2025年10月9日木曜日

剽窃ダメ!絶対!

某大物漫画家によるパクリ騒動が炎上している.このテの話題,数年に一度,思い出したように炎上しますなあ。著作権の侵害だ,いや,肖像権の問題だ,など,いろいろな意見で盛り上がっていて,やはり大物漫画家だけあって,熱心なファンがアクロバティックに擁護する意見なんかも出していて微笑ましい(いや,ダメだろ)ものの,やはり,剽窃はいけない.

トレパク,パクリ,模写,いろいろな言い方があるが,ここははっきりと「剽窃」と指摘すべきである.万引きは窃盗です.パパ活は売春です.

剽窃はなぜいけないか

さて,では剽窃は何がいけないか.いろいろと問題点は指摘できるが,ここでは,私の経験と照らし合わせて次の問題点を紹介しておきたい.

はい出ました.この意見である.「これだけ見ても,イラストから真似たのもあるんじゃ?」♪───O(≧∇≦)O────♪

はいはい,こういう意見が必ず出てくるわけですよ.こんな意見(綾辻, 2025)もあったぞ?

でも、放っておいたら世間的には天才漫画家として崇められている江口寿史の方がオリジナルということになり、自分の方がニセモノ扱いされてしまうかもしれず、これほど悲しいことはない。

蛇足だが,これは「引用」なのでなんの問題もなく,かつ,無断でやってよい.というか,本来,引用は断り無しにやるものだ(文章を引用する場合.図版の引用はまたちょっと事情が異なる).昨今,無断引用などという珍奇な用語が流布しているが,書いた文章を公開しようという者であるならば,引用のルールくらいきちんと学んでいただきたいものである.

私の経験

もう昔話だし,時効でもあるけれど,私がかつて,こんなことをされたという剽窃事例を紹介したい.ネットもまだ黎明期といってよい頃,21世紀に入ってすぐ,くらいの出来事である.

何が行われたかというと,私の書籍に掲載されていたプログラムのソースコードが,「まるっと」ウェブサイトに掲示されていたという事例である.しかも,ご丁寧に,書籍では日本語で入れていたプログラム内のコメント文を,全て,英語に翻訳して.

まだS先生はご存命のようなのでイニシャルで示すが,それをやらかしたのは,O大学,S先生の研究室に所属していた博士後期課程の学生で,S研究室のウェブサイトに,ご丁寧にもソースコード一式が勝手に載せられていたのである.

2000年あたり,ということでググればすぐにわかってしまうが,画像処理関係のプログラムを指南する書籍である.当時はGitHubはまだなかったかな.ソースコードを共有するとすればSourceForgeなどを使っていた時代である.本の内容をフォローアップする出版社のウェブサイトなどもなく,書籍に掲載していたプログラムをCD-ROMなどで提供することもしていなかった.

ということは,彼は,全て,手打ちで入力し,さらにコメントも英訳したということである!けっこうな量があったので,努力賞はあげてもよいかもしれないけれど.

さて,問題は,彼のウェブサイトに,出典もなにも書かれておらず,全て,自前でプログラムを用意したというような記述があったことである.これは由々しき問題だ.彼のソースコードが元ネタであり,私が剽窃したと捉えられてしまうではないか.

向こうは画像処理では大御所のS先生である.いや,S先生のところの学生である.私もまだ駆け出しに毛の生えた程度の年齢だったので,いかにも分が悪い.

今であれば断固としてクレームを入れ,毅然とした態度をとるところだが,当時は私も日和っていて,どうしたものかと悩んだだけで終わってしまった.幸にして,こちらが剽窃したという話は出ず,当該ウェブサイトも学生くんが卒業してしまったか,いつの間にか消えていた.

こういうことがあるので,剽窃は,ダメですよ.ほんと,ダメだからね.

参考文献

綾辻つづみ(2025)【ショートショート】江口寿史にトレパクされて (2,709文字),note,https://note.com/nabewata_lit/n/n4884be5d7d89

2025年9月18日木曜日

こんなところでHCD(11)

久しぶりの「こんなところでHCD」のシリーズである.ふらっと入った牛丼屋,吉野家のタッチパネルをご覧いただきたい(次の写真).

インバウンドで賑わう東京である.吉野家も多国語対応が進んでいる.日本語だけでなく,英語,中国語(簡体),韓国語に対応している.写真は韓国語表記にしてみたところ,上から,「注文追加」「新規注文」「注文内容」と読める(私の韓国語スキルが正しければ……だが).

すばらしい.しかし,残念なのは,左側の情報までは言語が切り替わらない点である.左側には各種のキャンペーン情報や有用な情報が表示される.全ての情報は画像データとして用意されているようである.ここ重要!

すなわち,画像データであるがゆえに,多国語対応に手間がかかるわけである.単純な多国語対応フレームワークでは対応できない問題である.

タッチパネルを多国語化してインバウンド観光客にもサービスを提供しやすくしようというその挑戦は素晴らしい.しかし,なんとなく中途半端で終わっている点がいささか残念であった.

外国人を対象としてHCDのプロセスを走らせるにはコストがかかる点も無視できない.HCDを推進する立場としては,HCDのグローバライゼーションも今後ますます検討していかねばない課題として認識しておきたいものである.

2025年9月17日水曜日

SAJ AI/UX Tech研究会

昨日,一般社団法人ソフトウェア協会のAI/UX Tech研究会が主催するセミナーで,飯尾と橋本(葵)が以下の講演をした.

  • 飯尾淳, 教育および研究における生成AI・LLMの利用
  • 橋本葵, 「対人間と対AIのインターフェース設計の交差点:AI時代のHTML再設計」について

前半は飯尾から,生成AIやLLMの利用を教育や研究の文脈でどう考えるべきかという話と飯尾研究室における生成AIを利用した研究事例を紹介した.後半は,HTMLで書かれたフォームにAIが自動でアクセスして値を埋めるようなケースにおいて,従来型のHTMLと改善提案するHTMLの比較をした結果の紹介である.後半の話は,橋本(葵)くんが実施した研究の成果である.

研究会の皆様には,その後の懇親会でも,いろいろお世話になりました.ありがとうございます.

2025年9月11日木曜日

SICHI2025に参加(学生が)

ヒューマンインタフェースシンポジウム2025に併設されたSICHI(Student Innovation Contest at Human Interface symposium)2025に,4年生の青木裕美さんが参加した.彼女が作成したHealing Petsは,生体センサからのデータに基づきストレス状態を検知,ストレスがかかっていない状態ではキャラクターが成長する一方で,ストレスを検知すると生育が止まるという,キャラクター育成ゲームである.

青木裕美, 飯尾淳(2025)生体情報に基づきストレスを可視化するヒーリングアプリの開発, Student Innovation Contest at Human Interface Symposium(SICHI2025), 1S-18, 石川 野々市

9月10日の午後にデモセッションが行われた.最初は1分間のショートプレゼンテーションである.

実際のデモ会場では,たくさんの方が体験してくださった.ありがたい限りである.

このアプリは,さらなる改良を加えて11月の学祭でデモンストレーションを再度実施する予定である.体験してみたい方は,市ヶ谷iTLまでお越しください(彼女の卒業研究のためのユーザー評価にも,ぜひご協力ください)

2025年9月7日日曜日

このIT化,要?不要?

台湾は台中で市バスに乗った.日本と同様,台湾でも交通系のカードが進化していて,悠々カードという東京でいえばSuicaのようなカードがとても便利に使える.電車だけでなく,バスでも利用できるので,Google Mapsなどの位置情報サービスと連動させれば,たいがいどこへでも公共交通機関で手軽に行ける.便利な時代になったものだ.

台湾のバスは,乗ったときにカードを車内の端末にかざし,降りるときに再びカードをかざすという手順で運賃精算が行われる.台北,台中,高雄のそれぞれの都市で同様だった.いずれの都市でも共通の仕組みが整備されているのは,旅行者にとって本当にありがたい.

ところで,次の写真は台中市内のあるバス停で見つけたボタンである.このボタン,意味はお分かりだろうか.


このバス停には,5番,11番,30番,そして56番のバスが停車する.ところが,台湾のバスは面白いことに,乗降客がいなければそのバスは止まらずに素通りしてしまう.したがって,バスを待つ客は,乗りたいバスの番号が付いたボタンをあらかじめ押しておき,乗車の意思を運転手に知らせる必要があるのである.

ボタンが押されると,バス停の,到着するバスから見やすいところに配置されているLEDにその番号が表示されるので,当該のバスが停車するという仕組みになっている(上の写真,LEDの点滅感覚とシャッタースピードの関係で,うまく撮影できていない点はご容赦いただきたい)

「へー,なかなか,考えられた仕組みだなあ」と,皆さんは感心するだろうか.

しかし,ちょっと考えれてみると,これはあまり意味のある投資とは思えない.なぜならば,こんな大袈裟な装置は必要ないと考えられるからだ.

このような仕組みのないバス停で,台中市民は,乗りたいバスが近づいたら手を振ってバスを止めていた.それで十分ではないだろうか?

(追記)

これについて皆様の意見を問うたところ,「ボタン押して待っていればよいから楽」という意見をいただいた.たしかにそうかも.私はイラチなんで「まだかなまだかな」とずっとバスが来るのを探してしまうので,その発想はなかった.また,「夜は人が手を振っても気付きにくいかも,LEDであれば確実」という意見も頂戴した.それもそうだ.道路に出て手を振るより安全だろう,ということは私も少し考えた.

システム構築には想像力が欠かせないという原則をあらためて考えさせられることになった.HCDの根本的な原理でもある.まだまだ,私も修行が足りないな.

2025年8月10日日曜日

日本語版タイポグリセミア?

昨日,COSCUP 2025で「Typoglycemia: An Experimental Study between Complexities and Cognitive Levels」というタイトルの講演をした.なぜCOSCUPでこんなテーマのお話を?というのはさておき,講演後のQ&Aでは「中国語でも似たようなものがある」と現地の参加者から意見を頂けたのは大きな収穫であった.

ところで,中国語は分かち書きをしないし,表意文字だとタイポグリセミアはそもそも成立しないのではなかろうかと疑問を持っていたが,どうもそうではないのかもしれない.この3月に卒業したOさんが実施した実験は,ひらがな文に限定し,かつ,日本語でありながら分かち書きをした「ひらがな版タイポグリセミア」を用いて行っていた.

というわけで,はたして分かち書きのない言語ではどうなんだろう?と気になって眠れなくなったので,急遽,普通の日本語で作ってみたタイポグリセミア文が次の例である.

皆さんは,読めますか?

広い視野を持とう

皆さんチャンスがあったら積極的に海外に行ったほうがいい.それも,日本人がうじゃうじゃいるところでは意味がない.日本人という属性は使わずに済むところがよい.

たとえば次の写真,これは,ベトナムのホーチミン市でたまたま撮った写真である.

この可愛らしい車は,Vinfast(という会社)のVF3(という車種)である.皆さんVinfastという会社,知ってましたか?

Vinfastはベトナムの自動車会社である.ベトナム最大手の財閥であるビングループの自動車会社である.ここのところ急成長している.毎年夏にホーチミン市に来ていて,年を経るたびにVinfastの車が増えていることに気付く.そのくらいの驚くべき成長具合である.ベトナム社会の成長を実感する.

そしてこのVF3という車,昨年訪れたときには見なかった.調べてみたら昨年遅くに発売された車種とのこと.マイクロSUVという謳い文句で販売しているらしい.日本の軽自動車より小さいか,もしくは,同じくらいか.ベトナムの街は日本と同様にコマコマしているので,このくらいのサイズが適切なのであろう.

そのようなことを学ぶためにも,実際に自分の目でみて,理解するという態度が重要である.

2025年8月9日土曜日

2025年度ベトナム研修

毎年,8月の第2週に開催しているベトナム研修,今年は8/3〜8/8のスケジュールで,無事,開催された.今年で8回目の開催である.昨年の様子は「2024年度ベトナム研修」をどうぞ.毎回,NECベトナムの皆様には多大なご協力,ご支援をいただいている.この場をお借りして御礼申し上げます.m(_ _)m


今年の中央大学からの参加者は3年生6名であった.昨年と同規模である.8/3の22時半に羽田空港に集合し,深夜便で,HCMCに向かった.

研修の様子

研修のスケジュールは,ほぼ例年どおりの,次のようなものである.

  • 8/3, 22時30分羽田空港集合,深夜便にてHCMCへ
  • 8/4, ホテルチェックイン後 e-Town に移動,昼食,午後,NEC訪問,NECの皆様によるレクチャーとWSの用意(会場準備,お茶菓子の買い出しなど)
  • 8/5, 日越合同Workshop初日.自己紹介,イントロダクション(飯尾),プレゼンテーション(日本側参加者・ベトナム側参加者),グループワーク
  • 8/6, 日越合同Workshop二日目.グループワーク(続き),プレゼン準備,最終プレゼンテーション・講評,閉会式
  • 8/7, 市内視察,夜便にて帰国
  • 8/8, 早朝,羽田空港着.解散

今年もグループワークでは活発なコミュニケーションが行われ,最後は素晴らしいプレゼンテーションとディスカッションができただけでなく,いつものように日本とベトナムの学生たちの友好関係が築かれた.

2025年7月13日日曜日

変なおじさんの話

先日,電車に乗っていたときの話である.車内は比較的混んでいたが始発駅から乗車したので座れて,私はちんまりと座席に座っていた.

ところで,私には軽い鼻炎の持病がある.何かのきっかけでくしゃみが止まらなくなり,十数回はくしゃみを頻発することがある.そのときも,鼻がむず痒くなり,くしゃみが止まらなくなった.

もちろん電車のなかなので,できるだけ手で口を押さえて,周りに迷惑にならないように心がけたつもりではあったが,隣に座っていたオジさんに「飛んでくるんだよ!」と叱られてしまった.

私は配慮が不十分だったと素直に詫びた.まあ,人に不快感をきちんと伝えられることはいいことだ.不要な我慢はせず,非が自分にないならば苦情は伝えるべきだよなあ.Noと言えない日本人は,グローバル社会で舐められちゃうだけだもんな,などと,そのオジに対して,その時点ではとくに嫌悪感を感じることもなく,申し訳ねえな,とすら思っていたくらいである.

ところが,次に思いもよらぬ出来事が発生した.

私の前に,スッと新品の不織布マスクが差し出されたのである.差出人は隣のオジ.くしゃみするならマスクをきちんとしろよ,ということらしい.無言の圧力.

驚いた私は「あ,すみません」と素直に受け取り,パッケージから取り出してマスクをした(させられた).隣のオジは,自分自身もマスクをかけ始めた.

(どんだけ潔癖症かよ!)とびっくりした私は,素直にマスクをかけたものの,だんだん腹が立ってきた.なんで見知らぬオジにマスクをさせられなきゃならんのだ.感染症ならいざしらず,たんなるいつもの鼻炎なんだぞ.「あ,これ,ウィルス性のそれじゃなくて,たんなる鼻炎ですからご安心ください」って言ってやろうか?と思ったけれどもそれも邪魔くさい.勝手に勘違いして不安に思ってるならそうしといてやろうかい,なんて意地悪な気持ちもむくむくと湧き上がってきた.

結局,途中の駅で私が先に降りることになったので,無視し続けて電車を降り,ホームですかさずマスクを殴り捨てた.というか,マスクを取って,くしゃくしゃに丸めてポッケに入れた(あとでゴミ箱に捨てた).

降り際に「どうもありがとうございました」とお礼を言うふりをしてオジにマスクをつっ返してやろうかとも思ったが,大人ゲないのでやめた.

以上が,先日出会った変なおじさんの顛末である.

(いらすとやにあったオッサンのイラストが,当該オジに本当にそっくりだったんだよ)


2025年7月12日土曜日

異文化のちょっとした発見は面白い

日本の近隣諸国であっても,ちょっとした文化の違いがあって,面白い.異文化を受け入れ,異文化を理解することで自国の文化を再発見する,なんてこともあったりして,だから異文化間交流は興味が尽きない.

これは昨夜の会食でのひとコマである.席に着いたら箸が二膳,置かれていた.各自の席に,それぞれ二膳である.はて,これはなぜだろう?

疑問に思ったことはすぐ聞いてみるべきである.「なんでこれ二つ置いてあるの?」

すると,返ってきた答えは「片方はpublic, 大皿から取り分けるときに使ってね.もう片方はprivate,自分で食べるときに使ってください」とのこと.なるほど.理には適っている.

しかし,杯を重ねていくうちに,どちらがどちらだかわからなくなってきた.色別に分けられているにもかかわらず!酔っ払いは本当にどうしようもない.