが隣り合っている作りで,スライドドアで手前の洗面所と区切られている.幸い,今回は単身で宿泊しているが,二人で泊まっているときに問題が生じそう.

どちらかがシャワー使用中のときにトイレ行きたくなったらどうする?あるいはその逆は?プライバシーもへったくれもない.まあ,気にすんなということか.

トイレ使用中にも問題があった.この写真では分かりにくいが,便器に座った状態では足が扉の外に出てしまう.使用中にシャワーに入ろうとすると,大股びらきにするしかない.もちろんガラス越しに丸見えである.かっこ悪ぅ.

2024年8月19日月曜日

数学的思考とは

次のマンガは,FacebookのMeme for mathematiciansというページに掲載されていたものである.皆さん,いかがだろうか.共感する?しない?

さて,このマンガ,数学的思考あるいは数学的センスを身につけているひとにとっては,全くナンセンスである.なぜならば,1 = 0.99999…… という等式は,きわめて「当たり前」にしか感じないからである.

0.99999……,この表現を「数値そのもの」ととるか,あるいは,「数値+演算子(operator)」,「操作(operation)」または「式(formula)」ととるかで解釈が異なるだろう.前者と捉えた場合,最後のコマのようにwhat the fuckと感じるのもさもありなん,ではある.

後者の考え方によれば,0.99999という数に「……」という操作(オペレーション)が加わっていると理解できる.「……」は「その後に9が延々と続く」という操作である.分かりにくければ,循環小数を表すときに使われる,「0.9*」(9の上にドットを書く,この場合は適切に書けないのでアスタリスクで表現するものとする)という表現ではどうだろうか.この場合,「0.9」という数値に「*」という演算子が与えられていると捉えられよう.そして,そう考えれば,1 = 0.9* という式に,何の違和感も覚えないはず.

なお,初等数学で習う演算子のほとんどは,演算子の対象とする被演算子(operand)が二つである二項演算子(たとえば a + b とか,a ÷ b の場合,+や÷が演算子で,aとbが被演算子である.被演算子が2つあるので,二項演算子という)である.対して,今回考えた0.9*は,「*」という演算子に対して被演算子が0.9である,単項演算子なので,その点についても違和感を覚えるかもしれない.しかし,皆さんお馴染みの「√」記号,これを「平方根をとる」という演算子と捉えれば,被演算子が一つなので,それも,単項演算子である.階乗を表す「!」,たとえば 4! = 24 も,単項演算子(被演算子の後ろに置くので,後置演算子という)である.

ところで,1 = 0.9* にまだ納得できないひとは,これならばどうだろう?1=1^♾️ あるいは 1=9^0,前者は1を延々に掛け続ける操作,後者は9のゼロ乗である.いずれも,等式としては正しい.1=1^♾️ や 1=9^0 を理解できるのならば,1 = 0.9* を受け入れるのは,そう難しくないと思うのだが.

2024年8月18日日曜日

こんなところでHCD(7)

旅先ではバッドUI体験に出会うことが多い.こんなところでHCDのシリーズ,7回目は,山梨県の某ホテルからお届けする.

次の写真をご覧いただきたい.電気ポットである.上面中央は水の投入口.安全のためにロック機構がある.まあ,それはよいだろう.手前は操作パネルである.左側に情報提示のLCD,右側には操作ボタンになるタッチスイッチによるインタフェースが提示されている.クリック感はないが,ランプによる反応があるので,これもまあ,あまり問題はない.

さて,このポット,操作パネルで「お湯がたくさんでる状況」にセットした(枠のなかの右側のランプが光っていることを確認されたい).さて,どこをどうすれば,肝心のお湯が出てくるだろうか?


答えは……

手前の銀色部分が押し下げられるようになっていて,そこを押すのである.(多少,酔っ払ってはいたが)我々がそれを理解できるまで,5分くらいかかった.

では,どうすべきだろうか.操作パネルの右側ボタングループに,「お湯を出す」ボタンを並べるべきだろう.できれば,アンロックボタンの隣か手前がよい.左横,真ん中あたりに少し大きめに並べるのが正解かな?

2024年8月12日月曜日

2024年度ベトナム研修

毎年,8月の第2週に開催しているベトナム研修,今年は8/5〜8/11のスケジュールで,無事,開催された.2014年に文学部主催の全学向け科目「グローバル・スタディーズ」として開講されたこの研修,2018年まで5年間,継続して開催されていたものの,2019年に飯尾の新学部(iTL)異動に伴い,いったん中断されていた.iTLでの再開を画策していたところへCOVID-19パンデミックである.昨年,2023年にようやく再開でき,今年で7回目の開催となった.

毎回,NECベトナムの皆様には多大なご協力,ご支援をいただいている.この場をお借りして御礼申し上げたい.今年も,カウンターパート学生の募集,会場の提供,ご講演,様々な側面支援と,同社のご支援がなければ成功しないイベントである.

今年の中央大学からの参加者は3年生6名,例年より少なめではあったが,このくらいコンパクトなほうが動きやすい.8/5の22時に羽田空港に集合し,深夜便で,ベトナムはHCMCに向かった.

今年の改善点

今年の成功ポイントのひとつが,TSN空港(タンソンニャット・ホーチミン空港)から市内への移動である.後述するように今年はGrabを利用した移動で効率よく動けたのだが,最初の移動をまとめて1台でできたのは安心感が大きかった.Booking.comであらかじめ予約しておいた8人まで乗れるバンで,ホテルまで全員で移動できた点は大きい.4月にハノイで同サービスを利用したときは,なかなかドライバーと合流できずあたふたしたが,今回はスムースに利用できたのもよかった.

あらかじめ日本で,現地で使えるsimカードを用意していったことも,これまでと比べて格段に大きな安心感をもたらした.なにしろ「誰かがはぐれてもなんとかなる」というのは心強い.これまではwifiルータを何台か持ち込んで対応していたが,やれ「バッテリーがありません」だの「接続できません」だの,トラブルの種になっていた.各自が自分専用の通信端末を持てたのは行動に大きな自由度を与えた.

移動はGrabを利用した.これまではタクシーを利用していたが,アプリを用いてどこでも呼べる手軽さがよい.運賃もタクシーより,若干,安い.ただし,最終日の最後の移動はタクシーを利用した.週末でホテルの周囲に交通規制があったり,大きなスーツケースを抱えての移動だったりと条件がキツい場合には,ホテルの人に呼んでもらう大型のタクシーが優れている.

研修の様子

研修のスケジュールは,ほぼ例年どおりの,次のようなものである.

8/5, 22時羽田空港集合,深夜便にてHCMCへ
8/6, e-Townに移動,昼食,午後,NEC訪問,NECの皆様によるレクチャーとWSの用意(会場準備,お茶菓子の買い出しなど)
8/7, 日越合同Workshop.自己紹介,イントロダクション(飯尾),プレゼンテーション(日本学生・ベトナム学生),グループワーク
8/8, 日越合同Workshop.グループワーク(続き),プレゼン準備,最終プレゼンテーション・講評,閉会式
8/9, エクスカーション(HCMC郊外視察)
8/10, 市内視察,夜便にて帰国
8/11, 早朝に羽田空港着,解散 

今年もグループワークでは活発なコミュニケーションが行われ,最後は素晴らしいプレゼンテーションとディスカッションができただけでなく,いつものように日本とベトナムの学生たちの友好関係が築かれた(写真).

本研修の真の目的は,異文化を知り,国際感覚を身につける点にある.語学力の涵養もさることながら,お互い第二言語である英語を用いて,不足する部分は身振り手振りなりITのツールを用いるなりして,なんとかして意思疎通を図る努力が重要である.

ワークショップの内容はいわゆる「アイデアソン」ではあるが,日本およびベトナムの双方の学生で構成された混成チームで企画を練り,プレゼンテーションまで持っていくところに価値がある.

本研修に参加してみたいという若者は歓迎する.ぜひとも飯尾研の門を叩いてほしい.

2024年7月28日日曜日

ゴーアラウンド体験談

今回のニース出張は,行き帰りともロンドンのヒースロー空港経由という旅程で出かけた.ロンドンまではJL,ロンドン - ニース間はBAの利用である.事件(というほどでもないが……)は帰りのニースからロンドンに向かう便,BA345便で発生した.

ニースからロンドンまでは2時間強のフライトである.遅い昼食がてら,搭乗前にラウンジでしこたま飲んでいたので,機内ではずっと眠っていた.気がついたらロンドン上空,ゆっくりと降下しているのを感じ,「ああ,着陸か……また遅れたな,乗換え大丈夫かな」などとウトウトしつつ,ヒースロー空港の滑走路にアプローチする様子を窓から眺めていた.

すると,突然の加速で急上昇である.ナンダなんだ?と,びっくりした.次に示す図は後からflightrader24で調べたそのときの記録である.南東から飛んできて,ちょっと待たされて東からヒースロー空港にアプローチ,ゴーアラウンドで北側をくるっと回って再度の着陸という軌道が描かれているのがお分かりだろうか.

このflightrader24というサービスで当時の飛行経路がバッチリわかってしまうのもすごいが,さらに掘ってみたらもっとすごいアイテムが出てきた.それが次のツイートである.

これはスクリーンショットだが,実際のビデオは(消されない限りは),https://x.com/AirportWebcams/status/1816876074195718638にアクセスすれば見られる.ともあれ,原因は,着陸しようとした滑走路から退かねばならんやつがモタモタしてたから,ということらしい.

これまで,国内外を問わず飛行機であちこち出かけてるけれども,ゴーアラウンドを経験したことがなかった.今回が初めての体験である.国交省の資料によれば羽田でも1年に100回程度は発生しているらしいので,さほど珍しいものでもないらしいが,私にとっては珍しい経験だった.

そして何より,flightradar24だのAirport Webcamだの,いまはサイバー空間に何でも記録されてしまう時代なんだなあ,ということをあらためて実感した出来事であった.

2024年7月25日木曜日

こんなところでHCD(6)

こんなところでHCDのシリーズ6回目は,またしてもホテルのバスルームからお届けする.

まずは次の写真を見ていただきたい.このシチュエーション,たいへん使いにくい状況が発生するのだが,お分かりだろうか?

そう,便器に座って用を足したあと,トイレットペーパーを使おうとすると体を右に捻らねばならず,とても使いにくいのである.

実際に使ってみればすぐに分かるこの不自然さ,正解は,次の写真のような配置であろう(雑なコラですみません).

このような問題は,プロトタイプを作ってユーザテストしてみれば一発で解決する.というか,そもそも経験値として共有すべき課題のような気がしなくもないが,ホテルの水回りの使いにくさが世界各地で見られるのは,建築業界になんらかの問題があるのではなかろうか……

2024年6月24日月曜日

【ダークパターン警察】ファイル02

やってはいけない「ダークパターン」.やりたくなる気持ちはわかるが,こういう設計はやめたほうがいい.そんな事案を収集するシリーズである.名付けてダークパターン警察.今回は,某通販サイトの事案である.


さて,今日取り上げるのは,SNSではあまりよい評判を聞くことがない,某通販サイトの1ページである.まずは次の図を見てほしい.

矢印の先には「特別セール」とあり,さらに「終了まであと01:58:13」とある.これ,カウントダウンタイマーという典型的なダークパターンではなかろうか.

終了まで2時間を切っていたので,そのまま放置してみた.すると,次のようになった.

タイマーはストップしたが,特別セールは終わってないやないかーい!そして,このページをリロードしてみると……


お,おう.時計が3日ほど巻き戻ってしまった.

こうなるともう,何も信じられない.左下にある46個のレビューや星4.9も,本当だろうか?ちょっと気になったので,いろいろやってみた.

在庫数もインチキ

「残り11」個とあるので(お急ぎください!),カートに入れてみた.その状態で,やおら,違うブラウザから同じページにアクセスする.カートに1個入れたので,残りは10個になるはずなのだが……あれれ?残り11のママじゃん.どういうこと?(ひょっとして決済されたら減るのだろうか.競合が起きたらどうすんの?)

レビューも,ブラウザによって微妙に異なっている.左はChrome,右はSafariでアクセスしたものだ.数やスコアも違ってるし,これいったいどういうこと?

まるでダークパターンの見本市のような印象を受けたが,皆さんどうだろうか(ちなみに,カートに入れた商品を削除しようとしたら,ダークパターン警察ファイル01で指摘したパターンと同様の課題も存在していた).

ということで,信じるも信じないもあなた次第.ダークパターンにはゆめゆめご注意めされよ……

2024年6月23日日曜日

身近になったジェスチャーコントロール

macOSの設定を眺めていたら,いつの間にか,ジェスチャー認識を活用したUI設定が実装されていたので驚いた.その設定手順は次のとおりである.

ヘッドポインタ

システム設定のアクセシビリティという項目に,「ヘッドポインタ」という設定がある(次図).この設定をONにすると,頭の向きでマウスポインタを動かせるようになる.

この設定を有効にして,顔の向きを変えるとそれに追随してマウスポインタが移動する.それはそれで面白いのだが,正直なところ,なくてもいいかなあという感じ.

まあでも,とくに効果を感じないのは,私が小さなMBP13"の画面で作業しているからかもしれない.大きなディスプレイで作業している皆さんには効果的なのかな.複数画面でマルチディスプレイ環境を作って作業しているひとには便利になるかもしれない.ていうか,マルチディスプレイのときは画面を超えて移動していくんだろうか?そこはまだ検証していない.

代替ポインタアクション

さて,マウスポインタを顔の向きで動かせるようになるとすれば,クリックはどうするの?という話になるのは自然な流れであろう.マウスポインタを移動させるだけでなく,マウスやタッチパッドに触ることなくクリックやドラッグができれば,それはそれで,便利な使い方が考えられまいか?

というわけで,次に注目すべきは,ヘッドポインタの上にある「代替ポインタアクション」という項目である.代替ポインタアクションを設定するには,右側にあるインフォメーションのアイコンをクリックし出現するダイアログで作業する(次図).

この図は,代替ポインタアクションで「+」をクリックすると出てくる選択ダイアログである.「顔の表情」を選ぼう.「次へ」をクリックすると,選択した顔の表情とそれに紐付けるアクションを選ぶ画面に進む.

「顔の表情」の選択肢は,笑う,口を開ける,舌を出す,眉を上げる,目をまばたく,鼻をしかめる,唇を外側に向けてすぼめる,唇を左側に向けてすぼめる,唇を右側に向けてすぼめる,というもの.対応させるアクションの種類としては,左クリック,右クリック,ダブルクリック,トリプルクリック,ドラッグ&ドロップを選べる.

面白いけど

いろいろ試してみると面白いだろう.「口を開けると右クリック」などという設定にしておけば,口をぱかっと開けるとコンテキストメニューが出てくる,なんていう動作も実現できる.でも唇を捻じ曲げてひょっとこみたいな顔をする動作で操作するって,たいへんそう…….

もちろん,マウスやトラックパッドが使えない状況など,このヘッドポインタと代替アクションの組合せが有効になるシーンもあるだろう.想像力の問題でもある.そして,一度でも試してみると,ジェスチャーインタフェースの課題を身をもって感じられるはずだ.疲れる,しんどい,不自然,という課題である.

未だ解決されていないそれらの課題だが,それを体験できるこれらの実装はとても有意義である.実際に試してみることで理解したうえで,「よっしゃいっちょ私が解決してみようやないかい!」という挑戦者が現れることを期待する.

2024年6月18日火曜日

HCD研究発表会の向かう道

HCD-Net研究事業部では,年に2度,HCD研究発表会を開催している.ここでは,本イベントの在り方に関する検討とその方針について論じる.

イベントの活性化,指摘と対応

我々は,HCD研究発表会というイベントを活性化すべく,これまで,論文誌への同時投稿制度やメンター制度,審査員によるコメントフィードバック,実践報告カテゴリの設置など,様々な工夫を重ねてきた.その努力が実ったのか,あるいは,たんにHCDやUXに対する注目が増えたせいなのかもしれないが,いずれにしても,年々,発表件数が増えてきているのはたいへん喜ばしい限りである.

一方で,発表数が増えてマルチトラックにした結果,従来のきめの細かな議論ができなくなった,あるいは,発表数は増えた一方で質の低い発表が増えた,といったご批判も頂戴している.これらのご指摘はたいへん有難く,今後どうしていくのが皆様にとって望ましい研究発表会になるのかを検討するうえでとても参考になる.真摯なご意見として受け止め,運営関係者で検討する材料としたい.重ねて,厳しいご指摘をくださった皆様には御礼を申し上げる.

発表数の増大に対してマルチトラックにするのか,開催日数を増やすのかの選択は,なかなか悩ましい問題である.シングルトラックのまま複数日開催とすれば,これまでどおりの議論の質は維持できるかもしれない.しかし,参加者の負担は増大する.開催側もたいへんである.どのような形が最適解なのかは,今後,慎重な検討を進めなければならない.

発表の質の担保は必要か

「たんなる思いつきの発表ばかりでけしからん,せめてプロトタイプを作った結果を報告せよ」とのご指摘を,ある先生からいただいた.しかし,それに対しては,我々は真逆の立場を指向していることを,ここで明確に示しておきたい.

マイクロソフトリサーチUKのSimon P. Jones氏は,彼の”How to write a great research paper”と題した文献のなかで「まずアイデアを発表せよ」と語っている.その理由は,最初のアイデアが間違っていると,そのあとの研究は無駄であるから,というものである.この考え方には強く共感する.そもそも最初のアイデアを学会で議論し,第三者の指摘を踏まえたうえで,適切な目標に向けて研究を進める,その考え方は,HCDのプロセスである,まず利用状況を適切に把握せよという考え方と合致するのではないだろうか.

また,発表の敷居を下げることは,研究会の活性化につながる.企業人が多いというHCD-Netの特性を踏まえても,学会発表に慣れていない皆様にも発表の機会を提供することが,重要な意味を持つと我々は捉えている.

もちろん,だからといって,安易な発表「だけ」に甘んじていてはいけない.その点では,先の先生による指摘もまた間違ってはいない.議論を重ね,皆様が切磋琢磨していくことを,期待している.成果を出して,さらなる発表に繋げることは大切である.提案発表を受け入れることは,当然ながら,そのような発表を妨げるものではない.次回のHCD研究発表会にも,たくさんの発表があることを期待している.

2024年5月29日水曜日

富裕層という幻想

野村総研が提示した「富裕層ピラミッド」なるものを日経が紹介していた.それによれば,日本にはそれなりの数の富裕層がいるんだそうだ.物価高にあえぐ庶民のひとりとしては,ホンマかいな?と滲み出る眉唾感を隠せないところだが,とりあえずその「富裕層ピラミッド」なる図式がこちらである(出典:「日経トレンディ」 Pick Up!野村総研「富裕層ピラミッド」、庶民割合 言ってはいけない真実も).

もう,マス層だのアッパーマス層だの,その定義からしてインチキくさいというか品がないというか,ゲスい匂いがぷんぷんしている.しかし,純金融資産を5億円以上も持つ超富裕層って9万世帯もいるんかよ!と驚きである.

そして中間のアッパーマスから富裕層までも,ピラミッドを見る限り,あれあれ?こんなにいるのか,日本もまだ捨てたもんじゃないな?と思わせる図式でもある.

いやしかし!これ,本当に正しいの?百歩譲って,というか,数値がそもそも信頼できなかったらどうしようもないので,ここに書いてある数字は信頼することにしよう.なお,保有額の比率は,富の偏在状況を明示するという点では意味があるが,お金持ちってナンボくらいおるん?という我々の肌感覚に近い「世帯数の比較」には意味がないので,ここでは純粋にそれぞれの層に属する世帯数のみに注目することとする.

さて,横軸の単位を「万世帯」として作成したグラフがこちらである.うーん,かなり下が厚いピラミッドじゃないか.先の図で示されているピラミッドには程遠い.

思い切って横軸を対数軸にしてみた.

いかがだろうか?こちらであれば,先のピラミッドと整合しそうだ.まさかの対数目盛りだったのか?

あまり意義は感じないながら,総保有額でも比較してみた(横軸の単位は「兆円」).

若干いびつではあるが,この比率であれば,先のピラミッドと乖離しているとも言い難い.うーん,そういうこと?しかし,なんだろう,もやもやする.ミスリーディングであることには間違いないよなあ.

2024年5月11日土曜日

皆さんのレポートを読んでの諸注意

以下は新入生が提出したレポートに対するフィードバックである.段落先頭の字下げや行間の問題はこのブログの設定に当てはまらないので忸怩たるところがないこともないが,学生に配ったフィードバックレポートそのものは,ワードプロセッサで作成した適切な文書で配布したことを補足しておこう.

(フィードバックここから)

皆さんが提出したレポートを読んで,気付いたことを述べる.自分が提出したレポートを以下の指摘と照らし合わせ,以下の項目に当てはまるひとは,次回から,注意しよう.なお,皆さんの書いてきた内容はどれも面白く拝読した.

1. 文体

レポートや論文は「ですます調」(「〜です / 〜ます」で終わっているような文)で書かない.「である調」で書くこと.また,口語と文語を区別すること.「こういった」や「そんな」というような書き振りは口語であってかしこまった文章には使うべきではない(SNSなどに書き散らかしている文章はその限りではないが,きちんと区別すること).

2. 全体の体裁

行間を適切な設定にする.通常,ワープロソフトの標準設定で使えば問題ないはず.無闇に行間を空けたり詰めたりしないこと.

「両端揃え」にすること.左側が揃っていない人はいないが,右側がガタガタになっているのはみっともない.下記のように指定して両側をきちんと揃えること.ワープロの機能は正しく使おう. 


3. 段落の取り扱い

「段落」というものを全く意識しておらず,改行が一切ない(!)レポートを提出したひとが何名かいた.文章は,意味のまとまりごとに段落に分けること.この文書も参考にせよ.この文書では,段落に分けるだけでなく,見出しも活用している.違う意味の内容を述べているかたまりは,ひとつの段落で表現すること.だらだらと書き連ねればよいというものではない.段落の長さは,目安として4〜5行くらいが妥当である.

段落の先頭は「一字下げる」.小学校で習ったはずである.せっかくなので,ワープロの機能をきちんと使って,次のような設定を用いて字下げを行うこと.空白文字で字下げをするのは不適切である(なぜか.考えてみよ).


4. 断定的記述

レポートや論文では,「断定」すること.「〜と思う」「〜と考える」などの表現は使ってはいけない.なぜならば,レポートはその書き手が考えたこと,思ったことを記述して報告するものであるから,そもそも「〜と思う」「〜と考える」という表現は「無駄」だからである.

断定するためには勇気が必要である.勇気を持って断定的に書き切るためにはその根拠が必要であり,そのために十分な調査やデータ分析,実験の実施などが求められる.そのことを肝に念じておいてほしい.

(ここまで)

2024年4月30日火曜日

メタバースに感じる違和感の正体

メタバース関連の研究にも参加しているのであまり大っぴらに批判はできないのだが,メタバース?セカンドライフの顛末を忘れたのか?と指摘しているくらいはメタバースに対して懐疑的な立場をとっている.

それはそれとして,メタバースに関していつもなんとなく違和感を感じていたその正体に,今日,気が付いてしまった.それは,SNSに出ていた次の広告を見たからである.

ここに,3人のアバターが存在している.しかし,何かおかしくないだろうか?3人が3人とも,そっぽを向いている.現実の空間で,こんな状況,ある?

しかもそれぞれが,見えない誰かとコミュニケーションをとっているようなそぶりを見せている.怖ぇよ.

というわけで,いくら高解像度なVRの世界が実現されたとしても,このような状況を発生させないようにしなければ,そこには不気味の谷が横たわるだけというお寒い状況になるだろう.逆にいえば,2人以上のアバターが同じ空間に出現したときに,強制的に面と向かわせるような仕様にすれば,この状況は改善されるだろう.

誰かそんな研究してみない?

2024年4月8日月曜日

ハノイメトロの不思議

FossASIA 2024に参加するために久しぶりにベトナムはハノイを訪れた.以前,ハノイは仕事でよく訪れていた街だし,なにより東南アジアで最初に訪れた街でもあるので思い入れがある.いまからおよそ20年前,2003年に初めて訪れたハノイ,東南アジア初心者にありがちな,腹をくだしてトイレに篭りっぱなしになったのも今では懐かしい.

さて,今回10数年ぶりに訪れたハノイの街は,ずいぶんと近代化していて驚いた.ノイバイ空港からの道は片側3〜4車線の立派なハイウェイになっており,ソンホン川を渡る橋も巨大なものができていた.夜中でしかも雨が降っていたのでよくわからなかったが,地図をみると,昔よく利用していた空港からの道路の東側に,近代的な高速道路が作られていたらしい.

昔は橋を渡ってから川沿いの細い道をタイ湖に向かって延々と走ってきたものだったが,いまや市内まで幅広い高架道路が通っている.さすがにバイパスを降りてダウンタウンの中心部まで来ると道も細くなり,なんとなく昔からの街を彷彿とさせる様子ではあったが,それでも,中心部から郊外に向けて高架鉄道が営業しているまでに近代化しており,10年という歳月の長さを感じさせる.

ホーチミン市のメトロはいつまでたっても完成せず,まるでサグラダファミリアの様相を呈しているが,そんな状況を尻目にハノイでは近郊電車,Hanoi Metroが2021年から動き始めた.今回の会場は路線沿線にあるPosts and Telecommunications Institute of Technologyという大学である.Hanoi Metro 2号線が便利だというので,今回は,ダウンタウン側の終点であるカトリン駅近くに宿をとった.

さて,今朝,チケットの購入にやや苦労しながらもなんとかカトリンからメトロに乗って会場まで辿り着いたのだが,驚くべきなのはその路線図である(図.Hanoi MetroのWebサイトより).

下の写真は駅構内に掲げられていたもの.

Wikipediaの記事によれば,いまは2号線と3号線しか営業していないはず.この複雑な路線図は何だ?Hanoi MetroのWebサイトにも,たくさんの路線による立派な路線図が描かれている.

なんかこれ既視感あるなーと,思い出したのはやはり20年前近くに訪れた北京や上海で見かけた地下鉄の路線図である.最近はどちらも訪れていないので現在の状況はわからないが,当時は4〜5本程度の路線しか営業していなかったように記憶している.ところが,当時からずいぶんと立派で複雑な路線図が掲げられていた.その路線図は,計画中の路線まで含めての路線図だった.しかし,全ての路線がさも営業しているように描かれていて,今回の路線図もまさにそれ.

その中国の路線図,図に描かれている情報を信じて地下鉄に乗って郊外に向かうと,路線図上では延伸しているはずの目的地まで線路がつながっていないなんてこともあり,はてさてどうしたものかと途方に暮れたことを思い出す.日本人の感覚からしたら「できてるところだけ線をひけよ!せめて建設中だったり計画中だったりするなら,点線で描いとけよ!」と思ったものである.

ベトナムは中国に隣接しており,当然ながら中国の影響は強い.これって中華の発想なのかな……などと,Hanoi Metroに揺られながら考えた.

2024年3月28日木曜日

習慣を変え「させる」ことの難しさ

前から気になっていたことがある.京急の羽田空港第1・第2ターミナル駅で,JAL側の改札に上がるエスカレーターでの人々の行動である.

次の写真を見ていただきたい.左側の2列が上りのエスカレーターである.エスカレーターの左側に並ぶ列ができており,右側には誰も乗っていない.首都圏の駅や公共の建物でよく見かける光景である.右と左が逆になるが,関西圏でも似たような光景は随所で見られるだろう.

エスカレーター手前の床に着目していただきたい.上の写真では分かりにくいかと思い,人の流れが途絶えたところで,再度,撮影したものが次の写真である.「歩かずに2列でご利用ください」とあるのがお分かりだろうか.

ここを通る皆さんの目に,この注意書きが入っているのかどうかは分からない.エスカレーターの片側を空けずに2列で詰めて並んだほうが,このように1列で並んで片側を「誰も使わない」場合よりは効率がよいことは火を見るより明らかである.

なお,片側を「間を空けずに」歩いて上る人たちで埋められれば「2列で詰めて並んだほうが,輸送効率が高い」という主張は間違いじゃないかと常々疑っているんだがまあその話はややこしくなるので置いておく(最も輸送効率が高くなるのは2列で詰め詰めになりながら皆で足並み揃えて歩いて上るという状況のはずである……さらに「走って上る」を許すとそれが最強となる).

なぜ注意は守られないのか

話がかなり脱線したので元に戻すと,「歩かずに2列でご利用ください」という注意喚起は最近いたるところでなされている.しかし,ついぞ,守られているのを見たことがない.なぜだろうか.

一つには,染み付いた習慣が考えられよう.長年培ってきた慣習は,そう簡単には変えられないのだ.

もう一つ,勇気を出して空いているほうに立って並んだとして,後ろから歩いて上ってきた人に邪魔者扱いされないだろうかという不安もあろう.歩いて上ってくる人は,ほぼ,急いでいる(健康のために歩いて上らんという人もいるかもしれないが).キッと睨みつけられて,ときとして罵倒されかねないと考えると,歩いて上ろうという人のほうが「指示を守っていない」とはいえ,反論するのも馬鹿馬鹿しいと人々が考えるのはいたって自然である.

エスカレーターに乗る行動を変えようとしているほう(この場合は,京急側)も,この問題に本気で取り組んでいるのか疑わしい状況もある.次の写真を見ていただきたい.

注意喚起の表示を床にした後に,下り側のリノベーション作業をしたのだろうか.まるっきり意味が分からない状態になってしまっている.これではダメだろう.

どうするのがよいのか

高速道路で右に左に車線変更を繰り返して遅い車を追い抜いたとしても,目的地に着く時間は10分も変わらない,などという指摘もある.安全のためにのんびりいこうや,というのは正論,ではあるが,急いでいる人,焦っている人にその理屈は通用しない.

エスカレーターを歩いて上っている人がいたらドリフのコントのように上から金タライが落ちてくるとか,まあ,それは冗談としても,警備員を配して公衆の面前で注意を促すとか,「エスカレーターでは歩かないで2列に並んで落ち着いて乗りましょう」とアナウンスを繰り返すとか,もう少し強い刺激を与えないと,この問題は解決しないのではなかろうか.

言葉を変えれば,この問題の解決に対する行政や施設側の本気度が問われているともいえよう.ある程度の変化,2列で立ち止まる人が3割くらいにもなれば,あとは自然に行動が変わっていくはずである.それまでは,考えている以上に強いドライビングフォースをかけねば,集団行動の変化は起こりにくい,そんなことを痛感した.

2024年3月16日土曜日

沖縄研修・2024春

飯尾研春の研究室旅行……ではなく国内調査実習ということで2・3年生総勢17名で沖縄に行きました.訪問先は,琉球大学の琉ラボ,沖縄科学技術大学院大学(OIST),沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)などです.

琉ラボでは,同ラボにおけるスタートアップ支援や起業等に関するレクチャーを受け,そのあと積極的な質疑応答が行われました.

OISTではその豪華な設備や森の中に突如現れるコミュニティに,まるでZootopia!と驚きました(私も開学前の準備期間に一度訪れたことがありますが,そのときからの変化にびっくり).

最終日,ISCO訪問では,那覇市職員の方による沖縄県経済やIT振興に関する説明,ISCO山田専務による観光DXの現状等に関する講義を受けたあと,活発な意見交換が行われました.

ISCO訪問のあと,夜の飛行機で帰京する前のちょっとしたエクスカーションとして,慶良間諸島のあたりまでホエールウォッチングに出かけました.大きなザトウクジラの親子に遭遇,何度も豪快なブリーチを繰り返してくれて,見応えがありました.

(NEWS staff 撮影)