ハーブが好きだ.東南アジア諸国,とくにベトナムで食べられる,あの得体の知れない謎の薬草に魅せられている.しかし,日本で生活しているとあの謎の草を食べる機会にほとんど恵まれないのが残念でならない.
タイの中南部,ナコーンシンタンマラートという地方都市に出張した.いろいろ案内してくれた現地の担当者が「ここまで来てカノムジーンを食べないでは帰させない」と,カノムジーンの名店に連れてきてくれた.
カノムジーンとは,米を原料とする素麺のような麺に,ピクルスや豆などの付け合わせや鶏の揚げたものを添えて食べる料理である.単なる素麺ではなく,その上から何種類ものカレーソースから好みのものを選んでかける.辛いものからマイルドなものまでたくさんの種類を選べる.シーフードあり,チキンあり,どれも美味しい.お好みでミックスしても構わない.さらに,写真のようなたくさんの種類の葉っぱを好きなだけちぎり,最後に全部を混ぜて食べる.
雰囲気としてはベトナムのブンボーフエに似ている.ただし,こちらのほうがバラエティに富んでいて楽しい.
食べ方としてはこんな感じ.ただしこれは混ぜ混ぜする前の写真である.
ドライハーブとフレッシュハーブ
以前,ASEANの仕事に関わったことがあり,その際に,タイとベトナムから来ていた方々と話をした.曰く,「タイ料理はドライハーブを使い,ベトナム料理はフレッシュハーブを使うのだ」という.私はタイ料理もベトナム料理もどちらも好きだが,どちらがより好きか?と問われれば,草(ハーブ)だいすきという意味ではベトナム料理が優っているし,料理のバラエティからすればタイ料理も捨てがたいと感じていた.
さらに,タイの東北部,イサーン地方の料理に好きなものが多く,フレッシュなハーブを多用するラープはタイ料理のなかでも大好きなもののひとつである.イサーン地方はラオスを挟んでベトナムにも近い.さもありなん……と,これまでは思っていた.
ところが今回のカノムジーンである.ベトナムからは遠く離れたタイ中南部.ここでもこんなにフレッシュなハーブ使うんじゃん?
葉っぱはどこから?
ところでこの草たち,いったいどこから持ってきているのだろう,という疑惑がむくむくと湧き上がる.
今回連れて行ってもらったカノムジーンの店は郊外にあり,ど田舎の一軒家という風情の店だった.食卓はテラス席,といえば聞こえはよいが,庭に無造作に建てられた日除けの下,アウトドア席である.天気もよいので,これはこれで,なかなか気持ちのよい食事ができる.
さて,草である.
裏手に大きな鉢がいくつか転がっていたのだが,その鉢でいろいろな植物を育てている様子が窺えた.どうも,そこでこれらのハーブを栽培しているらしい.そこから収穫して持ってきているようにみえる.まあ,それはそれで全く構わないし,美味しいのだから問題ない.
夏に学生たちをベトナムに連れて行ったときに,この草の由来が問題になった.連れて行った学生のひとりが,「そもそもどこから持ってきた草なのか怪しすぎて食べたくありません」と言うのだ.
ホーチミン市の近代的な食堂である.タイの片田舎(といっては失礼だが)の郊外にある大自然に囲まれた店とは違う.それらの草はマーケットで買ってきた,「ちゃんとした」ものだろう.当該学生と一緒に市内のスーパーマーケットに行く機会があり,野菜売り場を覗いてみた.そこには多様なハーブがたくさん並んでいた.
「どう?これで大丈夫と思った?」と聞いてみたが,やはり抵抗があるとか.まあ,人それぞれか.
薬草だから大丈夫
話はいまから20年前,2003年に遡る.私が東南アジア関係の仕事に関わりはじめたころで,初めて東南アジアに出張したときのことだ.行き先はベトナム,よくある話で「水には気をつけろ.不衛生な水で洗っているから,生野菜は食べないほうがいい」などと脅かされていた.
いまでは「そんなことなかろう」と笑って済ませる話だが,なにしろ右も左も分からなかった当時のこと,忠実に言いつけを守っていた.しかし,1週間ほど滞在した最終日に,案の定,腹を下してしまう.
そのときに,現地駐在の長かった某社現地法人の支社長から「ハーブを食べなさい.これは薬草だから大丈夫」と,諭されたことを今でもはっきりと覚えている.
おそらく冗談半分だったろうが,強く印象に残っている.その後,生野菜なんかよりもっと危ない食べ物を口にして腹を思いっきり下したこともあり,いろいろな体験をした結果,私も成長した.東南アジア各国のどこに行っても生野菜は平気で食べるし,ビールも氷を入れて飲む東南アジアのスタイルじゃないと飲んだ気がしない.
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