2023年4月23日日曜日

出鱈目をまことしやかに流布すべからず

 昨日「1ウタマロ = 3ドラムカン」の話を紹介した.その語源は昨日投稿したエントリのとおりだが,この「1ウタマロ」というキーワード,どのようなときに使うかといえば「驚いた,びっくりした」というときに,その驚愕の度合いを感覚的に示す際に使われたのであった.

例文を示そう.「こないだ交差点で,右から来た車に轢かれそうになったんだよ.0.8ウタマロくらいドキドキした」「先日の土砂降り,雷がひどかったじゃない?庭の木に落ちてさあ,雷が落ちた木,折れて倒れちゃったんだよ.もう3ウタマロ」などである.

1ウタマロが十分にびっくりしたときの単位なので,3ウタマロは,相当なものである.通常は,1ウタマロ以下で用いられることが多かった.そこで補助単位ドラムカンの出番である.

なにしろ3進数なので使い勝手が悪いことこのうえないのだが,ちょっと驚いたときなどこの補助単位のほうが使いやすい.「出会い頭で向こうの自転車にぶつかりそうになった.0.5ウタマロ?そんなでもなかったな.うーん,1ドラムカン」てな具合.

まあ,馬鹿馬鹿しい遊びである.バカな大学生が考えそうな,ちょっとした言葉遊びだ.

話はとりとめもなく続く.

痛みの単位はハナゲ

架空の単位で思い出すのは「痛みの単位はハナゲ」というジョークである.ずいぶん昔のことなので詳細は忘れてしまったが,ネットに残っている記録によると,95年にやゆよ記念財団という冗談を集めて発信しているサイト,いまでいえば虚構新聞社のようなサイトが発信したのが元ネタだとされている.

どういうジョークだったか.Wikipediaの当該項目から引用しよう.

国際標準化機構 (ISO) によって,人間の痛みの感じ方についての統一単位「ハナゲ」(hanage) が制定され,「長さ1センチの鼻毛を鉛直方向に1ニュートンの力で引っ張り,抜いたときに感じる痛み」が「1ハナゲ」と定義された,とするものである.

もちろんこれは全くの出鱈目である.

当時,面白いことを書くヤツがいるもんだなあと関心していたが,いかにも「それっぽく」書かれているので,釣られてしまう人が出た.当時の記憶を辿ると,会津大学の先生だったはずである.個人名は忘れた.その先生,間に受けて「日本からの提案が世界で標準化されるとは素晴らしい」というような真面目なコラムを,とあるメディアに寄せてしまった.

その後の顛末はほとんど覚えていない.確か,当該コラムは取り下げられ,その先生は赤っ恥を書いた,というような結末だった.昨今,フェイクニュースが社会問題となっているが,今から振り返ってみると「インターネット黎明期からすでにそのような問題は顕在化していたんだなあ」ということがわかる.

ところで「痛みの単位はハナゲ」というキーワードでググってみたら,産経新聞の「痛み学入門講座『ハナゲ』は客観的な単位」と題した記事がヒットした.2019年の記事である.この記事,「インターネット上にまことしやかに流されたニュースがある」とは書かれているものの,この書き方だと,本当のことだと信じちゃう読者がまた続出したんじゃないか?大丈夫か産経新聞.

ChatGPTは?

さて,まことしやかにしれっと嘘情報を出力するといえば,ChatGPTである.いや,「嘘」というと怒る人がいるので,正確ではない情報を出力する,と言い換えておこう.

なにしろ,質問の文章に対して最もそれっぽい文章を出力する,という原理に基づく機械であるから,これは,そもそも質問文として正確ではない情報を入力すれば,正確ではない情報が出てくるのは当たり前なのである.GPT3.5がGPT4になり,さらに改良されようとも,その基本は変わらないはずだ.

例えばこれ.

排他的バッグトリム理論について,ChatGPTは,懇切丁寧に教えてくれた.イャッッホォォォオオォオウ!素晴らしい.提唱者の私すら知らないことを……っていうか排他的バッグトリム理論って何だよぅ(排他的バッグトリム理論とは,私がいまテキトーに考えた,いかにもそれっぽい名前の「なんかカッコいい理論の名前っぽい架空のキーワード」である)w.

であるからして,ChatGPTにこの痛みの単位はハナゲの話を聞いてみて,反応はどうなるか,試してみたのである.また,いけしゃあしゃあと「痛みの単位であるハナゲについては」などとまくしたてるかと思いきや.

バッサリと真正面から正論で否定しやがった.さてはこいつ,やゆよ記念財団の件,しっかり学習してやがったな?

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