2021年5月10日月曜日

査読制度の穴

昨日書いた「論文の査読制度」と題するエッセイのなかで,査読制度も完全ではないという話題についてちょっとだけ触れた.今日はその補足というか,こんなこともある,ということを記しておきたい.

これは2020年3月26日に私がFacebookに投稿したコメントである.とある国際会議のTPC(Technical Program Committee)を拝命し,投稿された論文を査読していたときの出来事を紹介したものだ.見て分かるように,これは「剽窃」の典型例である.

コピペはばれる

「他にもこんなんがてんこ盛りで残念…… 内容はそれほど悪くないのに」とコメントを付けたところ,「まあ,その通りだとは思うけど,SNAPの本家がそういう説明をしているので,それに近い説明になってしまうのは致し方ない,というのは甘いでしょうか?」との指摘をいただいた.しかし,これ,語順を微妙に変えていて,ずるい.本人にも悪気があり,故意にやっていることは明らかであろう.

他にも,次のような,微妙に表現を変えているけれども,ほぼ同じ,という表現がてんこ盛りになっていた.これはもう,クロと判定せざるを得ない.

(当該論文からの抜粋)
Igraph is a suite of network analysis tools focused on performance, portability & user-friendliness. Igraph is a free and open-source package. Igraph can be programmed in R, Python, Mathematica and C / C++.
(元ネタと思しき記述からの抜粋)
igraph is a collection of network analysis tools with the emphasis on efficiency, portability and ease of use. igraph is open sourcfe and free. igraph can be programmed in R, Python, Mathematica and C / C++.

この論文,各種のツールを比較して云々というもので,それらのツールの紹介がほぼウェブサイトからの剽窃というものであった.こういうのは分かってしまうのだ.文の匂いというのだろうか.論文の文章らしくないなーと感じるので,ググるとだいたい発見できる.

査読にも限界が

しかし,査読にも限界はある.アマアマな査読者,あるいは,これを見抜けない査読者は居るのである.もっとも,彼らの目をフシ穴と言うなかれ.前稿で紹介したように,本来は自らの研究で,そして大学の研究者であれば研究と両輪とされる教育に時間を取られていて,査読者も多忙なのだ.

先に紹介したFacebookへの投稿には「リジェクトされても,別の論文誌に出すんでしょうね.貴重な査読者の時間を無駄にするので,このような行為はどうにかしないといけませんよね」というコメントも付いた.その通りである.

この論文をクロと判断した私は当然ながらリジェクト,それもお灸を据えた理由書を添えて突っ返したが,案の定,別の国際会議の予稿集に同じ原稿を発見した!(正確には同じ原稿と思しきものを発見した)…… 通してしまった査読者がいた,ということである.どうも全く修正せずに投稿しているらしい.いやはや舐められたもんだな,という気持ちがないこともないが,とりあえず名前だけはメモしておくことにしよう.

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