2025年11月9日日曜日

続々・散髪してきた(お気楽クルンテープ通信 No. 11)

スクンビットに散髪に行った話を書きたかったのに,昔話を長々と引っ張ってしまった.二度めの海外での散髪体験は,1998年,米国,ニューメキシコ州のサンタフェに滞在したときのことである.

当時,世間では,複雑系,Complex Systemsという理論が,なんとなく流行っていた.映画ジュラシックパークでジェフ・ゴールドブラムが演じる数学者,イアン・マルコムの研究テーマがカオスだったことをご記憶の方もいらっしゃるだろう.香港で蝶々が舞うとアメリカで原発事故が起こるという,壮大な「風が吹けば桶屋が儲かる」理論たるバタフライ効果というキーワードを耳にしたことがある方も多いに違いない.

その複雑系の総本山と呼ばれていた組織が,サンタフェにある,サンタフェ研究所である.そしてサンタフェ研究所が複雑系のサマースクール,Complex Systems Summer School(以下,CSSS)と題した研修を実施するニュースを耳にした当時の私は,会社を騙くらかして,もとい,当時勤めていた会社には中島奨学金という素晴らしい制度があったので,それを利用してCSSSに参加することになったのだ.

98年のCSSSには,世界15カ国から,多くの参加者が集まっていた.今から思い返すと,夢のようなひと月だった.当時,私とタッグを組んで研究レポートを仕上げた盟友ともいえるDくん,彼は地元からの参加者だったが,今ではコロラド大学の立派な教授になっている.懐かしい想い出である.

CSSSはサンタフェ大学で実施されたので,大学の寮に寝泊まりして参加することになった.カフェテリアの食事は美味しかった.標高2,000メートルという内陸の高地ゆえに空気が乾燥していて鼻血がよく出た.リオグランデ川やロッキー山脈など,ちょっと郊外に出ると壮大なスケールの自然に恵まれたとても美しい場所だった.プエブロの文化が残っていて今でいう多様性の先端をいっていた.このときの想い出もたくさんあるが,壮大な脱線話はすでに散々してしまったので,またの機会にということにしよう.

散髪の話題である.

ひと月あまり滞在していれば,当然,髪は伸びる.鬱陶しくなってきた私は,キャンパスの隣にあるショッピングモールに入っていた床屋で髪を切ってもらった.このときのやりとりはほとんど覚えていない.おぼつかない英会話でも,きちんと髪を切ってもらえてよかったな,くらいにしか印象が残っていないのは残念である.

ところで,サンタフェ大学は2009年に経営破綻し,その後,サンタフェ芸術デザイン大学として再建された.ところが,2018年に再び財政難で閉校の憂き目にあっているらしい.しかしながら,当時のキャンパスはまだそのまま残っていて,Googleマップによれば,政府機関などが入っているようだ.ただし,あのとき髪を切ってもらった床屋は特定できなかった.残念.

なお,サンタフェといえば,篠山紀信が宮沢りえを撮影した写真集「Santa Fe」を思い出す方も多かろう.当時,度肝を抜かれたものだ.ひと月も休んで海外の研修に送り出してくれた上司や先輩方からは,「あの扉を探してこい」と命令されていた.週末の休みにはダウンタウンへ繰り出していろいろと遊んでいたのだが,さすがにあの扉は見つけられなかった.聞くところによれば豊島園に貸し出されていたとか,いなかったとか.

さて,昔話をぐだぐだと続けてきてしまった.やっと,バンコクの話題に移る.ここまで長かった.すまぬ.

スクンビットに,一時期,日本から千円カットの進出していたが撤退し,その後は地元資本の床屋として残った店がある,という情報を事前に仕入れていた.千円カットを受け継いでいるので,カット代は200バーツ,千円くらい.そして外国人の多いスクンビット地区なので,英語も通じるんだと.

さすがに,タイ語しか通じない床屋で髪を切ってもらう勇気はまだない.なので,日曜日の午後,散歩がてらスクンビットまでふらふらと歩いて,散髪してもらいに出かけた.

スクンビットの地下街,メトロモールにその店はあるとの情報だけを頼りに,探してみたら,床屋があった.しかし,名前がなんだか違う.カット代は500バーツとある.あれー?調べた情報と違うぞ.

迷っていても仕方がないので,まあいいかと,意を決して入ってみた.ちなみに,調べた店の名は「Easy Cut」.見つけた店は「Limit Cut」.オープン時間も情報では9時からやっているはずだが,この店のオープンは11時からとなっている.朧げな記憶のなかでは,そうだったっけかなあ?くらいに感じる微妙な違い.

以下,やりとりは全て英語である.

予約があるかどうか聞かれたので,「ない」と胸を張って答える.でもすぐにやってくれるらしく,椅子に座れと促された.

待っているとしばらくして若いお兄ちゃんがやってきた.「今日はどうしますかー」みたいなことを尋ねられるので,「周りはトリムしてね」と答えた.ちなみに日本語の「刈り上げ」は英語でトリム(trim)という.トリミングのトリムである.学校で習う?習わないよね.でも生活では大事な単語だ.他にも「洗剤」とかね.ディタージェン(detergent)って学校で習った記憶がない.私はサンタフェの寮生活で教えてもらった.まあ,それはともかくとして,そのとき,謎のワードが出てきて,私は固まってしまった.

彼は,「No. 1?No. 2?」と尋ねてきたのだ.なにそれー?

ジェスチャーから察するに,バリカンの深さを問うているようにみえる.No. 1のほうが長めのような手振りをしているので,じゃあNo. 1で,と答えたのだが.

帰宅してから調べてみたところによれば,タイでは,No. 1から順番に番号が大きくなるほど長めに揃える,その長さ具合を番号で示すということらしい.No. 1は3ミリ,No. 2は6ミリのバリカンなんだとか.違うじゃん.

まあ,結果オーライ.さっぱり整えてくれたのでヨシとしよう.500バーツ取るだけあって,仕事もかなり丁寧だった.千円カットではやってくれない産毛剃りもしてくれた.千円カットと比べて倍以上の値段,といってもたかがしれているが,久しぶりのきちんとした理髪店で,代金に見合うサービスだったと満足である.

Easy Cutを探す楽しみは残されているが,次もまたここに来ようかな.

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