2000年前半から10年ほど,私はフリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアにガッツリ関わる生活をしていた.自らが作成したプロダクトをOSSとして公開もしていたし,経済産業省がOSSを担いで日本のIT市場振興をしようとしていた手伝いもした.後者はなんだかんだいって大小取り混ぜて100件近い数のプロジェクトに関わり,いろいろ得難い体験もさせてもらった.
そんなわけで,OSSの考え方は今でも思考の根幹を支える重要な概念になっているし,チェスブロー教授が提唱するオープンイノベーションなどの考えにもとても共感する.そういえばFLOSS(Free, Libre, and Open-Source Software)関連の書籍も出していたっけ(残念ながら,あまり売れなかったけれど).
世の中そうでもないのか
とくにインフラ周りを中心として,重要なソフトウェアがOSSとして流通しているので,IT業界にいるとこの考え方は「当たり前」に感じる人も多いことだろう.しかし,業界が変わるとそうでもないのかなということを,先日,目の当たりにした.
世の中そうでもない?〜その経緯
それは,「卒論テンプレート」を頒布しようとしたことに対する反応である.この卒論テンプレート,これまでも秘伝のタレのように継ぎ足し継ぎ足しで作って学生に使わせていたが,いろいろ不具合が出てきたので真っさらから作り直したという代物で,なんとなく形になったから,他の先生方にも使ってみてもらおうとSNSで頒布のアナウンスをしたという経緯である.
まあ,OSSの概念からすると自由にダウンロードしてもらって,という態度が王道ではあるが,今回は,誰に渡したか,どんな人が欲しがるかということも知りたかったので,欲しい方は連絡ちょうだいね,ということにした.その結果,7〜8名の先生方から「欲しい」との連絡を受けた.
世の中そうでもない?〜とある反応
卒論テンプレートをお渡しした先生のなかのお一人から,今回,このファイルを公表し配布した狙いを教えていただきたいという質問をいただいた.彼の周囲にいる教員の方々は教材等の成果物は非公開にして手元に留める方が多い印象とのこと.それゆえに,私の行動に対して「感謝する一方でカルチャーショックを受けた」とぶっちゃけトークで教えてくださった.
その質問に対して,私は次のように答えた.
それは「私が Free Software / Open-Source Software というカルチャーに関連した仕事を長らくしてきたからである」と簡潔に説明できるでしょう.成果物を公開・共有することが自己の利益になる,ということを身をもって体験してきたからです.今回も,さっそく「Windows版でうまくいかん!」というフィードバックをいただき,助かりました.(こうすれば直ったよ)という報告があれば,もっと嬉しいのですが……
もちろん,私が成果物を積極的に公開するのは,他の理由もある.単純に感謝されて嬉しいということもあるし,このようなノウハウを持っていることの宣伝にもなる.情報系研究者の端くれとして,興味の対象のひとつでもある.さらには,これが縁で人的ネットワークが拡大するであろうという野心もあるし,出版社から声がかからないかななどという下心だってある(本件に関する企画提案,受けてくださる出版社があれば,ぜひご連絡を!w)
まだまだ啓発が必要なのか
FLOSSの概念は既に十分に浸透したと私は勝手に思っており,最近は,OSS関連の活動に積極的に関わることも少なくなっていた.しかし,まだまだ啓発活動が必要なのだろうか.オープンイノベーションはIT業界に限らない.学術の世界でも似たようなアイデアは有効だ.
奇しくも論文はオープンアクセスの方向に向かっている.オープンアクセス化するためには多額の費用を払わねばならぬという課題はさておき,知の公開と情報流通のさらなる円滑化に対して,我々は,今後ますます気を配っていくべきであろう.
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