2025年6月27日金曜日

夜を飛び越えて

東京羽田0:20発,ロンドン・ヒースロー6:25着という飛行機に乗った.発着時刻だけから計算すると6時間強のフライトにみえるが,時差が(いまはサマータイムなので)8時間あり,14時間を超えるロングフライトである.いつものように睡眠薬(注:お酒のこと)をたっぷりとキメてから搭乗したので,乗り込んですぐに眠ってしまった.

数時間後,意識が戻り,気付いたら窓の外が明るい.いや,正確にいえば,「明るそうにみえる」という状況だった.私は右(南向き)窓側の席に座っていて,上空には太陽が透けてみえていた.乗っていた飛行機は787なので,窓には物理的な日よけがなく,窓自体が液晶シャッターで電子的に暗くなっている.しかし,液晶シャッターでは直射日光を完全に遮られず,日差しが眩しかったというわけである.

「はて,深夜便で早朝着なのに,なんで太陽が燦々と輝っているんだろう?」と,寝覚めのぼーっとした頭でしばらく考えた.整理してみるとどうということもないのだが,1. 東行きの深夜便,2. サマーシーズンで白夜の北極圏という二つの条件が重なり,なんとも奇妙な体験になった.当該便で何が起こっていたのか,以下のとおり整理してみたい.

ことの顛末

飛行機の進み具合に合わせて順番に状況を説明する.まずは出発の状況を考えよう.0時台の出発であり,日付は新しくなったばかりである(図).

飛行機は順調に東北の方向に進む.地球の自転により夜は西に移動し,急速に朝を迎えた.当該便は微妙にロシア上空を避けながら,アラスカ方面に向かっている.この時点で,飛行機は24日の午前中を飛んでいることになる(図).

さて,ここで当該便は日付変更線を超える.日付変更線を超えてからは,23日,前日の世界である.次の図で「前日」と書かれたエリアを飛んでいることに注意しよう.北米上空を飛んでいるとき,飛行機は23日の一日を急速に過ごしていくことになる.

しばらくすると,再び24日になる.23日を駆け抜けるからである.ところが,ここで,サマーシーズンの北極圏は白夜であることが災いする.それが私に混乱をもたらした理由の一つとなった.すなわち,白夜であるがゆえに暗くならずに24日を迎えてしまうのである(図).

かくして,飛行機は周囲が明るいまま早朝のロンドンまで巡航し,無事,24日早朝のロンドンに着陸したというわけ(図).

頭のなかで考えていたときには「どうしてこんなことが?」と不思議だったが,このように図解で考えてみるとスッキリした.また,時刻表上は「深夜便」なのに「ほとんど明るい中を飛んでいた」というギャップも,混乱に拍車をかけていた理由の一つなのだろう.

以上が今回体験した不思議な出来事の顛末である.

2025年6月23日月曜日

カッコと句読点

学生の論文指導をしていると,学生がよく間違える書き振りにはパターンがあることに気づく.今回指摘したい事項は,文末のカッコの取り扱いである.

そもそも,文末の参考文献リストに挙げている文献を本文中で参照していなかったり,挿入した図版の参照を本文中でしていないなど,論文のルールを逸脱した文章を平気で書いてくる.いかに論文を読んでいないかが明白なのだが,そこは,何度も根気よく指導していくしかなかろう.

そのような草稿を書いてくるので,「挿入した図版は本文で参照して説明しないといけないんだよ?一番イージーな参照方法は,カッコ書きで(図x)って入れればいいから」と指導した結果が,先に示した状況である.参考文献の引用記号の挿入でも多くの学生が同じミスをする.

本来,文Aで参照しなければならない「(図x)」を,句点の後に書いてしまうと,どうなるだろうか.「文A.(図x)文B」となるはずである.これでは,文Bにくっついてしまうではないか.とても気持ち悪いのだが,そう思わないのかな?

そんなことをSNSでぼやいていたら,Y先生が,「ここは『なぜこれが直感に反すると感じられるのか』という研究を始めていただいて……」と指摘してくださった.さすがにこのような研究をされているひとはすでにいるのではないか?と探してみたら,「日本語における句読点使用の定量的研究」というタイトルで,似たような研究をして学位を取ったかたがいらっしゃるではないか(いろいろな研究があるもんだなあ).

当該論文は要約しか読めていないが,博士論文の要約によると,第7章で,句点とカッコの関係性を論じている.そのままズバリではないが,こんな感じ(要約の該当部分を引用する)である.

句点と閉じパーレンの組み合わせでは,「パーレンのみ」は Yahoo!知恵袋とYahoo!ブログ,書籍,雑誌において半数以上を占め,最もよく使われる組み合わせであることがわかった.また,次に多く使用されていた「パーレン-句点」は書籍と新聞,教科書で多く使われる組み合わせであった.「句点-パーレン」は白書において多く使用されていた組み合わせであったが,文末というよりは,資料の引用を示すために文中で使用される例がほとんどであった.

カッコ閉じるで句点を使わず終わりにするパターンが一番多かったというのはやや意外ではあったが,電子的なテキストなどでは,そのようなケースも日常的に使われるだろう(たしかに,そのような指摘がなされている).書籍では「).」という組合せが多いというのは,私の感覚と合致する.そしてその逆は,文中のケースが多かったとのこと,さもありなんである.

ということで,正解は確認できたものの,なぜ学生たちは「文A.(図x)」としてしまうのか問題は未解決のままである.誰か解明してみませんか?

2025年6月19日木曜日

オンデマンド講座の(思わぬ)落とし穴

中央大学には「クレセント・アカデミー」という市民講座がある.私は運営委員の一人でもあり,もう長いこと,いろいろな講座を担当してきた.

最近のチャレンジとして,講義を録画して「オンデマンド講座」として提供する試みが始まっている.といっても,まだ,提供コンテンツはそれほど多くない.現在は,瀧澤先生のゲーム理論講座と,私のプロジェクトマネジメント入門が提供されているだけである.

このオンデマンド講座の試みは数年前から試行されており,事務局から,オンデマンド講座として提供してよいですか?と問われ,そのときは深く考えることなくOKした.とくに断る理由も思いつかなかったからだ.そして,それで問題ないと思っていた.

ところが,ここへきて,少し困った問題が発生した.それは,オンデマンド講座用に講義内容を提供してしまうと,翌年から同じ内容の講座を開けないという問題である.

以前なら,同じ内容で数年は講座を維持できた.しかし,現在,全てオンデマンド用に提供していいですよと快諾してしまったため,毎年,新しいテーマの講座を捻り出さねばならなくなっている.これは困った.

今年実施している「はじめての生成AI」講座は,私が担当する講座としては例年になく人気が高く,キャンセル待ちが出たとのことだが,これもオンデマンド用に録画しているので,来年は実施できない.

1回90分,それを3回実施するクレセントの講座である.新たな内容を毎年考えなければならないのは,なかなかしんどい.オンデマンド講座用に何本も講座を提供したのだから,来年は休ませてもらう交渉でもしようかしらん.