2025年9月18日木曜日

こんなところでHCD(11)

久しぶりの「こんなところでHCD」のシリーズである.ふらっと入った牛丼屋,吉野家のタッチパネルをご覧いただきたい(次の写真).

インバウンドで賑わう東京である.吉野家も多国語対応が進んでいる.日本語だけでなく,英語,中国語(簡体),韓国語に対応している.写真は韓国語表記にしてみたところ,上から,「注文追加」「新規注文」「注文内容」と読める(私の韓国語スキルが正しければ……だが).

すばらしい.しかし,残念なのは,左側の情報までは言語が切り替わらない点である.左側には各種のキャンペーン情報や有用な情報が表示される.全ての情報は画像データとして用意されているようである.ここ重要!

すなわち,画像データであるがゆえに,多国語対応に手間がかかるわけである.単純な多国語対応フレームワークでは対応できない問題である.

タッチパネルを多国語化してインバウンド観光客にもサービスを提供しやすくしようというその挑戦は素晴らしい.しかし,なんとなく中途半端で終わっている点がいささか残念であった.

外国人を対象としてHCDのプロセスを走らせるにはコストがかかる点も無視できない.HCDを推進する立場としては,HCDのグローバライゼーションも今後ますます検討していかねばない課題として認識しておきたいものである.

2025年9月17日水曜日

SAJ AI/UX Tech研究会

昨日,一般社団法人ソフトウェア協会のAI/UX Tech研究会が主催するセミナーで,飯尾と橋本(葵)が以下の講演をした.

  • 飯尾淳, 教育および研究における生成AI・LLMの利用
  • 橋本葵, 「対人間と対AIのインターフェース設計の交差点:AI時代のHTML再設計」について

前半は飯尾から,生成AIやLLMの利用を教育や研究の文脈でどう考えるべきかという話と飯尾研究室における生成AIを利用した研究事例を紹介した.後半は,HTMLで書かれたフォームにAIが自動でアクセスして値を埋めるようなケースにおいて,従来型のHTMLと改善提案するHTMLの比較をした結果の紹介である.後半の話は,橋本(葵)くんが実施した研究の成果である.

研究会の皆様には,その後の懇親会でも,いろいろお世話になりました.ありがとうございます.

2025年9月11日木曜日

SICHI2025に参加(学生が)

ヒューマンインタフェースシンポジウム2025に併設されたSICHI(Student Innovation Contest at Human Interface symposium)2025に,4年生の青木裕美さんが参加した.彼女が作成したHealing Petsは,生体センサからのデータに基づきストレス状態を検知,ストレスがかかっていない状態ではキャラクターが成長する一方で,ストレスを検知すると生育が止まるという,キャラクター育成ゲームである.

青木裕美, 飯尾淳(2025)生体情報に基づきストレスを可視化するヒーリングアプリの開発, Student Innovation Contest at Human Interface Symposium(SICHI2025), 1S-18, 石川 野々市

9月10日の午後にデモセッションが行われた.最初は1分間のショートプレゼンテーションである.

実際のデモ会場では,たくさんの方が体験してくださった.ありがたい限りである.

このアプリは,さらなる改良を加えて11月の学祭でデモンストレーションを再度実施する予定である.体験してみたい方は,市ヶ谷iTLまでお越しください(彼女の卒業研究のためのユーザー評価にも,ぜひご協力ください)

2025年9月7日日曜日

このIT化,要?不要?

台湾は台中で市バスに乗った.日本と同様,台湾でも交通系のカードが進化していて,悠々カードという東京でいえばSuicaのようなカードがとても便利に使える.電車だけでなく,バスでも利用できるので,Google Mapsなどの位置情報サービスと連動させれば,たいがいどこへでも公共交通機関で手軽に行ける.便利な時代になったものだ.

台湾のバスは,乗ったときにカードを車内の端末にかざし,降りるときに再びカードをかざすという手順で運賃精算が行われる.台北,台中,高雄のそれぞれの都市で同様だった.いずれの都市でも共通の仕組みが整備されているのは,旅行者にとって本当にありがたい.

ところで,次の写真は台中市内のあるバス停で見つけたボタンである.このボタン,意味はお分かりだろうか.


このバス停には,5番,11番,30番,そして56番のバスが停車する.ところが,台湾のバスは面白いことに,乗降客がいなければそのバスは止まらずに素通りしてしまう.したがって,バスを待つ客は,乗りたいバスの番号が付いたボタンをあらかじめ押しておき,乗車の意思を運転手に知らせる必要があるのである.

ボタンが押されると,バス停の,到着するバスから見やすいところに配置されているLEDにその番号が表示されるので,当該のバスが停車するという仕組みになっている(上の写真,LEDの点滅感覚とシャッタースピードの関係で,うまく撮影できていない点はご容赦いただきたい)

「へー,なかなか,考えられた仕組みだなあ」と,皆さんは感心するだろうか.

しかし,ちょっと考えれてみると,これはあまり意味のある投資とは思えない.なぜならば,こんな大袈裟な装置は必要ないと考えられるからだ.

このような仕組みのないバス停で,台中市民は,乗りたいバスが近づいたら手を振ってバスを止めていた.それで十分ではないだろうか?

(追記)

これについて皆様の意見を問うたところ,「ボタン押して待っていればよいから楽」という意見をいただいた.たしかにそうかも.私はイラチなんで「まだかなまだかな」とずっとバスが来るのを探してしまうので,その発想はなかった.また,「夜は人が手を振っても気付きにくいかも,LEDであれば確実」という意見も頂戴した.それもそうだ.道路に出て手を振るより安全だろう,ということは私も少し考えた.

システム構築には想像力が欠かせないという原則をあらためて考えさせられることになった.HCDの根本的な原理でもある.まだまだ,私も修行が足りないな.