高校で三角関数を教えるのはナンセンスという趣旨の発言をした某議員がSNSで炎上している.
(数学)教育は重要な投資
なんでも,三角関数の代わりに金融リテラシーを教えるべきだそう.ところが,金融リテラシーっていうから,たとえば株価の予測に関する原理的なところとか,もっと踏み込んで教えるべきだというご主張かと思ったが,そうではないらしい.株価の変動は時事刻々と変化するデータで,しかも周期性がみられる典型的な時系列データ.フーリエ変換して特徴量を抽出,それを機械学習でどうこう,みたいな,世界で闘えるレベルの知識を高校生から叩き込むべきだ,っていう勇ましい話ではないみたい.あれ?そもそもフーリエ変換するのに三角関数の知識がなければできないぞ?おやおや.
将来世界で闘える大人になれそうな高校生数名にピンポイントで教えればいい?いや,それでもいいと思うよ?そんなことができればだけれど.その高校生数名って,高校生の時点でどうやって発掘するんだろう.こういうことって確率事象だから,成功者の人数を確実に増やすには,分母をできるだけ大きくするしかない.これって研究の世界でも同じで,ノーベル賞受賞者を増やすためには,研究の質を上げるとともに,研究者を増やすしかない.このへんの理屈をきちんと理解するためには,三角関数だけじゃなくて,確率・統計の知識も重要だ.確率や統計もしっかり学んでおくべきだということがわかる.
そう考えると,高校生に三角関数をきちんと学ばせるのは,投資的な意味でも効果は高い.物理学を応用する分野では必須であるだけでなく,先に挙げた時系列データを扱う分野では確実に使う.世界で闘えるレベルでなくとも,少なくとも多少高度な分析を行いたいのであれば知ってないとまずい.なので,三角関数を高校で学んだ結果は応用が効く.理系だけ知っていればいいというものでもない.
三角関数こそまだ高校で教えられているけれど,現在の高校数学では行列が外されている.まあ,行列はあくまで一つの例だが,これまで,このような投資を軽んじてきたからこそ,日本が没落しつつあるというのは言い過ぎか.
社会科学における応用例
つい最近,幾何的なプログラミングをしていて三角関数を利用したばかりだが,ここでは,もう一つの利用例として,社会科学における三角関数の応用例を紹介しよう.
我々が2019年からずっと続けてきている,ツイッターのトレンドを分析するTWtrendsシステム( https://twt.iiojun.com/ で稼働中),これは,社会科学の範疇に含まれる研究事例といってよいだろう.本ブログでもこれまで,「SNSを新聞代わりにできるか?」や「オンライン講義開始で何が起こったか」という記事で紹介してきた.
この図は,TWtrends画面の一部を切り取ったものである.上には,その日のTwitterトレンドが並ぶ.それぞれをクリックすると,トレンドに関連するツイート群から構築された共起ネットワーク図が表示され,トレンドの内容が概観できるという仕組みである.
図の下部には,その日のトレンドから構成されたトピックマップが描かれている.トピックマップとは,関連するトレンドを一つにまとめたものである.同じ話題でも複数のキーワードで盛り上がると,トレンドの単語がいくつも取り上げられるという特徴があるので,それを一目で確認できるようにしたものだ.
では関連するトレンドをどう見極めるか.ここで三角関数が登場する.全てのトレンドに関する単語空間を用意し,その空間にばら撒かれた単語群から似たような単語をまとめる際に,コサイン類似度と呼ばれる指標を用いている.この指標は,コサイン類似度という名前に「コサイン」が出てくるとおり,三角関数のcosに由来する.ベクトルの内積と大きさから計算されるので明示的にcosは出てこないが,理屈を理解するには三角関数の知識が不可欠である.詳しく知りたい方は,次の参考文献をご覧ください.
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