日本への入国手続きに関して,いまの状況にはいろいろと言いたいことがあるのだが,今回は税関申告の電子化を取り上げたい.
現在,日本に入国・帰国する際には,visit japan web というウェブアプリで検疫情報と税関申告の登録が求められる.検疫情報を登録しておくと余計な手続きをパスできるし,帰国便の搭乗時にその証明を提示させられることもある.COVID-19ワクチン3回接種した証明を記録しておけば,入国もスムーズだ.
税関申告のDX
ところで,今回問題にしたいのは税関申告のほう.まずは下記のスクショをご覧いただきたい.
そうなのだ!電子申請対応のゲートには待ち行列ができており,従来からの紙で申告するゲートでは待ち時間はほぼ無し.いったいどういうこと?
このツイートは昨年11月末のもので,昨日(2023年3月6日)の時点では若干マシにはなっていたようだったが,まだ電子申請対応のほうには待ち行列ができていた.
紙で申告して税関を抜けたほうが早いことを知っていた私はサクッと終了.他方,「先生,税関申請もvisit japan webでやったほうがいいですか?」「日本のDXの現状をよく知っておきなさい」と,この現状を体験させようと指示した学生たちは,10分後くらいに出てきた.どれだけ差があるか,ストップウォッチで測っておけばよかったか?
なぜこんなことに
税関申告のDXにはいくつかの問題がある.
まず,新しい運用方法に対してオペレーションの最適化がいつまでたってもなされないこと.単純に,電子申請対応ゲートの数をもっと増やして,そのぶん紙申請対応の数を減らせばよいのに,そのような状況にいつまでも対応できないのはいったいどういうことなのか.
DXはシステムさえ用意すればよいという話ではない,という見本とも考えられる.システムの運用,担当者の教育も含め,全体での最適化を考えなければ真のDXではない.まさに紹介したツイートが語っているように,「とりあえず電子化!DX!導入後の運用はしらねぇ!」ではいけない.
次に,はたして,この税関申告の電子化は誰のためなのか?という問題だ.電子化すると,その後の記録管理は格段に効率化される.しかし,そのためには誰かがデータを電子的に入力せねばならない.極論すると「この税関申告の電子化は,それをエンドユーザーにやらせよう,というものだ」ともいえる.
似たような状況は,いろいろなところで発生している.たとえば私の大学では,近年,人給システムのクラウドサービスが導入され,給与明細が電子化された.これまで,毎月,給与明細が郵送されてきたことを考えると,その電子化はよい話である.しかし,問題は年末調整の手続きであった.これまでは紙の書類にサッと書き込んで経理に持っていけばよいだけだったのが,システムに対してチマチマとたいへん手間のかかる入力処理をさせられた.その手間は何段階にもおよび,とても面倒くさい.
これらについて共通して指摘できることが,面倒な情報入力を利用者自身,エンドユーザー自身にやらせてしまえ,という間違った効率化である.
確かにバックエンドは効率化する.事務担当者の負担はかなり軽減するだろう.そのぶん,現場に手間を取らせており,広く薄く,非効率をばら撒いているのである.まったくもってHCD的な考え方ではない.
取るべき対策
残念ながら,この体たらくはまだしばらく続きそうだ.帰国時の税関申告は,これまで通り用紙に書いての申告をオススメする.それではDXが進まない?どうせそんなDXは本物ではない.早く現場の状況に気付いて改善,真のDXにしていただきたいものである.
ところで,先のツイート,いろいろ写真が掲載されているけれど,バゲージクレームから税関までの場所って,撮影禁止じゃなかったっけかな?
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