2025年10月24日金曜日

タイ語でタイポグリセミアは成立するのか?

今週からバンコクでの生活が始まった.バンコクでいったい何をするのさ?という質問をされると,実は具体的に,何月何日にこれをやる,という詳細なスケジュールががっつり決まっているというわけでもないのでなかなか回答に困ってしまうのだが,いちおうは在外研究費としてそれなりの研究費をいただいているのでちゃんとした計画はあり,SMILEプロジェクトのタイ側のサポートというか現地を訪問してフィールドワークをすることになっている.

ただし,それ以外にもKMITLの先生方と共同研究をすることは決まっていて,問題は何をするかなのだが,まあ,その相談も込みでこれから考えていこうという,いかにもマイペンライな状態ではある.

タイポグリセミア各国語版

ということで,いま,一つ気になっているのが,タイ語でタイポグリセミアが成立するのか?ということである.とりあえずは英語とその他の欧米諸国のいくつかの言語,マレー語,日本語(ひらがな分かち書き版)で成立することは,関連研究の調査と我々の経験で分かっている.また,先日のCOSCUPで講演したときに「中国語でも成立しますよ」という情報をいただいた.中国語で成立するということは分かち書きなしでも成り立つということで,現在,日本語でも分かち書きなしの通常版タイポグリセミアを実験すべく,学生とあーだこーだとやっている.

で,せっかくタイの先生方と共同研究する機会を得たので,タイ語ではどうだろうかということを試してみたいのだ.

しかし,タイ語はそんなに甘くないのであった.かねてより,タイ語の自然言語処理は難しいとタイ人の自然言語処理研究者から聞いていたが,外国人の私から見ると,より難しそうに感じる.

タイ語の難しさ

まずはこれを見てほしい.いま宿泊しているホテルの最寄駅,パヤータイ駅で撮った写真である.

「ทางออก」と書いてある.私のタイ語レベルはまだ初級も初級だが,タンゴーク(ターン・オォーク)と発音するということは知っている(カタカナ読みだけど……).一つ一つ,文字をざっくり解説すると,ทがt,าがa,งがng,อがoで,กがkに相当する.

ここで,「ทはt」ということ覚えておいてほしい.

では,次の写真を見ていただきたい.駅名の表示である.「พญาไท」である.

個々の文字についての解説は控えるが,最後の文字,皆さんは読めますね?先ほど「覚えておけ」と強調しておいたtに相当する文字である.しかし,これはパヤータイ.パヤーアイトではない.はて?

じつは,「ไท」でthaiになる.ไがaiなのだが,子音が右に付くのである.通常,子音+母音で音を表すところ,このパターンでは母音+子音で音を表すという組み合わせになっている.さらに細かいことをいうと,ญの下にはみ出ている部分はaに相当するので,母音が下にはみ出ていることになる.

このように,タイ語では,左から右に素直に読んでいくのではなく,上に行ったり下に行ったり,ときには飛ばして読んでから左に一度戻ったり,という読み方をする.

はてさて,こんな言語で,タイポグリセミアって,成り立つんだろうか?

2025年10月23日木曜日

南国生活スタート

一昨日,10月21日に東京からバンコクにやってきた.これから7ヶ月と半月ほど,モンクット王工科大学(KMITL,King Mongkut's Institute of Technology Ladkrabang)に客員研究員としてお世話になる予定である.昨日はKMITLで私を受け入れてくださるIoT情報工学科(Dept. of IoT and Information Engineering)の学科長やいろいろとご尽力くださった国際課(OIT, Office of International Affairs)の先生方にご挨拶に行き,これからのことについていろいろと相談をした.思いがけずKMITLの学長にもお会いでき,記念写真を撮ったのはちょっとしたオマケである.

それにしても,今回の件,COVID-19パンデミックがなかったら当時その関連するテーマで行われたオンラインセミナーに講師として話題を提供することもなかったし,そこにKMITLのM先生がオンラインで参加してさらに質問だったか何かでメールで問合せを受けなかったら知り合いになることもなかった.さらには,我々がSMILEプロジェクトをやっていなければKMITLとChuo iTLで交流活動をすることもなかったし,M先生の提案がなければKMITLと中大で大学間協定を締結することもなかった.そして,その協定がなかったら私が客員研究員としてKMITLにやってくることもなかった.こうやって振り返ってみると,激流のなかを流されている小舟のような気持ちになってきた.運命というかなんというか,だから人生は面白い.

さて,いろいろ出張で自宅を留守にすることが多い生活を続けてきたが,半年という長い期間,自宅を離れて一人で暮らすのは四半世紀ぶりである.しかも異国の地で(まあ,いろいろ事情があって期間中にちょいちょい東京に帰ることもあるんだけど……).このIT時代なのでいろいろとしがらみは自動的に付いてきてしまうのが難儀ではあるが,まあそれは致し方なし.それはともかくとして,これから半年,何が起こるかとても楽しみで,オラ,わくわくすっぞ!

2025年10月14日火曜日

多言語対応の難しさ

この夏,一般社団法人ことばのまなび工房のウェブサイトをリニューアルした.再構築した理由は,前ウェブサイトを担当していた理事が退任してしまったため,私が引き継がねばならなくなったからである.ちょうどよい機会とばかり,ウェブサイトだけでなく,DialogbookやSpiceBoxといった各種のシステムを,一つのサーバに集約して一括管理することにした.

なお,DialogbookはSMILEプロジェクトで使用している自作の学習ポートフォリオシステムであり,SpiceBoxは国際会議SPICEを運営するために用意したプログラム管理&発表評価システムである.こちらもやはり自作のアプリで,HCD研究発表会においてすでに長年の実績がある同システムをもとにSPICE用にカスタマイズして作成したものである.

ウェブサイトの多言語対応

話がズレた.ウェブサイトのリニューアルである.諸所の事情から,ほぼスクラッチから再構築することになった.使い慣れているWordPressを利用し,新しいサーバに構築しなおした.さらに,せっかくだからと多言語対応してみようということにした.

以前から日英の二カ国語には対応させていたのだが,前任者から「いろいろ苦労した」と話を聞いていた.そこで,今回は事前にいろいろ調べて,ありモノで対応できるならそれをうまく活用しようという方針にした.

調べてみると,Bogoというプラグインがよく使われているらしい.ということで,それを導入してみた.現在,https://www.kotoba-kobo.jp/ (英語), https://www.kotoba-kobo.jp/ja/ (日本語), https://www.kotoba-kobo.jp/ko/ (韓国語)の三言語に対応している.

次のスクリーンショットを見てほしい.これは日本語モードのトップページである.右上に,言語切り替えのリンクが置かれている.ここで言語を切り替えると,メニューも自動的にそれぞれの言語に切り替えられ,記事もそれぞれの言語のものになる.

たいへんうまくできている.運用も極めて簡単だ.いずれかの言語で記事を投稿したとする.編集画面に,他言語版の記事を用意するというボタンが現れているので,それらを押すと,記事がまるっとコピーされ,それぞれの言語版の記事が用意される.あとは,それぞれの記事をその言語に翻訳して,公開するだけである.とってもシンプル.

いくつかの難しさ

しかし,やってみてわかったのは,多言語対応をきちんとやるのは,なかなか難しいということである.世界的な多国籍企業で各種の言語リソースが投入されているような組織でもない限りは,きっちりと多言語対応するのは困難が伴うだろう.

まず,用意した言語分の記事が登録されてしまうので,管理が煩雑になる問題がある.リニューアルしたウェブサイトには,固定ページを除くと,いま7本の記事が投稿されている.三言語に対応しているので,内部的にはその3倍の,21本の記事が用意されている.

対応させる言語の数を増やしたら,さらに大変になるだろうということは,火を見るよりも明らかだ.

翻訳の質保証も問題である.いまは,ほぼ機械翻訳に頼りきっている.幸いにして,英語と韓国語は私が読めるので,ざっと見て,おかしな訳出があったら手で修正するようにはしているものの,自然な翻訳になっているかどうかは自信がない.ここは,やはりそれぞれの言語に対して母語話者がチェックして必要があれば修正できるような体制を用意すべきだろう.

さらに,どこかを修正したら,それを他言語に対しても,手動で修正をかけなければならないという問題もある.これは,プログラミングにおける「コピペはあかん,関数にして再利用せよ」という哲学に通じるものがある.

以上のような難しさがあるため,今回の件に関していえば,あともう一言語,中国語版くらいは用意したほうがよいかなと考えているが,どうしたものかといささか考えあぐねている.機械翻訳がそこそこ優秀になってきている今,他言語版を用意する必要は実はそれほどなくて,まるっと自動で機械翻訳させる仕組みを用意するだけで良いんじゃね?という極論にも至ってしまい,いやはや,どうしたものだろう.

2025年10月9日木曜日

剽窃ダメ!絶対!

某大物漫画家によるパクリ騒動が炎上している.このテの話題,数年に一度,思い出したように炎上しますなあ。著作権の侵害だ,いや,肖像権の問題だ,など,いろいろな意見で盛り上がっていて,やはり大物漫画家だけあって,熱心なファンがアクロバティックに擁護する意見なんかも出していて微笑ましい(いや,ダメだろ)ものの,やはり,剽窃はいけない.

トレパク,パクリ,模写,いろいろな言い方があるが,ここははっきりと「剽窃」と指摘すべきである.万引きは窃盗です.パパ活は売春です.

剽窃はなぜいけないか

さて,では剽窃は何がいけないか.いろいろと問題点は指摘できるが,ここでは,私の経験と照らし合わせて次の問題点を紹介しておきたい.

はい出ました.この意見である.「これだけ見ても,イラストから真似たのもあるんじゃ?」♪───O(≧∇≦)O────♪

はいはい,こういう意見が必ず出てくるわけですよ.こんな意見(綾辻, 2025)もあったぞ?

でも、放っておいたら世間的には天才漫画家として崇められている江口寿史の方がオリジナルということになり、自分の方がニセモノ扱いされてしまうかもしれず、これほど悲しいことはない。

蛇足だが,これは「引用」なのでなんの問題もなく,かつ,無断でやってよい.というか,本来,引用は断り無しにやるものだ(文章を引用する場合.図版の引用はまたちょっと事情が異なる).昨今,無断引用などという珍奇な用語が流布しているが,書いた文章を公開しようという者であるならば,引用のルールくらいきちんと学んでいただきたいものである.

私の経験

もう昔話だし,時効でもあるけれど,私がかつて,こんなことをされたという剽窃事例を紹介したい.ネットもまだ黎明期といってよい頃,21世紀に入ってすぐ,くらいの出来事である.

何が行われたかというと,私の書籍に掲載されていたプログラムのソースコードが,「まるっと」ウェブサイトに掲示されていたという事例である.しかも,ご丁寧に,書籍では日本語で入れていたプログラム内のコメント文を,全て,英語に翻訳して.

まだS先生はご存命のようなのでイニシャルで示すが,それをやらかしたのは,O大学,S先生の研究室に所属していた博士後期課程の学生で,S研究室のウェブサイトに,ご丁寧にもソースコード一式が勝手に載せられていたのである.

2000年あたり,ということでググればすぐにわかってしまうが,画像処理関係のプログラムを指南する書籍である.当時はGitHubはまだなかったかな.ソースコードを共有するとすればSourceForgeなどを使っていた時代である.本の内容をフォローアップする出版社のウェブサイトなどもなく,書籍に掲載していたプログラムをCD-ROMなどで提供することもしていなかった.

ということは,彼は,全て,手打ちで入力し,さらにコメントも英訳したということである!けっこうな量があったので,努力賞はあげてもよいかもしれないけれど.

さて,問題は,彼のウェブサイトに,出典もなにも書かれておらず,全て,自前でプログラムを用意したというような記述があったことである.これは由々しき問題だ.彼のソースコードが元ネタであり,私が剽窃したと捉えられてしまうではないか.

向こうは画像処理では大御所のS先生である.いや,S先生のところの学生である.私もまだ駆け出しに毛の生えた程度の年齢だったので,いかにも分が悪い.

今であれば断固としてクレームを入れ,毅然とした態度をとるところだが,当時は私も日和っていて,どうしたものかと悩んだだけで終わってしまった.幸にして,こちらが剽窃したという話は出ず,当該ウェブサイトも学生くんが卒業してしまったか,いつの間にか消えていた.

こういうことがあるので,剽窃は,ダメですよ.ほんと,ダメだからね.

参考文献

綾辻つづみ(2025)【ショートショート】江口寿史にトレパクされて (2,709文字),note,https://note.com/nabewata_lit/n/n4884be5d7d89

2025年9月18日木曜日

こんなところでHCD(11)

久しぶりの「こんなところでHCD」のシリーズである.ふらっと入った牛丼屋,吉野家のタッチパネルをご覧いただきたい(次の写真).

インバウンドで賑わう東京である.吉野家も多国語対応が進んでいる.日本語だけでなく,英語,中国語(簡体),韓国語に対応している.写真は韓国語表記にしてみたところ,上から,「注文追加」「新規注文」「注文内容」と読める(私の韓国語スキルが正しければ……だが).

すばらしい.しかし,残念なのは,左側の情報までは言語が切り替わらない点である.左側には各種のキャンペーン情報や有用な情報が表示される.全ての情報は画像データとして用意されているようである.ここ重要!

すなわち,画像データであるがゆえに,多国語対応に手間がかかるわけである.単純な多国語対応フレームワークでは対応できない問題である.

タッチパネルを多国語化してインバウンド観光客にもサービスを提供しやすくしようというその挑戦は素晴らしい.しかし,なんとなく中途半端で終わっている点がいささか残念であった.

外国人を対象としてHCDのプロセスを走らせるにはコストがかかる点も無視できない.HCDを推進する立場としては,HCDのグローバライゼーションも今後ますます検討していかねばない課題として認識しておきたいものである.

2025年9月17日水曜日

SAJ AI/UX Tech研究会

昨日,一般社団法人ソフトウェア協会のAI/UX Tech研究会が主催するセミナーで,飯尾と橋本(葵)が以下の講演をした.

  • 飯尾淳, 教育および研究における生成AI・LLMの利用
  • 橋本葵, 「対人間と対AIのインターフェース設計の交差点:AI時代のHTML再設計」について

前半は飯尾から,生成AIやLLMの利用を教育や研究の文脈でどう考えるべきかという話と飯尾研究室における生成AIを利用した研究事例を紹介した.後半は,HTMLで書かれたフォームにAIが自動でアクセスして値を埋めるようなケースにおいて,従来型のHTMLと改善提案するHTMLの比較をした結果の紹介である.後半の話は,橋本(葵)くんが実施した研究の成果である.

研究会の皆様には,その後の懇親会でも,いろいろお世話になりました.ありがとうございます.

2025年9月11日木曜日

SICHI2025に参加(学生が)

ヒューマンインタフェースシンポジウム2025に併設されたSICHI(Student Innovation Contest at Human Interface symposium)2025に,4年生の青木裕美さんが参加した.彼女が作成したHealing Petsは,生体センサからのデータに基づきストレス状態を検知,ストレスがかかっていない状態ではキャラクターが成長する一方で,ストレスを検知すると生育が止まるという,キャラクター育成ゲームである.

青木裕美, 飯尾淳(2025)生体情報に基づきストレスを可視化するヒーリングアプリの開発, Student Innovation Contest at Human Interface Symposium(SICHI2025), 1S-18, 石川 野々市

9月10日の午後にデモセッションが行われた.最初は1分間のショートプレゼンテーションである.

実際のデモ会場では,たくさんの方が体験してくださった.ありがたい限りである.

このアプリは,さらなる改良を加えて11月の学祭でデモンストレーションを再度実施する予定である.体験してみたい方は,市ヶ谷iTLまでお越しください(彼女の卒業研究のためのユーザー評価にも,ぜひご協力ください)

2025年9月7日日曜日

このIT化,要?不要?

台湾は台中で市バスに乗った.日本と同様,台湾でも交通系のカードが進化していて,悠々カードという東京でいえばSuicaのようなカードがとても便利に使える.電車だけでなく,バスでも利用できるので,Google Mapsなどの位置情報サービスと連動させれば,たいがいどこへでも公共交通機関で手軽に行ける.便利な時代になったものだ.

台湾のバスは,乗ったときにカードを車内の端末にかざし,降りるときに再びカードをかざすという手順で運賃精算が行われる.台北,台中,高雄のそれぞれの都市で同様だった.いずれの都市でも共通の仕組みが整備されているのは,旅行者にとって本当にありがたい.

ところで,次の写真は台中市内のあるバス停で見つけたボタンである.このボタン,意味はお分かりだろうか.


このバス停には,5番,11番,30番,そして56番のバスが停車する.ところが,台湾のバスは面白いことに,乗降客がいなければそのバスは止まらずに素通りしてしまう.したがって,バスを待つ客は,乗りたいバスの番号が付いたボタンをあらかじめ押しておき,乗車の意思を運転手に知らせる必要があるのである.

ボタンが押されると,バス停の,到着するバスから見やすいところに配置されているLEDにその番号が表示されるので,当該のバスが停車するという仕組みになっている(上の写真,LEDの点滅感覚とシャッタースピードの関係で,うまく撮影できていない点はご容赦いただきたい)

「へー,なかなか,考えられた仕組みだなあ」と,皆さんは感心するだろうか.

しかし,ちょっと考えれてみると,これはあまり意味のある投資とは思えない.なぜならば,こんな大袈裟な装置は必要ないと考えられるからだ.

このような仕組みのないバス停で,台中市民は,乗りたいバスが近づいたら手を振ってバスを止めていた.それで十分ではないだろうか?

(追記)

これについて皆様の意見を問うたところ,「ボタン押して待っていればよいから楽」という意見をいただいた.たしかにそうかも.私はイラチなんで「まだかなまだかな」とずっとバスが来るのを探してしまうので,その発想はなかった.また,「夜は人が手を振っても気付きにくいかも,LEDであれば確実」という意見も頂戴した.それもそうだ.道路に出て手を振るより安全だろう,ということは私も少し考えた.

システム構築には想像力が欠かせないという原則をあらためて考えさせられることになった.HCDの根本的な原理でもある.まだまだ,私も修行が足りないな.

2025年8月10日日曜日

日本語版タイポグリセミア?

昨日,COSCUP 2025で「Typoglycemia: An Experimental Study between Complexities and Cognitive Levels」というタイトルの講演をした.なぜCOSCUPでこんなテーマのお話を?というのはさておき,講演後のQ&Aでは「中国語でも似たようなものがある」と現地の参加者から意見を頂けたのは大きな収穫であった.

ところで,中国語は分かち書きをしないし,表意文字だとタイポグリセミアはそもそも成立しないのではなかろうかと疑問を持っていたが,どうもそうではないのかもしれない.この3月に卒業したOさんが実施した実験は,ひらがな文に限定し,かつ,日本語でありながら分かち書きをした「ひらがな版タイポグリセミア」を用いて行っていた.

というわけで,はたして分かち書きのない言語ではどうなんだろう?と気になって眠れなくなったので,急遽,普通の日本語で作ってみたタイポグリセミア文が次の例である.

皆さんは,読めますか?

広い視野を持とう

皆さんチャンスがあったら積極的に海外に行ったほうがいい.それも,日本人がうじゃうじゃいるところでは意味がない.日本人という属性は使わずに済むところがよい.

たとえば次の写真,これは,ベトナムのホーチミン市でたまたま撮った写真である.

この可愛らしい車は,Vinfast(という会社)のVF3(という車種)である.皆さんVinfastという会社,知ってましたか?

Vinfastはベトナムの自動車会社である.ベトナム最大手の財閥であるビングループの自動車会社である.ここのところ急成長している.毎年夏にホーチミン市に来ていて,年を経るたびにVinfastの車が増えていることに気付く.そのくらいの驚くべき成長具合である.ベトナム社会の成長を実感する.

そしてこのVF3という車,昨年訪れたときには見なかった.調べてみたら昨年遅くに発売された車種とのこと.マイクロSUVという謳い文句で販売しているらしい.日本の軽自動車より小さいか,もしくは,同じくらいか.ベトナムの街は日本と同様にコマコマしているので,このくらいのサイズが適切なのであろう.

そのようなことを学ぶためにも,実際に自分の目でみて,理解するという態度が重要である.

2025年8月9日土曜日

2025年度ベトナム研修

毎年,8月の第2週に開催しているベトナム研修,今年は8/3〜8/8のスケジュールで,無事,開催された.今年で8回目の開催である.昨年の様子は「2024年度ベトナム研修」をどうぞ.毎回,NECベトナムの皆様には多大なご協力,ご支援をいただいている.この場をお借りして御礼申し上げます.m(_ _)m


今年の中央大学からの参加者は3年生6名であった.昨年と同規模である.8/3の22時半に羽田空港に集合し,深夜便で,HCMCに向かった.

研修の様子

研修のスケジュールは,ほぼ例年どおりの,次のようなものである.

  • 8/3, 22時30分羽田空港集合,深夜便にてHCMCへ
  • 8/4, ホテルチェックイン後 e-Town に移動,昼食,午後,NEC訪問,NECの皆様によるレクチャーとWSの用意(会場準備,お茶菓子の買い出しなど)
  • 8/5, 日越合同Workshop初日.自己紹介,イントロダクション(飯尾),プレゼンテーション(日本側参加者・ベトナム側参加者),グループワーク
  • 8/6, 日越合同Workshop二日目.グループワーク(続き),プレゼン準備,最終プレゼンテーション・講評,閉会式
  • 8/7, 市内視察,夜便にて帰国
  • 8/8, 早朝,羽田空港着.解散

今年もグループワークでは活発なコミュニケーションが行われ,最後は素晴らしいプレゼンテーションとディスカッションができただけでなく,いつものように日本とベトナムの学生たちの友好関係が築かれた.

2025年7月13日日曜日

変なおじさんの話

先日,電車に乗っていたときの話である.車内は比較的混んでいたが始発駅から乗車したので座れて,私はちんまりと座席に座っていた.

ところで,私には軽い鼻炎の持病がある.何かのきっかけでくしゃみが止まらなくなり,十数回はくしゃみを頻発することがある.そのときも,鼻がむず痒くなり,くしゃみが止まらなくなった.

もちろん電車のなかなので,できるだけ手で口を押さえて,周りに迷惑にならないように心がけたつもりではあったが,隣に座っていたオジさんに「飛んでくるんだよ!」と叱られてしまった.

私は配慮が不十分だったと素直に詫びた.まあ,人に不快感をきちんと伝えられることはいいことだ.不要な我慢はせず,非が自分にないならば苦情は伝えるべきだよなあ.Noと言えない日本人は,グローバル社会で舐められちゃうだけだもんな,などと,そのオジに対して,その時点ではとくに嫌悪感を感じることもなく,申し訳ねえな,とすら思っていたくらいである.

ところが,次に思いもよらぬ出来事が発生した.

私の前に,スッと新品の不織布マスクが差し出されたのである.差出人は隣のオジ.くしゃみするならマスクをきちんとしろよ,ということらしい.無言の圧力.

驚いた私は「あ,すみません」と素直に受け取り,パッケージから取り出してマスクをした(させられた).隣のオジは,自分自身もマスクをかけ始めた.

(どんだけ潔癖症かよ!)とびっくりした私は,素直にマスクをかけたものの,だんだん腹が立ってきた.なんで見知らぬオジにマスクをさせられなきゃならんのだ.感染症ならいざしらず,たんなるいつもの鼻炎なんだぞ.「あ,これ,ウィルス性のそれじゃなくて,たんなる鼻炎ですからご安心ください」って言ってやろうか?と思ったけれどもそれも邪魔くさい.勝手に勘違いして不安に思ってるならそうしといてやろうかい,なんて意地悪な気持ちもむくむくと湧き上がってきた.

結局,途中の駅で私が先に降りることになったので,無視し続けて電車を降り,ホームですかさずマスクを殴り捨てた.というか,マスクを取って,くしゃくしゃに丸めてポッケに入れた(あとでゴミ箱に捨てた).

降り際に「どうもありがとうございました」とお礼を言うふりをしてオジにマスクをつっ返してやろうかとも思ったが,大人ゲないのでやめた.

以上が,先日出会った変なおじさんの顛末である.

(いらすとやにあったオッサンのイラストが,当該オジに本当にそっくりだったんだよ)


2025年7月12日土曜日

異文化のちょっとした発見は面白い

日本の近隣諸国であっても,ちょっとした文化の違いがあって,面白い.異文化を受け入れ,異文化を理解することで自国の文化を再発見する,なんてこともあったりして,だから異文化間交流は興味が尽きない.

これは昨夜の会食でのひとコマである.席に着いたら箸が二膳,置かれていた.各自の席に,それぞれ二膳である.はて,これはなぜだろう?

疑問に思ったことはすぐ聞いてみるべきである.「なんでこれ二つ置いてあるの?」

すると,返ってきた答えは「片方はpublic, 大皿から取り分けるときに使ってね.もう片方はprivate,自分で食べるときに使ってください」とのこと.なるほど.理には適っている.

しかし,杯を重ねていくうちに,どちらがどちらだかわからなくなってきた.色別に分けられているにもかかわらず!酔っ払いは本当にどうしようもない.

2025年7月11日金曜日

ChatGPTがいつも正しいとは限らない

久しぶりにRailsでアプリを作っている.しばらく遠ざかっていたら,いつの間にかRailsのバージョンも8に上がっていてびっくりである.RailsでWebアプリを作ることをゴールにしているオンライン授業があるが,そろそろ動画コンテンツを作り直さないとマズいなあ.

それはそれとして,いろいろと改良されていて戸惑いも多い.やはり,常日頃から最新の状況をキャッチアップしていないとあかんなあ,というところだろうか.

今回,ブラウザのタブに表示されるアイコン,いわゆるfaviconを設定しようとして少し右往左往してしまった.ChatGPTにでも聞けばよかったのかもしれないが,いつものようにググって新しめの記述を探すと,適切なディレクトリにfaviconをおいてfavicon_link_tagをapplication.html.erbのヘッダ部分に設定すればよい,とある.

しかし,何度やってもfaviconがうまく表示されない.faviconを置く場所が悪いのか,タグのオプション指定をしなければならないのか,いろいろと試行錯誤してみても,一向に表示されないのでへこたれる.どうやっても赤丸のアイコンしか表示されない……赤丸?

赤い丸がなぜ表示されるんだろう?faviconの設定がないページは,Chromeだと地球のマークが表示されるはず.はてさて?ふと思い立ってpublicフォルダを見てみると,そのなかにicon.pngとicon.svgというファイルがあり,それらは赤い丸の画像イメージであった.こいつらか?

それらを入れ替えてみたのが次の図である.なんということはない,これだけでfaviconが表示された.試してはいないが,iPadやiPhoneでWebサイトをアイコン化したときにもこれらのアイコンが使われるようである.

今回のこの顛末,終わってみればなんとも拍子抜けな展開であった.それで,ついでにChatGPTに聞いてみたわけだが,彼もまた古い情報をしたり顔で(?)教えてくれたのであった(次図).皆さんAIがなんでも正しい情報を教えてくれると思ったら大間違いですぞ?

2025年6月27日金曜日

夜を飛び越えて

東京羽田0:20発,ロンドン・ヒースロー6:25着という飛行機に乗った.発着時刻だけから計算すると6時間強のフライトにみえるが,時差が(いまはサマータイムなので)8時間あり,14時間を超えるロングフライトである.いつものように睡眠薬(注:お酒のこと)をたっぷりとキメてから搭乗したので,乗り込んですぐに眠ってしまった.

数時間後,意識が戻り,気付いたら窓の外が明るい.いや,正確にいえば,「明るそうにみえる」という状況だった.私は右(南向き)窓側の席に座っていて,上空には太陽が透けてみえていた.乗っていた飛行機は787なので,窓には物理的な日よけがなく,窓自体が液晶シャッターで電子的に暗くなっている.しかし,液晶シャッターでは直射日光を完全に遮られず,日差しが眩しかったというわけである.

「はて,深夜便で早朝着なのに,なんで太陽が燦々と輝っているんだろう?」と,寝覚めのぼーっとした頭でしばらく考えた.整理してみるとどうということもないのだが,1. 東行きの深夜便,2. サマーシーズンで白夜の北極圏という二つの条件が重なり,なんとも奇妙な体験になった.当該便で何が起こっていたのか,以下のとおり整理してみたい.

ことの顛末

飛行機の進み具合に合わせて順番に状況を説明する.まずは出発の状況を考えよう.0時台の出発であり,日付は新しくなったばかりである(図).

飛行機は順調に東北の方向に進む.地球の自転により夜は西に移動し,急速に朝を迎えた.当該便は微妙にロシア上空を避けながら,アラスカ方面に向かっている.この時点で,飛行機は24日の午前中を飛んでいることになる(図).

さて,ここで当該便は日付変更線を超える.日付変更線を超えてからは,23日,前日の世界である.次の図で「前日」と書かれたエリアを飛んでいることに注意しよう.北米上空を飛んでいるとき,飛行機は23日の一日を急速に過ごしていくことになる.

しばらくすると,再び24日になる.23日を駆け抜けるからである.ところが,ここで,サマーシーズンの北極圏は白夜であることが災いする.それが私に混乱をもたらした理由の一つとなった.すなわち,白夜であるがゆえに暗くならずに24日を迎えてしまうのである(図).

かくして,飛行機は周囲が明るいまま早朝のロンドンまで巡航し,無事,24日早朝のロンドンに着陸したというわけ(図).

頭のなかで考えていたときには「どうしてこんなことが?」と不思議だったが,このように図解で考えてみるとスッキリした.また,時刻表上は「深夜便」なのに「ほとんど明るい中を飛んでいた」というギャップも,混乱に拍車をかけていた理由の一つなのだろう.

以上が今回体験した不思議な出来事の顛末である.

2025年6月23日月曜日

カッコと句読点

学生の論文指導をしていると,学生がよく間違える書き振りにはパターンがあることに気づく.今回指摘したい事項は,文末のカッコの取り扱いである.

そもそも,文末の参考文献リストに挙げている文献を本文中で参照していなかったり,挿入した図版の参照を本文中でしていないなど,論文のルールを逸脱した文章を平気で書いてくる.いかに論文を読んでいないかが明白なのだが,そこは,何度も根気よく指導していくしかなかろう.

そのような草稿を書いてくるので,「挿入した図版は本文で参照して説明しないといけないんだよ?一番イージーな参照方法は,カッコ書きで(図x)って入れればいいから」と指導した結果が,先に示した状況である.参考文献の引用記号の挿入でも多くの学生が同じミスをする.

本来,文Aで参照しなければならない「(図x)」を,句点の後に書いてしまうと,どうなるだろうか.「文A.(図x)文B」となるはずである.これでは,文Bにくっついてしまうではないか.とても気持ち悪いのだが,そう思わないのかな?

そんなことをSNSでぼやいていたら,Y先生が,「ここは『なぜこれが直感に反すると感じられるのか』という研究を始めていただいて……」と指摘してくださった.さすがにこのような研究をされているひとはすでにいるのではないか?と探してみたら,「日本語における句読点使用の定量的研究」というタイトルで,似たような研究をして学位を取ったかたがいらっしゃるではないか(いろいろな研究があるもんだなあ).

当該論文は要約しか読めていないが,博士論文の要約によると,第7章で,句点とカッコの関係性を論じている.そのままズバリではないが,こんな感じ(要約の該当部分を引用する)である.

句点と閉じパーレンの組み合わせでは,「パーレンのみ」は Yahoo!知恵袋とYahoo!ブログ,書籍,雑誌において半数以上を占め,最もよく使われる組み合わせであることがわかった.また,次に多く使用されていた「パーレン-句点」は書籍と新聞,教科書で多く使われる組み合わせであった.「句点-パーレン」は白書において多く使用されていた組み合わせであったが,文末というよりは,資料の引用を示すために文中で使用される例がほとんどであった.

カッコ閉じるで句点を使わず終わりにするパターンが一番多かったというのはやや意外ではあったが,電子的なテキストなどでは,そのようなケースも日常的に使われるだろう(たしかに,そのような指摘がなされている).書籍では「).」という組合せが多いというのは,私の感覚と合致する.そしてその逆は,文中のケースが多かったとのこと,さもありなんである.

ということで,正解は確認できたものの,なぜ学生たちは「文A.(図x)」としてしまうのか問題は未解決のままである.誰か解明してみませんか?

2025年6月19日木曜日

オンデマンド講座の(思わぬ)落とし穴

中央大学には「クレセント・アカデミー」という市民講座がある.私は運営委員の一人でもあり,もう長いこと,いろいろな講座を担当してきた.

最近のチャレンジとして,講義を録画して「オンデマンド講座」として提供する試みが始まっている.といっても,まだ,提供コンテンツはそれほど多くない.現在は,瀧澤先生のゲーム理論講座と,私のプロジェクトマネジメント入門が提供されているだけである.

このオンデマンド講座の試みは数年前から試行されており,事務局から,オンデマンド講座として提供してよいですか?と問われ,そのときは深く考えることなくOKした.とくに断る理由も思いつかなかったからだ.そして,それで問題ないと思っていた.

ところが,ここへきて,少し困った問題が発生した.それは,オンデマンド講座用に講義内容を提供してしまうと,翌年から同じ内容の講座を開けないという問題である.

以前なら,同じ内容で数年は講座を維持できた.しかし,現在,全てオンデマンド用に提供していいですよと快諾してしまったため,毎年,新しいテーマの講座を捻り出さねばならなくなっている.これは困った.

今年実施している「はじめての生成AI」講座は,私が担当する講座としては例年になく人気が高く,キャンセル待ちが出たとのことだが,これもオンデマンド用に録画しているので,来年は実施できない.

1回90分,それを3回実施するクレセントの講座である.新たな内容を毎年考えなければならないのは,なかなかしんどい.オンデマンド講座用に何本も講座を提供したのだから,来年は休ませてもらう交渉でもしようかしらん.

2025年5月14日水曜日

画竜点睛を欠くとはまさにこのこと?

昨日,某所で「ディリクレ関数がいたるところで不連続であること」についての議論になり,ChatGPTに聞いてみたらどうなるだろうかとの話になった.

以下は,ChatGPTとの対話の記録である.まず,私が「ディリクレ関数が不連続であることを証明してください」と尋ねた.

すばらしい!ワンダフル!ここまでは申し分のない説明である.記号の使い方も全て正しく,ε-δ論法で証明せよという方法論もバッチリだ.

わざわざ稠密なんてキーワードを太字にしたりして,なかなかやるやんけ,と,イイ感じで証明が進み,最後の「どんな小さなδを選んでもD(x)とD(a)の差分が1になってしまうから連続ではない,ってところまではバッチリ.

ところが,最後の「ε=0.5」でガックシ.0.5って,どこから出てきちゃったのよ?

希望があれば図でも示せるで?って調子に乗っちゃってるChatGPT,じゃあやってもらおうとお願いしてみたら……

ありゃりゃりゃ,うーん(x = λって,λってどこから出てきたの orz)

まあ,たぶんこれらのミスは,まるっとわけもわからずそのまま引き写してレポート書いちゃう学生を検出するためのリトマス試験紙として,ChatGPTが「わざと」出してきてくれているのだろう,なんて,好意的に解釈してみたり.そんなわけないかw

2025年4月26日土曜日

Herokuスタック・アップデートの備忘録

Herokuを使ったアプリケーションのサービスを二つ運用している.毎月十数ドルの利用料を払っているが,いずれも多数の皆さんに利用していただいているので,利用料を払っているだけの価値は得られているだろう.

数年前からずっと利用しているサービスなので,以前から,「使っているスタックをアップグレードせいやー」という連絡を受けていた.スタックというのは,アプリケーションを動かすプラットフォームのことである.これまで,heroku-20と名前の付いているスタックを使用していたが,そのスタック利用期限が今月末,4日後の4月30日だというのだ.

もちろん,ほったらかしておいたらすぐに使えなくなってしまうわけではない.利用だけであれば,このままで,まだ使えるとのこと.ただし,セキュリティ対応やさまざまなサービスは打ち切られる.また,致命的なのは,利用期限を超えたスタックを使っている場合,コードの変更やアップデートができなくなる,という制限である.これは,ちと,まずい.

スタックのアップグレード

というわけで,ようやくお尻に火がついた私は,重い腰を上げてスタックのアップグレード作業に着手したのだった.

結論からいうと,終わってみればなんということはなく,あっけなくアップグレードは終了した.ウェブサイトの指示に従い,次の手順でアップグレードすれば,ほぼ,問題なく終了する.

  1. 新しいスタックの環境を作り,スタックを更新してきちんと動作するかどうかのテスト用アプリをデプロイする,
  2. そのアプリが正しく稼働するか,ソースコードをアップロードして起動してみる,
  3. 問題なく動くことを確認できたら,テスト用アプリを削除して,本番環境のスタックをアップグレードする

いくつか説明通りにいかないところがあって試行錯誤しながらではあったが,無事,heroku-22にアップグレードできた.ついでに,というか,勢い余って現在の最新版であるheroku-24にまで上げてしまった.これでしばらくはアップグレード問題に悩まされることはなくなるはずである.

躓いたポイント

ウェブサイトの説明に従ってやったらほぼ問題なくできたが,いくつか躓いた点があるのでそれも紹介しておこう.

まず,説明通りにやったらうまく動かなかった.テストアプリを立ち上げて「ダメでっせ」という画面が出ていたときの,嗚呼,落胆たるや,いかほどばかりであっただろうか.世の中うまくいかんもんよなあと,日頃の行いをしばし反省である.

うまく動かんときはログを見よという指南があったので,ログをみたら「データベースにそんな関係は定義されていない」というエラーが出ていた.なんのことはない,よけいなデータベースを作って参照していただけという問題だった.

説明では,addonsの一覧を表示させて使っているaddonsを調査してそれらををcreateせよとあり,その説明に素直に従ったため,不必要なデータベースを新しくもう一つ作ってしまっていたわけだ.当然ながら新しいデータベースは何のテーブルも定義されていないので,そのままだとエラーになる.

作ったaddonsデータベースをremoveしてから,既存のデータベースをaddons:attachすれば,問題なく現状のデータで動いた.逆に,いま使ってるデータをアップグレードしたスタックのテストアプリからそのまま使えたので,データベースがアプリから切り離されていることのメリットを感じた瞬間でもある.いろいろ更新したアプリから,そのまま,何もなかったかのようにデータを弄れたのには,頭ではわかっていても「おおすごい」と思ったものである.

あともう一つ,コードのデプロイに git push heroku main という呪文を唱えるのだが,これが何度やってもエラーになる.「そんなリポジトリない」というようなエラーである.はて?と思って,ふと,気付いたのは,mainじゃなくてmasterだよ,ということ.最初に作ったのはだいぶ前であり,「masterはPC的にけしからん,mainを使え!」とよくわからないムーブメントが起こる前であった.それをすっかり忘れていた.git push heroku master とやったら,問題なく処理できた.

2025年4月22日火曜日

すごすぎる「ラストメッセージ」

文化放送で放送されている「髭男爵 山田ルイ53世のルネッサンスラジオ」という番組がある.文化放送で放送されている,という言い方は若干,正確ではないかもしれない.文化放送で収録されているPodcast番組である.地方局では地上波に乗せられているところもあるらしいが,肝心の文化放送で「放送」はされていない.

それはともかくとして,この番組,なかなか面白く,放送開始当初からずっと聴いている.Podcastでは最後に「ラストメッセージ」というコーナーがあり,これがときどきべらぼうに面白い内容を紹介するのだ.そして,今週は強烈な内容で,すごい内容にもかかわらず,笑い転げてしまった.4月21日配信回の「ラストメッセージ」は,神回といってもよいかもしれない.いや,神回である(断言する).

内容をここで紹介するのは野暮というものであろう.X(旧Twitter)の反応をいくつか貼っておこう(消えてしまうかもしれないのでリンクではなくスクショを貼っておく)





気になる人は,ぜひ,Podcastで同番組を聞いてみてほしい.オススメである.

2025年4月17日木曜日

グループディスカッションは少人数が望ましい?

日本とタイ,マレーシアの大学生による異文化間交流の様子を分析している.詳細な分析はこれから進める予定だが,少し面白い傾向が見出された.それは,グループの参加人数が多くなると「聞くダケさん」がどうしても出てくるということである.

この異文化間交流のプロジェクトでは,少人数のグループに分けてオンライン会議システムを用いて交流を進めている.しかし,諸事情がありその人数は2名のマンツーマンによる対話から10名を超える大きなグループでの実施まで幅広い.

それらのグループに関し,ターンテイキング(話者交代)の状況や発話回数を可視化してみたら,「どうも,人数が多くなると対話に直接参加せず,聞いているだけという参加者が出てきてしまうなあ」ということにあらためて気付いた.

これは皆さんも日頃感じているのではなかろうか.大勢が参加する会議ほど,参加者の参加意識は希薄になり,発言者は偏る傾向にあることを,日々,感じてはいまいか.とくにオンライン会議では,会議に参加しているフリだけして別のことをしていたり?

まあ,会議はともかく,今回のグループは異文化間交流であるから,本来,参加している全員によって積極的に交流を進めることが望ましく,全ての参加者が均等に発言すべきはずのものである.しかし,やはり人数が多くなると,尻込みしてしまうのか,あまり発言しない参加者がどうしても出てくる.

というわけで,グループの参加者と,発言回数のばらつき加減の関係を調べてみた.次のグラフは,グループの参加者数を横軸に,参加者の発言回数から計算される変動係数を縦軸にして散布図をプロットしたものである.

なお,変動係数とは,標準偏差を平均値で割った無次元数である(nが小さいのでここでは不偏標準偏差を用いている).分散や標準偏差は元データのサイズが大きくなるとどうしても大きくなってしまうので,平均値で割ることで正規化する.規模の異なるデータのばらつき具合を比較するときには,分散や標準偏差ではなく変動係数による比較が望ましい.

さて,図を見てみると,どうだろうか.かなりきれいな相関が出ていることに気付く.グループの参加人数が多くなると,変動係数の値は大きくなる.つまり,発言回数のばらつきが大きくなる……よく喋る人と聞くダケさんに別れてしまう状況が,数値で表されている.また,相関係数は0.76,これはかなり高い相関があると指摘できる.

結論である.グループ内で満遍なく発言を促すには,あまり大きなグループにするのは適さないということをあらためて確認できた.

2025年4月13日日曜日

数学の深イイ問題

高校レベルの数学の問題ではあるが,なかなか面白い問題を教えてもらったので紹介したい.まずは次の図をみてほしい.

「左下の点Aから,右上の点Bに,最短距離となるように線上を移動するとする.このとき,点Pを通る確率はいかほどか?ただし,どの道を選ぶかの確からしさは一様に等しいものとする」という問題である.

答えを見る前に,少し考えてみていただきたい.どうだろう?(答えを知りたい方は,スクロールしてみてください)

問題の解答

角で曲がりつつ,最短距離を通ってAからBに移動するとき,何パターンの経路があるかを考えてみよう.

AからBに至るまでの最短経路は,どのパターンであっても必ず7個の辺を通る.ここで,上に行く場合を「↑」とし,右に行く場合を「→」で表現する.Aから真上に進んで左上の角を通ってBに至る経路は,A↑↑↑→→→→Bと表現できる.同様に,上に2回進んで,最上段は左から二つ目のパスを通ったとすると,A↑↑→↑→→→Bである.右下の角を通る場合は,A→→→→↑↑↑Bとなる.次の図のケースであれば,A↑→↑→→↑→Bである.

さて,ここまで気付けば,もうゴールは近い.どの経路を選ぶにしても,AからBまで行く7個の経路のうち,3個が「↑」,4個が「→」という性質は変わらない.言い換えれば,7個の選択肢のうち,どの3個を「↑」として選ぶか,その選び方は何通りあるか?である.ようするにこの問題は,7個から3個を選ぶパターンはいくつかあるか?という問題に帰着する(7個から4個の「→」を選ぶ個数でも同じである.なぜならば,3個選ぶと残りの4個は自動的に決まるからである).

ということで,これは組み合わせの数として計算できる.すなわち,7C3 = 7! /(3!・4!) = 35,AからBまでは,35通りの経路があるとわかった.

そのうち,Pを通るものは,AからPへの経路とPからBへの経路の組み合わせで表現できる.この場合は3C1×4C2 = 3×6=18.ということで,Pを経由する確率は,18/35 = 0.514,およそ半分強であると求められた.■

問題の条件が変わると……

ところで,問題が次のようなものであったとしたら,どうだろうか?

「左下の点Aから,右上の点Bに,最短距離となるように線上を移動するとする.このとき,点Pを通る確率はいかほどか?ただし,2方向に進めるときにどちらの道を選ぶかの確からしさは等しいものとする

先ほど求めた答えと同じ,Pを経由する確率は18/35?

否,そうではない.

Aから出発し,最短経路を選ぶとき,上図のように上に進むか右に進むかの選択肢がある.このとき,どちらか(赤と青)を選ぶ確率はそれぞれ1/2である.

ということは,Pに到達するまでには,3回の岐路を通っていくことになる.

Aから3回,どちらを通るかを選択した時点で,次の図の赤丸で示した点のどこかに居るはずである.そのなかにはPも含まれるが,Pに至る確率はいかほどだろうか.

二つの選択肢を3回選ぶパターンは,2^3=8通りある.それぞれのパターンを選ぶ確率は,2方向に進めるときにどちらの道を選ぶかの確からしさは等しいとの性質から(1/2)^3,すなわち1/8である.

さて,点Pに至るパターンはいくつあるか.これは,先ほど計算した3C1,つまり,3通りある(次図).

ということは,Pを経由する確率は,8通り中の3通りであって,8通りの確率が同様に等しいことに鑑みれば,3/8ということになる(残りの進み方は,どの経路を辿っても残り3回の交点の通過を経て最終的には最短経路でBに到達するので,考える必要はないことに注意).■

二つの問題の違い

さて,ほとんど同じようにみえる二つの問題だが,微妙な条件の違いで異なる答えとなった.問題を再掲する.

問題1:「左下の点Aから,右上の点Bに,最短距離となるように線上を移動するとする.このとき,点Pを通る確率はいかほどか?ただし,どの道を選ぶかの確からしさは一様に等しいものとする

問題2:「左下の点Aから,右上の点Bに,最短距離となるように線上を移動するとする.このとき,点Pを通る確率はいかほどか?ただし,2方向に進めるときにどちらの道を選ぶかの確からしさは等しいものとする

問題1の答えは18/35、問題2の答えは3/8である.このことから,次のような教訓が得られる.

「問題文は注意深く読み,問われている内容に適切に解答すること」

端的に表されるので数学の問題を例にして説明したが,これはなにも数学の問題に限った話ではなかろう.いずれにしても,本問はまさに,読解力や論理的思考の必要性を感じさせる,良問であると感じた次第.

2025年2月28日金曜日

2024年度インドネシア研修

2月の20日から26日まで,飯尾研有志(2年生4名,3年生2名,4年生4名)でインドネシア研修を実施した.2月22日にYogyakartaのジャガマダ大学で開催されたSPICE2025における発表(4年生)と,24, 25日に実施したYogyakartaの高校訪問において中央大学を紹介するプレゼンテーション(2, 3年生)が主な目的である.

SPICE2025では,以下の内容で発表した(私も,与えられた枠の前半を使い,概要について報告した).

Iio, J., Saito, Y., Iijima, M., Ito, N., Ogaki, R., Morimitsu, I., and Miyamoto, Y., (2025) SMILE Project Report, The Case of KMITL and Chuo iTL in AY 2024, The 5th International Conference on SMILE Project and Intercultural Communication Education (SPICE2025), Yogyakarta, Indonesia.

また,2, 3年生のプレゼンテーションも,時間が足りなくなって少し慌てたところはあったが,それなりにカッコよくできた.素晴らしい(写真は,私が彼らを紹介しているところ).

23日の日曜日には,研修のエクスカーションとして近隣にある世界遺産のボロブドゥールとプランバナン寺院群を視察,インドネシアの文化・歴史も学び,有意義な研修になったことだろう.

2025年2月3日月曜日

さようなら,ネ申パワポ

ネ申エクセル(かみえくせる?)という言葉がある.別名,エクセル方眼紙.正確にいえばエクセル方眼紙の上位概念かな?まあ,いずれにしても,エクセル,いや,スプレッドシート,日本語でいえば表計算ソフトウェアの「本来の使い方『ではない』使い方」をしているもののことを指す.エクセルに代表されているが,MS Excelに罪はない.他の表計算ソフトでも似たような使われ方をしているものは全てネ申エクセルである.

ネ申パワポに物申す

さて,今日わたしが文句を付けようとしているのはネ申エクセルではない.いわばネ申パワポと言うべきであろうか.コンサル業界に蔓延している「パワポ報告書」の類である.コンサル業界と書いたがわたしの古巣である三菱総研にも蔓延っていた(いまはどうでしょう?).私も以前は何度か作ったことがある.今では反省している.ごめんなさい.

そもそもパワポ(MS Powerpoint)はプレゼンテーションソフトなのである.プレゼンテーションの資料を作成するためのツールなのである.報告書はワード(MS Word)もしくは他のワードプロセッサ(ワープロ)で作りなさい.報告書のような「〇〇書」を作成するツールはワープロソフトたるべきである.

プレゼン資料 ≠ 報告書

パワポ報告書はそのままプレゼンに使えるから便利?アホなことを言ってはいけない.読めへんわ!横着せずにプレゼン資料は別に作ってください.後生だから.

下記をみてほしい.上はどうみても「プレゼンしてるふり」にしか見えない.

図版の扱い

図版の扱いがパワポのほうが簡単で,図を多く入れようと思うとパワポのほうが図と親和性が高いから便利?これも勉強不足です.ワープロソフトでも図を扱う機能は充実している.論文や報告書の類であれば,原則「文字として」扱う設定にして中央寄せにし,「キャプションを追加する」機能で図表番号とキャプションを入れるべし.それを正しくやれば,ページを跨いでキャプションの生き別れみたいな情けないミスもなくなる.

そもそもパワポに番号の相互参照機能ってあったっけ?「報告書なら」本文から図表番号を必ず参照するはず.図版の番号を連番で自動的に振ってくれる機能も,あったかな.まさか番号の参照を手作業でやってないよね?図版の順番を入れ替えたときどうしてるの?目視チェック?

共同作業向き?

パワポだとページ単位で担当できるから複数人による共同作業に向いている,という言い訳も聞いたことがある.まあ,直感的ではある.でもイマドキのワープロなら複数文書を束ねる機能だってちゃんとある.本の原稿をワードで書いたことがあり,そのときは章ごとにファイルを分けて,最後にガッチャンコした.やり方,忘れちゃったけど…….

しかし報告書の内容がページ単位で綺麗に分割できるもの?内容によって,大小,あるんじゃないの?図版のサイズで調整する?絵本作ってるんじゃないんだから.あ,オトナの絵本を作ってると理解すればいいですか?

「資料」なら許す

ちょっとググってみたら役所や著名なコンサル企業はパワポ報告書のデザインがすごい!みたいな記事を見つけちゃったわけ.でも,そもそも書籍や雑誌は「いかにして(さまざまなステークホルダの利害を調整しながら)読者に分かりやすい紙面を提供するか」に命かけてるからね.ネ申パワポなんて笑止千万である.ヘソで茶が沸く……は言い過ぎですねごめんなさい.

かつて,私の古巣である三菱総研の某セクションでは報告書をLaTeXで組んでいた.複数担当者で単語表記の揺れが出ないようにマクロを使いまくるという徹底ぶりで,LaTeXマスターNさんのその仕事ぶりは鬼気迫るものがあった.しばらく会ってないけどNさん元気かな.まあ,LaTeXで組むというのはやりすぎかもしれないけれど,報告書に命を吹き込む,書類の品質を上げるって,そういうものだと思うわけですよ.古い考えかもしれないが.

百歩譲って「資料」と称するならまだ許す.報告書作成を舐めないでいただきたいものである.

2025年1月9日木曜日

HCII2025参加およびハワイ大学訪問

1月4〜7日の日程でハワイはホノルルにて開催されたHICE2025という学会に参加すべく,ハワイを訪れた.実は初ハワイである.海外は,とくに東南アジアを中心としてかなり辺鄙なところを訪問したりもしているが,ハワイにはこれまで縁が全くなかった.

私は以下のタイトルで発表した.Q&Aも盛り上がり,それなりにウケていたようで,とにかくいい反応だった.

Iio, J. and Noro, H. (2025) Exploring the Potential of AI-created Questions in Programming Mock Exams, HICE2025, Hawaii International Conference on Education, Hawaii, HI, USA.

そのセッションのチェアも割り振られており,1時間半,気を抜けなかったが,活発な議論がなされたので任務は全うできた.ところどころで笑いも取れた.チェア冥利に尽きる.

1月6日にはハワイ大学マノア校を訪問した.Dorothy教授ほか何名かとお会いして意見交換をした.キャンパスを案内していただき,自然豊かなキャンパスに感嘆した.iTLの都市型キャンパスも悪くないが,広大な土地に広がるキャンパスはそれはそれで大学らしくてよい.

ハワイアン・ゲッコーが迎えてくれた.いかにもトロピカルな柄に癒される.

2025年1月7日火曜日

こんなところでHCD(10)

「こんなところでHCD」のシリーズも気付けば10回目である.もっとHCD的に考えるべきだというデザインは,良いものも悪いものも,日常に溢れているということの現れであろう.

というわけで,今回は,心にグッときた良いデザインをご紹介したい.まずは写真を見てください.

年明け早々に参加したHICE2025という教育系の研究発表を行う国際会議でのひとコマである.例によって受付で「Jun Iio」のバッジがなく(おそらくLioにまちがえられていてLの欄に紛れ込んじゃってるんだろうなあ……と思いつつも,「オーケー,あっちで印刷してもらえるから大丈夫だよ!」と明るく言われたのでそのまま指示に従ったのであった)その場で発行してもらったものである.イマドキはプリンタですぐにちゃちゃっとそれっぽいのが作れちゃうからすごい.

指摘したいのはそんなことではなくて名札ケース(バッジホルダー)のほう.写真を見れば一目瞭然なのだけれども,このバッジ,ひっくり返らないのである.

会議の名札,首から下げるタイプはどうしてもクルクルとひっくり返る傾向があり,マーフィーの法則的にいえば裏面が示されてしまっている確率のほうが高いのではなかろうか?しかし,このデザインであれば右上と左上の2箇所で吊っているので,原理的にひっくり返るはずがなかろうというものであって,シンプルながら素晴らしいデザインである.

クリップの数が2個になるので若干コストが上がるかもしれないが,何万個も使うわけでなし,たいしたコストではあるまい.このタイプの名札ケース,日本では見たことがない.あるのかな.研究会等で名札ケースが必要になるときは,次からこのタイプを探してみようと思っている.