日本に来ている外国人観光客が,東京の郊外に向かう私鉄電車や近郊電車にあまり乗ることはないだろう.それと同じように,バンコクでも郊外を走る電車には外国人はあまり乗車していない.とりわけ,旧来からあるタイ国鉄,SRTのローカル線に観光客が乗る機会は非常に少ないだろう.実際,こちらで日常的に利用していても,外国人の姿を目にすることは稀である.
鉄道のみを利用してKMITLを訪問しようとするならば,最後はSRTのプラチョムクラオ駅かフワタケー駅を利用することになる.どちらもKMITLのキャンパス内,あるいは隣接した場所にあるので,それだけみると便利にみえる.しかし,SRTはなにしろ1時間に1本もない頻度のうえ,頻繁に遅れるという,非常に使い勝手が悪い乗り物という問題を抱えている.
しかしながら,初乗り運賃2バーツ(10円)というたいへん懐にやさしい乗り物でもある.まさに庶民の足といえよう.改札などないとか,切符はどうするのかとか,慣れないとどうやって乗ればよいのかわからない面もあるし,デッキに扉がないとか,低いプラットフォームからよじ登るようにして乗車するとか,駅を降りたら線路を歩いていってよいとか,日本の安全最優先主義からすると驚くようなことばかりだが,慣れれば全く問題ない.
そんなSRTを利用していて,印象的だった話が三つあるので紹介したい.
その1,ラカバン駅の謎である.バンコク市内から鉄道でKMITLに向かうには,もちろん市内からSRTの東線に乗って直接向かう手もあるが,利便性を考えるとARLでラカバン駅まで来て,最後のひと駅ふた駅だけSRTに乗り換えて向かうという方法がよい.
ところが,このラカバン駅の乗り換えが,微妙なのだ.ARLのラカバン駅と,SRTのラカバン駅は,隣接している.両方の線路は並行して走っていて,かたや高架,こなた地上という具合.感覚的には在来線と新幹線の駅が並んでいるという状況を想像してみればよい.
二つの駅は,並んでいる.であるからして,高架から直接,地上駅のプラットフォームに降りられれば,あるいは地上駅から直接,高架駅に上がることができれば,便利だろう.通常の駅であれば,そのように設計されるはずだ.
しかし,ラカバン駅で乗り換えるには,いったん,西側の踏切までずっと歩いていって,そこでSRTのホームまでひたすら戻るという大回りをしなければならない.いったい,なぜこのような構造になってしまったのか.
直接,行き来できるようにしようとした形跡はある.この写真は,SRTのホームで撮影したものだ.写真の左側がARLの高架駅である.なにやら跨線橋のような建造物が正面にみえる.
残念ながら,この建物とARLの高架駅は繋がっていない.それだけでなく,この建物は現在,全く使われていない.この建物に上る階段の手前には柵がしてあり,入れないようになっている.完全に,トマソン物件になってしまっているのだ.ARLもタイ国鉄が運営しているはずだが,いったい何があったのだろうか.
その2,QRコード決済よここでもか,という話.SRTに乗っていると,物売りのオババがやってくる.とくに郊外からさらに田舎に向かう長距離列車に乗ると,ひっきりなしにオババがやってきて,鬱陶しいことこのうえない.
鬱陶しさはさておき,先日,物売りのオババから何かを買っている女性がいて,それとなくやりとりを観察していたら,最後の支払いをQRコード決済で行っていたことに気付き,たいへん驚いた.タイでは日本以上にQRコード決済が盛んで,ちょっとした屋台でもQRコードにスマホをかざして支払っている様子を目にする.
まさかアナログ代表とでもいうべき列車内での物売りオババが,QRコード決済に対応しているとは思いもよらなかった.お弁当らしきものをオババから購入したその女性は,スマホを取り出して決済しようとしていた.オババはどうしたか.荷物のなかからQRコードが印刷されたカードをおもむろに取り出し,スマホをかざすように促したのである.いやはや,コンピュータおばあちゃんが,ここにもいた.
その3,坊さん専用席の件.BTSにもARLにも,日本と同じような優先席がある.たいがい,ロングシートの両端,入り口に近いところが優先席に指定されている.優先席の表示は日本とほぼ同じで,老人,怪我人,妊婦,子供連れなどのピクトグラムが描かれている.ただし,日本のそれとの決定的な違いがあり,それは何かというと,坊さんのピクトグラムが追加されている点である.
タイの優先席には,オレンジ色の袈裟をきたピクトグラムが必ず追加されている.それほど坊さんが大事に扱われているということだ.驚いたのは,SRTの坊さん専用席である(写真).
列車の最後尾が,坊さん専用エリアになっていた.「Reserved for monks」と書かれた看板で,区切られている.ボックスシート4個ぶんくらいだろうか.混雑時は坊さん以外も平気で座っていたようだが,かなり大掛かりな坊さんエリアが用意されている.あらためて,タイにおける仏教に対する扱いを考えさせられた.


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