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2022年2月21日月曜日

講義動画はしっかり観てほしい

早稲田大学で講義動画を同時視聴でごまかした学生が100人も不可となったという事件?がちょっとした話題になっている.オンデマンド型のオンライン講義をどう視聴するかということに関しては,2倍速で見るのはけしからんとか,対面授業の出席と同じだとか,様々な意見がある.私自身は,最終的に知識が身に付けばどのような視聴方法でも構わないのではないかと考えているものの,同時視聴ではどっちつかずで知識なんて身に付かんだろう.聖徳太子じゃあるまいし.

ただし,私自身は,これがベストと考える方法で動画を提供しているので,2倍速ではさすがに速すぎて情報が欠落するだろうと危惧するし,短縮視聴するにしてもせいぜい1.5倍程度までにしてほしいと願っている.

ある学生の事例

ところで,学生の視聴スタイルを見ていて,気付いたことがある.プログラミングに関する講義で,全学全キャンパスの学生を対象に開講している科目のため,オンデマンド型のオンライン講義として提供されている.

あるとき,ある学生が「どうにもうまくいかないんですけど」と何度も質問してきた.最初はLMSのメッセージで何度もやりとりしていたものの,埒が開かず,幸いにして同じ学部の学生だったために,特別に教室で指導することとなった.

トラブルの原因は……

「うまくいかない状況を再現してみ」と指示したところ,その学生は,動画を飛ばし飛ばし見ながら作業していることに気付いた.その動画では,端末のスクリーンショット動画を盛り込んで,デモンストレーションしながら解説している.その部分だけを切り取って,作業していたのである.

トラブルの原因は,端末のデモ以外で,するべき作業があり,その作業をしていないことだった.資料にはその旨もしっかり説明しており,動画でも,きちんと念を押して解説していた.しかし,当該学生の視聴方法ではスキップされてしまうのであった.

勝手な視聴スタイルに問題あり

つまるところ,きちんと動画を視聴していればなんら問題ない話(他の学生はそのとおりきちんとできている)だったのだが,勝手な視聴方法によって,うまくいかなくなっていたというだけのオチだったわけだ.

講義内容をしっかり理解できていない学生ほど,講義動画をきちんと観てほしいところである.

2022年1月10日月曜日

「にこP」第2回実践報告シンポジウム

本ブログでも何度か紹介した「にこP ― 日(に)本語を話さない高(こ)校生と話そうプ(P)ロジェクト」を2021年度も実施しました.今年度はにこP拡大版……「にこP ― 日(に)本語を話さない相手とコ(こ)ミュニケーションしようプ(P)ロジェクト」も実施ということで,高校間だけでなく大学間のオンライン異文化交流プログラムも加え,次の4パターンのケースでオンライン異文化交流プログラムを実施しました.

  • 台湾の高校 ― 日本の高校
  • インドネシアの高校 ― 日本の高校
  • タイの大学 ― 日本の大学
  • マレーシアの大学 ― 日本の大学

その実践報告シンポジウムを2月26日(土)の午後に実施します.現在のところは中央大学市ヶ谷田町キャンパス(iTL)会場とオンラインのハイブリッド開催を予定していますが,COVID-19パンデミックの状況によってはオンライン開催のみになるかもしれません.

シンポジウムでは,プログラムに実際に参加された先生方や生徒・学生による発表,オンライン異文化交流教育のためのICT活用の工夫などをご紹介します.

申し込みは,一般社団法人ことばのまなび工房「第2回実践報告シンポジウム」(←クリックするとプログラム等を紹介するページに飛びます)からどうぞ.

【参考資料】




2021年12月25日土曜日

オンライン講義化で本当に可哀想なのは真面目な教員

オンライン授業ばかりで学生が可哀想だとか,いや実はそうでもないとか,そのときの風向きに合わせてマスメディアは相変わらずテキトーな記事を書き散らかしてくれよるなあという話はさておき,オンライン授業化で本当に可哀想なのは真面目な教員なのではないか?と考えるようになった.

私自身がそうだと主張するつもりはなく,私はできるだけ効率的にやろうとしているけれども,それでもなかなか大変なので,真面目にしっかりと地道な方法で対応しようとしている先生方が本当にお気の毒と感じてしまう.

オンライン授業で学生たちが気軽に質問できるようになった,という点はとてもよいことである.その質問が,どこに向くか?ということをきちんと考えてみたことはおありだろうか.

オンライン化で気軽に質問できるようになった一方で,オンライン講義化で学生間のコミュニケーションが分断されているという指摘もある.さて,この状況を総合すると,どのような結論が導かれるだろうか.簡単な推論である.学生たちの気軽な質問が,教員に集中するようになるわけである.気軽に質問することは推奨されこそすれ悪いことではないが,教員側のリソースが潤沢でなければ,スケールしないという問題が顕在化する.

飛び交う質問と非効率なやりとり

本学で使用しているLMSでは,教員に直接質問できるチャネルと,皆がアクセスできる掲示板がある.同じような質問と回答が繰り返されるのは非効率なので,できるだけ「掲示板で質問すべし.さらには,答えられる質問には学生同士で解決をはかるべし」と,掲示板利用にやんわりと誘導しているが,それでもさまざまな理由で,直接のチャネルを利用したがる学生が多い.

毎日,なにがしかの質問に答えているというような状況である.対面での授業であれば,授業時間内,あるいは,終わった後に質問に来るなどで対応できるので,教員の負担もさしたることはなかろう.それが,毎日の負担となると,これはいささか「何らかの処置をすべきでは」ということになる.しかも,オンラインの気軽さからか,24時間365日,おかまいなしで,さらに,不規則な生活をしている学生も多いので夜中のへんな時間に質問が投稿されることも多い.

もちろん,へんな時間に投稿される質問にすぐさま回答する必要はないし,好きな時間に答えればよいのだが,質問が投稿されてから長時間,ほったらかしにしておくのも気がひける.かくして,毎日,LMSを覗いては,質問に回答する,という精神的によろしくない生活が続く.平日,休日を問わない.毎日である.

四六時中監視しているわけにはいかないので,適当なタイミングでのやり取りとなるが,数時間ごとのやりとりとなり,非効率極まりない.幸にして使っているLMSではこのやりとりで通知が発生しないので,このようなのんびりとしたやりとりになっているが,それこそメールやらSMSやらで毎度毎度通知が飛び交うようになったとしたら,気の休まる時間がなくなってしまうだろう.

皆様ご自愛ください

そんなわけで私自身は「これ以上負荷が高まったら,ちょっと難しいな」という状況でぎりぎり踏みとどまっているが,私以上にご苦労されている先生方は多いことだろう.質問してくる学生は向学心に燃えている?ようにみえるので,「そんなんテキトーにあしらっていればいい」という気にはならない(その点は,私も真面目なのかも!).

落とし所はどのへんにあるのだろうかという試行錯誤は,まだまだ続きそうである.皆様も無理のない範囲でご活躍ください.m(_ _)m



2021年12月9日木曜日

オンライン講義と出席,反転授業その後

オンライン講義(オンデマンド型)で講義動画を撮影する必要に迫られることになり,その後の対面授業では反転授業として活用しているという話は何度か紹介した.先般に出版した拙書「オンライン化する大学」でもそのエピソードは述べている.

その後の顛末がどうなったか.

このスタイルを始めたのは昨年度後期,1年次必修科目の「プログラミング基礎」が最初である.これに関しては,学生はほぼ出席していた.さらに「先生が反転授業方式にしてくれたので力をつけることができた」と,ある学生から嬉しい報告があったことは,既報「反転授業の効果」でも述べた.

今年度,同じく1年次必修科目「プログラミング基礎」では昨年度と同様の状況が続いていて,学生も教室で楽しそうに手を動かしながら演習を実施している.この科目に関しては,しばらくこのスタイルでやっていこうと好感触を得た.先日,授業動画を公開準備こそしていたものの,うっかり,公開の手続きを忘れていたというミスをやらかした.すると,学生から「今週の動画が公開されていないようですが……」と指摘されたのだが,そんな指摘を学生からもらって嬉しくなってしまった.これこそ,反転授業のスタイルが定着している証だからだ.

一方,3年次選択科目の「プロジェクト・マネジメント」,こちらは受講生の半数ほどしか教室に来ていない.教室に来ない学生は,オンデマンド講義ビデオを視聴するだけで満足してしまっている模様である.

反転授業であるか否かにかかわらず,オンラインと対面併用で授業を実施している先生方の話を聞くと,多くの教室で,ほとんどがオンライン受講で教室では数名だけ,というような状況が起こっているらしく,半数も教室に来ているというのはそれでも多いのかと驚く.

ただし,手前味噌ではあるが,「プロジェクト・マネジメント」では,教室に来ている学生の満足度が高いように感じる.ビデオでは話せない「ここだけの話」も教室では話せるし(「いまからナイショの話をするけれど,泉田議員みたいにこっそり録音してないよね!」と言ってから話し始めても,この振りにポカンとしている学生が多いのが残念),グループワークなど教室でやるからこそ効果が出る時間も取れる.

この科目では毎回,課題を課していて,その提出内容も,教室組のほうがしっかりしている傾向がみえる.これは,まあ,教室で念を押して丁寧にやっているからだろう.オンライン組もLMSの掲示板などで質疑は受け付けるといっているが,あまり活用されていない.LMSの掲示板活用は,昨年度の「プログラミング基礎」ではだいぶ活発に行われていたが,そのLMSの掲示板での議論も,教室組とオンライン組と区別なく行われていたような気がする.

今でこそ出席が当たり前という風潮になっているが,昔は,大学の講義なんて「出席?なにそれ美味しいの?」みたいなところがあった.私はたまたま風邪をひいて寝込んでしまい,ある授業を欠席したら,誰一人として出席者がいなかったらしく,先生が激怒,あとで全員が呼び出されて説教をくらった,という牧歌的なエピソードも覚えている.強調しておきたい点は,私はたまたま風邪をひいて寝込んでしまったためにやむなく欠席したということである.

まあ,最後の話はほぼ冗談だが,反転授業方式は,積極的な学生には有効である(が,そうではない学生・生徒には疑問が残る)という信念がさらに確実になった.そして「やる気のない子のほうが反転授業は効果があります」が嘘であるとの確信は強化された.格差はますます広がりそうで,大学なんだものそれでいいんじゃないかという気もするが,議論の余地は残るだろう.

(このイラストは「反転授業」ではなく「ちゃぶ台返し」)

2021年11月23日火曜日

続・オンライン演習どうするどうやる?

オンライン演習をどうやって実現するかの手探りはまだ続く.OBSを使ったデスクトップ画面共有は一つの解としてあり得るが,そもそも環境構築できるかとか,非力なデバイスだと大丈夫だとか,心配の種は尽きない.

Colabを用いた演習の監視

そこでプランBである.代替案(プランB)は,クラウドサービスを利用するものである.Google Colabを用いたプログラミング演習をリモートから管理することを考えた.次の動画は,そのために作成したツールの操作を説明するためのデモ動画である.

演習はGoogle Colaboratoryで行う.クラウドサービスなので,手元のデバイスは非力なものでも大丈夫だろう.Google Colaboratoryの環境を用意するのも多少の手順が必要だが,それに対して慣れてもらうのは致し方ない.

さて,このプランBは,学生各自のColabノート(ページ)を,教員と共有するというアイデアがミソだ.学生のノートを共有するので,直接,学生の演習状況を確認できる.場合によってはコメントを付けたり書き込んだりして,ノートを介して双方向のコミュニケーションをすることだってできる.なんだか交換日記みたいだけど.

MultiView

OBSとZoomのギャラリービューを用いた学生の作業状況の一覧機能に代わるものとして,Colabノートの共有で学生の作業状況をまとめて確認するにはどうしたらよいだろう?

そこで,各学生のノートを一覧で表示できるようなちょっとしたプログラムMultiViewを用意した.PHPとJavaScriptで作成した簡単なプログラムである.

MultiViewのエントリページにアクセスすると,次のようなフォームが表示される.

ここで,フォームには学生数を入れて submit ボタンを押す.すると,次のように,入力した数だけのページをまとめて表示する画面が現れる.なお,それぞれのページはインラインフレームとして組み込まれ,50%に縮小されて表示される.

それぞれのブロックには,Load,Reset,Openのボタンが用意されている.初期状態ではLoadボタンのみ有効である.各ページにはURLとNameを書き込むテキストフィールドが用意されている.URLとNameを指定してLoadボタンを押すと,そのブロックに縮小されたウェブページが表示される.

この図は,Student 1として「Joe's Page」を,Student 2として「Bob’s Note」を指定し,それぞれのページを読み込んだ状態である.これらのページは学生本人のページと同期しているため,若干のタイムラグはあるが,学生の作業状況を縮小された状態のまま確認できる.なお,Nameはオプションなので,入力しなくてもよい.その場合は,「Student #」の表示がそのまま利用される.

ページを組み込むと,Loadボタンは無効化され,ResetおよびOpenボタンが有効となる.Resetボタンは組み込んだページを排除して元の状態に戻すものである(ボタンの状態も初期化される).Openボタンは,そのページを新たなウィンドウ(タブ)として表示するために用意されている.縮小状態では不十分な際には,Openボタンを押すことで独立したページとしてアクセスできるようになる.

補足

セキュリティ上の理由により,素のブラウザではこのプログラムをきちんと動かすことができない.URLを入れてLoadボタンを押しても,接続を拒否されるエラーが発生してしまう.MultiViewの機能を有効にするためにはGoogle Chromeの Ignore X-Frame headers 拡張機能をChromeに組み込む必要がある.また,Chrome 以外のブラウザでの動作は確認していないが,同様の対処が必要になろう.

学生の数が多い場合,一つ一つ,Loadしていくのは面倒な作業になりそうだ.少しプログラムを拡張して,まとめて登録できるような仕組みを用意すべきかもしれない.

追記:

やはり一つ一つちまちまとロードするのは面倒なので,CSVファイルで一気に登録できるようにした.その様子はこんな感じ.



オンライン演習どうするどうやる?

蛸足大学における全学部横断的オンライン演習を,どうやれば円滑に実施できるだろうか?という挑戦の続きである.

PC教室にあるような,各学生の画面を一覧でチェックするようなソフトウェアがあるといいよね?という提案に対して,それOBSでできるよ,つまり,各学生にOBSをインストールさせ,画面を映し出すようにすればよいよ,というアイデアをいただいたので,実際に試してみた.上の図はそのときの様子である.9名の学生を対象としてトライしてみたが,1名がPCではなくiPadを持参してきてたため,その時点で脱落.残りの8名で実施した.

なお,中央上部に写っている私の顔がマスクをしているのは,教室で集合して実施する対面型演習で試していたからである.この作業を遠隔で指導しながらやるのは,できなくはないだろうけれどとても大変だろうということが想像される.実際にやるのはオンライン演習とはいえ,最初は集合してセットアップするしかないかなというところだ.

OBSのインストールとZoomへの接続

OBSのインストールに関しては,全員,ほぼ問題なくインストールでき,使い始めることができた.手順としては,次のとおりである.

  1. OBSをインストールし,起動する
  2. OBSで画面キャプチャして仮想カメラに配信する(ソースとして画面キャプチャを選び,コントロールで「仮想カメラを起動」をクリックする)
  3. Zoomを起動し,ミーティングに接続する
  4. Zoomのカメラを「OBSの仮想カメラ」に切り替える

これで,学生は自分のデスクトップ画面をZoomに配信することができ,教員は,リモートの学生が何をやっているかをリアルタイムでチェックすることが可能になる.

数名,Macの利用者が「画面キャプチャができません」「OBSカメラが出てきません」など,ちょっとしたトラブルに遭遇した.設定で迷うところや,トラブルシュートのポイントとして気がついたのは次の点である.

  • OBSの設定で聞いてくる質問は「仮想カメラとして使用」を選ぶ.あとは「次へ」を順次クリックしていけばよい
  • コントロールパネルのセキュリティ設定で,画面キャプチャや各種デバイスへのアクセスをOBSに対して許可する設定を忘れないようにすること
  • OBSでの設定が「終わってから」Zoomを起動すること.この手順が前後すると,OBSが提供するカメラをZoomが認識しない
  • Zoomではバーチャル背景をオフにする
  • 全ての設定が終わったら,OBSとZoomのウィンドウ自体は「最小化」しておく

あと,OBSの画面キャプチャで,最近のMacはRetina Displayのせいか画面解像度が高く,デフォルトでは画面キャプチャサイズとOBSの画面サイズが合致しない.左上の赤四角をドラッグして,画面サイズを適切に合わせる作業も必要だった.これ,OBSを起動するたびにやり直さなければならないようだけれど,なんとかならないのかな……

使い勝手と課題

解像度が十分だろうかという心配はあった.実際に学生たちが作業している状況を観察してみると,「何をやっているかは,なんとなくわかる」という感じ.

詳しくみたいときは,表示をスピーカービューに切り替えたうえでピン留め機能を使い,対象の画面をセンターステージに大きく表示させればよい.若干,ぼやけた画面にはなるが,文字を十分に読み取れるだけの情報は得られる.

順番に「ピンを置き換える」という手順で,巡回してみて回ることもできる.ただし,誰をチェックして誰をチェックしなかったかが分からなくなってしまうのは,別の手段を考えないといけないかも.教室だと端からチェックしていけばよいが,オンラインだとそもそも席に付いているという概念がないし,そのへんがあやふやになってしまう.

また,この方法だと受講学生自身の顔を確認することはできない.音声は通話できるのでそれでもいいと割り切るかどうか.OBSの機能を使い,画像キャプチャの上にカメラ画像を重ねることもできるので,やろうと思えば受講学生の顔と学生のデスクトップ画像を重ねること「は」できる.しかし,それは,本質を見誤る恐れがある.ここまでの手順が相当に複雑なので,慣れるまではこれ以上難しくしないほうがよいだろうというのが現時点での感触である.

あとは,Zoomのギャラリービューでは1画面に写す人数をコントロールできない点も課題になるかも.今回は,9分割で,ほぼちょうどよい大きさだったが,25人あるいは49人という大人数が参加するギャラリービューだと,それぞれのサムネイルでは何をやっているかを判断することは難しいだろう.

さらに,今回は教室で実施したためネットワーク帯域的には何ら問題のない状況であった.これが,遠隔になったときにどのような影響が出るかは未知数である.

追記

TfabTile というウェブサービスで似たようなことが簡単にできるということを知った.うーん,たしかに簡単,ちょっとタイムラグがあるな.フリーミアムな有償サービスなので,予算が潤沢であればこちらを利用する手もあるかもしない.

2021年11月21日日曜日

オンライン演習実施のためのヒント

来年度から,AI・データサイエンス演習という科目を担当する予定になっている.これは,全学を対象としたAI・データサイエンス教育の一環として位置付けられており,学部横断的ゼミナールというものである(「iDSプログラム」というカッコいい名前がついている).理工学部や私の所属している国際情報学部の学生だけが受講するわけではないので,情報系に関する前提知識がバラバラという不安要素もあるが,それについては,もう「一から丁寧に教えていかねばならないな」という覚悟は決めた.

しかし,それよりももっと大きな不安要素は,キャンパスが,多摩,市ヶ谷,後楽園と別れている点である.2023年度からは法学部が茗荷谷に移転するため,上記3拠点に加えて,計4拠点体制ということになる.したがって,基本的に遠隔授業科目とすること,というお達しが回ってきた.「オンラインで演習?どうやるの?」それが目下の悩みである.

そんな話を11月20日に実施した図書館総合展オンラインでのトークイベントで披露したところ,「オンラインでのPC演習は簡単です」というコメントや,具体的で示唆に富むご意見をいただいた.

オンライン演習のヒント

講演後のフリートークセッションで「オンライン講義のメリット,他にもありますか?」と問われ,「院生相手にマンツーマンの遠隔指導をしていたときに,院生の作業している端末の画面を共有することで,ペアプログラミングのような効果を得ることができた点はオンライン会議ツールを使った指導のメリットかもしれない」と,回答した※1.

さらに,マンツーマンだったからできたけれど,どれだけスケールするかが課題ですねとの議論になった.つまり,複数人になった瞬間に,画面共有の切り替えという手間が発生するからである.「切り替えが必要ないように複数画面を共有できる,PC教室に備え付けられているようなソフトウェアがあるといいですね」とコメントしたら,「それOBS Studioでできるよ」と,会場(視聴者)からのアドバイスがあった.

つまり,OBS Studioで画面キャプチャをして,それを仮想カメラとしてZoom等に流し込めばよい,とのことである.それであればギャラリービューで全体を見渡せるし,必要に応じて選んだ学生の画面を大きくして指導できる.なるほどねー.想像した限りでは,なかなか悪くなさそうだ.

残される課題

今のところ考えられる課題は,最初の導入と,受講学生がその使い方に慣れるところだろう.さすがにこれはオンラインでやるというわけにはいかないだろうな.教室に集合して,OBS Studioのインストールと使い方の指導をする必要があろう.

もう一つ,順繰りに学生を指導するときに指導中の学生__以外__の学生をどうフォローできるかという問題が考えられる.これは,実際に教室で演習指導をしたことがない人にはピンとこないかもしれないが,わりと重要なポイントではなかろうかと私は考えている.

教室だと,いわゆる机間巡回※2をしていれば,次は私のところに来るな?とか,いま誰それさんのところを見てるな?というような情報が他の学生に伝わる.しかし,オンラインではそのような情報は共有されない.したがって,それに代わる何かで補足する必要があるだろう.

いずれにしても,少し光明がみえてきた点はありがたい限り.実際に実施してみてその効果を確かめることができたら,結果を報告したい.

※1……厳密にいえば,教室でもツールを使って同じことができるので,オンラインのメリットというよりはツールのメリットである.

※2……「きかんじゅんかい」と読む.机の間を巡回して学生の学修様子を見て回ること.そもそもこんな専門用語があるなどということは私も教員になるまで知らなかった.


2021年11月4日木曜日

ローテク書画カメラ

宮崎大学のD先生から,面白いものをいただいた.次の写真,なんだかおわかりだろうか.

これ,手元のノートPCを書画カメラに変えるデバイス(……というほどのものでもないが)を用いて写した画面である.ノートPCの画面上部にクリップ止めして,斜めに鏡を設置すると,キーボードが画面に映る.キーボードを白いボードで覆えば,はい,書画カメラの出来上がり,というシロモノだ.

IPEVO Mirror-Camという製品である.6個入りで4,980円.6個も要らんから,というので1個お裾分けしていただいた.ありがとうD先生!

ところで,Zoomで使ってみたら鏡文字になったので,ビデオ設定から「マイビデオをミラーリングします」にチェック,うまく使えたわいと思いきや,録画したら反転していない.配信もダメなんかな?もうひと工夫,必要なのかも.


(追記)

付属のソフトVisualizerを使うと,鏡文字にならない動画を撮影することができますよ.




2021年10月23日土曜日

ハイブリッド方式で休講はどうなる?

EdTechZineに寄稿した「講義のオンライン化がもたらした恩恵――反転授業の実践にむけて」で説明した方式は,なかなかいい感じでハイブリッド授業を展開することができることがわかったので,2021年後期は別の科目にも展開することにした.

ところで,ここでちょっと悩んでしまう事情が発生した.11月のとある週,反転授業を教室で実施すべき時間に,東京都の某委員会に関係するイベントに出席しなければならない状況が発生したのである.

これまでであれば,とりあえず休講にする,一択であった.しかし,今回は判断が難しい.教室での対面講義は中止,それは致し方ない.実際,物理的に無理なのだから.オンラインでリアルタイム授業を配信することも,難しそう.ということで,やはり休講ということになるだろうか.

しかし,オンデマンド動画による授業動画は作るのだ.それは当初からその予定である.面接授業も半分まではオンラインにしてもよいという指針もある.それを考えると,休講と案内する必要はないのかもしれない.

ただし,学生が教室に集まってもらっても,そこに私が行けないので,「その日,教室での演習はありません」と学生にはアナウンスしなければならない.休講じゃないけど休講,みたいな.取り扱いはどうすべきだろう.事務室に相談だなあ.いろいろ,難しいぞ.

2021年8月30日月曜日

一発撮りでも工夫次第でいろいろできる

いつも講義動画はZoomの「ひとりミーティング」で実施しているが,今日は「途中で止めてレコーディングを再開」というワザを試してみた.

以下は,講義動画から3分ほどの当該部分を切り出したものである.注目していただきたいのは2分を過ぎたあたりから.2:30秒のところでタイムリープしている.意外と自然かな?

 

もうひとつ強調しておきたいのは0:40あたりからの解説.

「Please reload your profile (exec $SHELL -l) or open a new session.」てちゃんと書いてあるんだから読み飛ばさず画面の指示通りせえよ!っていうところ.本当に学生たちはこういうメッセージを読まない.英語だからって固まるなよと毎回毎回,口を酸っぱくして指導しているのだが……

2021年6月28日月曜日

オンライン作文指導の可能性

長引くパンデミック対策も,だいぶ慣れてきたというか疲れてきたというか(どっちだよ!)もうどうしたもんかなという印象ではあるが,オンラインでもいろいろと工夫すれば学習効果を高めることはできるということが分かってきた.いま我々は,英作文の学習指導に関して,オンラインで効果がどれだけあったか,また,より効果的な指導方法は何かを確認する研究を進めている.

まだ分析中なのではっきりした結論を示すことはできないが,意義深い結果が見えてきているので,その一部を紹介したい.

次の図を見ていただきたい.これは,我々が開発して運用しているDialogbookというコミュニケーションツールを用いて実施した英語によるコミュニケーションの変化をみたものである.

具体的には,初回から3回分(A)と,最後までの3回分(B)のやりとりを対象として,データを分析したものだ.1回あたりのやり取りに含まれる語彙数(異なり単語数)を,1文あたりに正規化して比較したものである.1回・1学生を単位として,ヒストグラムを作成した.

青がA,緑がBである.見て明らかだとは思うが,メッセージのやりとりに含まれる語彙数が増えていることがわかるだろう.統計的に差があるかどうかを検定したところ,1%水準で有意差が示された.オンライン指導でもそれなりに学習効果はあったといえる.

現在,課題の提出状況とDialogbookによるコミュニケーションの比較など,本件に関しては多角的な考察を進めている.その結果は論文としてまとめて発表する予定である.

2021年6月25日金曜日

リアルキャンパスのセレンディピティ

昨日,対面で行われる打合せに参加する必要があって,久しぶりに本学多摩キャンパスまで出かけた.何ヶ月ぶりかではあったが,以前と比べると,少し賑わいを取り戻しているかな?という印象で,学生の姿もちらほら.いつぞやのゴーストタウンのようなキャンパスという有り様ではなかった.

そんなことを考えながら歩いていたら,文学部のある先生とすれ違った.私はイヤホンでラジオを聴いていたのだが,声をかけていただいて気が付いた.少しばかり,立ち話をする.お互いの近況など伝え合い,いろいろ大変ですねと労りあった.

そしてふと気付いたのだ.オンライン生活にはこれがない.もちろん,こういう交流を避けるためにもテレワーク,ということなのだろう.疫学的にそれは正しいのかもしれない.しかし,人間はコミュニケーションする生き物なのである.こういうちょっとしたコミュニケーション,これをセレンディピティというのも烏滸がましい気もするが,こういった出来事が人生の彩りではなかろうか.こういうコミュニケーションあってこそ,日頃のストレスが緩和されるといったら言い過ぎだろうか.

学生と比べると,なんやかんやと理由を付けて入構できる教員ですらこれなので,より制限を課されている学生のストレスは相当なものだろう.学生も人間であるからには,この問題を避けて逃げるわけにはいかない.やはり,我々も学生の教育という職務を担っている以上,真正面からきちんと向かい合うべき問題である.

2021年6月17日木曜日

Webexよお前もか

新しい MacBook Pro に Zoom を Homebrew でインストールしたら,初期設定がすっ飛ばされたせいか画面共有などができないという状況にぶち当たったので皆さんご注意を,という記事を,先日,投稿した.今回はその続きである.

Zoom だけでなく Webex もしばしば利用するので,Webex も次の手順でインストールした.

$ brew install --cask webex

さて,使ってみたところ,先日の Zoom と同じような状況が!


今回はホストではなくたんなる参加者だったが,いつも参加者にも画面共有の権限は与えられている会議なので,会議の設定上の問題であるとは考えにくい.この無効ボタンのところへマウスカーソルを持っていくと,ご丁寧に「システム環境設定を確認せよ」とのインストラクションが出てきた.

先日の Zoom と同じ状況である.

もう手順はわかっているので怖いことは何もない.言われるがままにシステム環境設定を調整して事なきを得た.経験って大事ですね.

2021年6月15日火曜日

ジェスチャーの話

郵便局にレターパックライト370を買いにいった.ところが,固有名詞が咄嗟に出てこない.窓口のお姉さんに向かって「あれください,アレ.……,あの,青いやつ……」とジタバタ.

みっともないことこのうえないのだが,それでも通じるから,人と人との対話ってすごい.


ノンバーバルコミュニケーションの情報量

さて,あの……あの……とアタフタしていたときに,手では必死でA4サイズ程度の四角形を空中に描いていた.レターパックのイメージである.

このジェスチャーでの情報伝達も含めて,無事に「レターパックを買いたい」という意図が伝わり,さらに「青いやつ」という意思疎通から,安いほう(レターパックには安いほうと高いほうの2種類あり,高いほうは赤いのだ),所望のそれを手にすることができた.もう,ノンバーバルコミュニケーション万歳,というしかない.

まあ,この例はかなり極端な例ではあろうが,オンライン講義やオンライン会議などで情報伝達のバンド幅が狭められている状況では,なかなか非言語的情報を伝えられないところがもどかしいところではある.

「ろくろ」とは

ジェスチャーの話で思い出すのは,「ベンチャー企業やITの業界人はインタビュー記事で必ず『ろくろ』を回している」という話である.10年ほど前に話題になっていただろうか.

ご存知ない方のために簡単に説明すると,新進気鋭の業界人やベンチャー社長たちは,インタビュー記事などに写る写真で,必ずといってよいほど「ろくろを回しているようなポーズ」をとっている,というものだ.ろくろを回しているようなポーズとは,両手を前に出して,空中で陶芸作品をこねているようなポーズのこと.誰かが言い出して,一時期,とても話題になった.いまでも,「ろくろを回す」と「IT業界」といったキーワードの組み合わせでネットを検索すると,話題になっていた当時に記された多数の記事を読むことができる.

「IT社長はなぜ『ろくろ』を回すのか」など,理由を推測するような記事も多数みつかるが,ざっと目を通してみると,やれ不安だからだとか,カッコつけてるからだとか,まったくもってテキトーなことばかり並べていて,どれも的外れ.真実をひとつも言い当てていない記事ばかりで困ったものである.

ろくろの正体

ではここで,ろくろの正体を私が明らかにしてしんぜよう.ずばり,彼らのろくろは「エアオブジェクトである」と断言する.

動画で検証してみるとよい.多くの人は,空中にモノを想定するときに,この所作をする.より具体的には「ここにAがあって,Bがあって,Cがある」などと説明するときに,両手でモノの輪郭を表現するような操作をするのだ.上記のABCの例だと,両手で3つの何かを空中に並べるはずである.

それを写真という瞬間で切り取ると,ろくろになる.幽霊の正体見たり,枯れ尾花.解説しちゃうと,実につまんない話でしかない(ろくろ社長に憧れていた皆さんには,ゴメンなさい).


だいぶ若いときの写真で恐縮だが,私もずいぶん大きなろくろ回してた.たしか,このときは段ボール箱程度の物体を空中に描いていたはず.経験者は語る.

2021年6月13日日曜日

メッセージング問題

学生がちゃんとしたメールを書けないという問題は,ずいぶんと昔から指摘されてきた.私も,8年前,企業から大学に着任して早々に気付き,1年生の基礎演習,初年次教育の冒頭で,まずは適切なメールの書き方から始めることにしてきた.

思えば電子メールが普及してから四半世紀以上たち,技術的な不備もいろいろ明らかになっている.SNSや進化したメッセージングツールなど新しいコミュニケーションメディアが次々と提案され普及している現在では,「電子メールはオワコン?」という声が大きくなっているのもさもありなんというところか.

1993年,私が新卒でMRIの就職試験を受けたとき,そのときに書いた小論文の内容が「これから電子メールが一般化して便利に使われるだろう.手紙と電話のいいとこ取りしたツールだから,云々」というものであった.はたしてその通りにはなったが,SPAM問題などその後のデメリットまでは予想できなかった.30年後,こんな議論をしていることも,当時は全く予想だにしなかった.

林立するコミュニケーションチャネル

さて,本稿で議論したいのは,そのようなメッセージングのチャネルをどうコントロールすべきか?ということである.厄介なのは,コミュニケーションは「自分ひとりだけの問題ではない」という点だ.相手あってこそのコミュニケーションである,ということを忘れないでいただきたい.すなわち,「私はそう思う.私が正義だ」が通用しない種類のトピックであるということである(まあ,我を通す手もあろうが,こんなご時世なのでパワハラにはご注意を).

電子メールがオワコンの危機に瀕しているとはいえ,いまだに現役で使われている.毎日,何十通ものメッセージが電子メールで届き,それに対して返事を書いている.相手はほぼ社会人.たまに学生とメールでやりとりをすることもあるが,圧倒的に社会人とのやりとりが多い.大学教員である私でこの状況なので,企業や官公庁にお勤めの皆さんは,学生と直接にメールでやりとりする機会はほぼ無いのではなかろうか.

では,学生たちは何でやりとりしているかというと,最近は圧倒的にLINEである.ある調査で,日頃利用しているシステムに関してUXの良し悪しを尋ねたところ,良いUX,悪いUXともに,最も指摘が多かったものがLINEアプリであった(飯尾, 2021).状況証拠ではあるが,この結果からもLINEが日々利用されていることを推察できる.当初は私もLINEなんて使うかなと考えていたが,学生とコミュニケーションを取らねばならない立場から,致し方なく登録した.しかし,今では便利に使っている.

最近はさらにSlackもよく使われている.エンジニアの皆さんから支持されている.ただし,メールアドレスでアカウント登録するという設計がイマイチで,その結果としてチャネルごとにアカウントがとっ散らかっており,アクセスできたりできなかったりわけのわからないことになってしまっていて,ちょっと,どうかと思う.まあ,本稿の趣旨から大きく外れるので,Slackへの苦情はこれくらいにしておこう.

他にも,Facebook messengerやショートメール(SMS),TwitterのDM,Discord,Jabber,Mastodon(まだある?)など,百花繚乱である.

結節点にいる人物の苦悩

ところで,コミュニケーションのチャネルが複数あると,困ったことが起こる.次の図を見ていただきたい.真ん中で困っているのは,私である.

学生たちがメールをきちんと書くことができなかったとしても,学生のコミュニティでLINEに閉じているぶんには問題ない.メールでやりとりする必要ができたら,そのときに適切な書き方を学んで実践できればよい.そのときに備えて入学当初の時点で教えておくのも悪い選択ではないと考える.Slackでエンジニアの皆さんと戯れてるのもよいだろう.そこだけで閉じていれば悪い話ではない.

おじさんたちはおじさんたちの理屈がある.やれ,セキュリティがどうの.クラウドサービスは信頼できない,企業ではコンプライアンスがむにゃむにゃむにゃ,など.大事な秘密はPPAP.飲み会のお知らせも重要な機密情報だ.パスワード付けて送るよ…… まあ,今回はその問題には目を瞑ろう.とにかくおじさんたちはメールでコミュニケーションしたいのだ.

さて,そうなると困るのがコミュニケーションの結節点にいる人物である.まあ,私のことだけど.

いちいち翻訳しなければならない.コピペで済むことも多いが,頻繁に翻訳が発生するので面倒なことこのうえない.「直接やってよ……」というのは,心の声,本心からの願いである.

この状況をどう解決したものか

企業と共同研究をしていると,学生が直接,企業の方との意見交換をする必要も出てくる.そのようなときはちゃんとメールで送ってねと指導しているが,学生からすると「メールのメッセージって構えちゃうんですよ.きちんと書かないといけないから」と感じているらしい.

電子メールの黎明期から使っていた立場からすると,たしかに昔はフランクな書き方をしていたことを思い出す.「〇〇様,いつもお世話になっております」なんて書くようになったのは,いつからだろう?阿呆らしいとは感じつつも,いつの間にか染まっている自分に気付く.

とにかくこの状況はなんとかできないものかと日々願っている.最後に,振り返ってみればもう何年も前からこの問題に悩まされていることの証拠として,およそ3年前にFacebookに投稿したコメントを紹介して筆を置くことにしよう.


参考文献

飯尾淳(2021)学生が考える良いUXと悪いUX, 人間中心設計, Vol. 17, No. 1

2021年6月7日月曜日

オンライン研究会にはこれが足りない

名実ともに実施の責任者になってからは初めての開催だった2021年度春季HCD研究発表会(オンライン)も,つつがなく無事に終了したのでほっと胸を撫で下ろしている.数日前のリハーサルでは事務局とコミュニケーションミスがありリハーサル参加者にかなりの迷惑をかけてしまった.とにかく平謝りのメールを送りまくったことを考えると,本番を段取りよく実施できたのは本当に有難い話である.いやはやリハーサル大事.「もうみんな慣れてるからリハーサルなんてやらんでもええんちゃう?」とか言っててゴメン.

しかし,何かが物足りないのである.もちろん,対面で大勢の前で発表するヒリヒリした緊張感とか(HCD研究発表会はお陰様で毎回100名以上の方々にご参加いただいている),そういうものが失われているのは,折り込み済み.しかし,何かが物足りないのだ.と,自分が座長をしていたセッションを閉じようとして,ハタと気づいた.

「……では,ご発表くださった皆様と,ディスカッションに加わってくださったフロア,じゃなかった,ネットの向こう側にいらっしゃる皆様,チャットでなんだかんだと書き込んでくださった皆様に,拍手をもってこのセッションを終了といたしましょう」

通常は,座長のこのセリフで休憩に突入とあいなるが,画面上に拍手のマークがちらほら,たまにチャットに「88888」(ぱちぱちぱち,だそうだ.これもネットスラングなのか?)と書かれるだけで,静まり返ったネットの空間,足りなかったものは,これなのか?

というわけで,用意してみた,というか,ネットに転がっていたフリー素材の動画である.皆さんこれをお使いください.画面共有する際には左下の「音声を共有」を忘れずに.applause! applause!

2021年6月5日土曜日

オンライン研究会で感じたCSCW感

CSCW……これは,Computer Supported Collaborative Workの略で,直訳すればコンピュータが支援する協調作業,つまり,コンピュータを利用して皆でわいわいなんか生産的なことをしようや(超訳)という概念のことである.

ものの本によればCSCWが提唱されたのは1984年だそうで,ドッグイヤー,いや,マウスイヤーとも言われるIT業界においては,もはやずいぶん昔からある概念といってよい.しかし,翻ってみれば,COVID-19パンデミックで余儀なくされているオンライン講義なんて,まさにCSCWの最たるものではなかろうか(と思ったら,CSCWから派生したCSCL……Computer Support  for Collaborative Learningという概念もあるらしい).

CSCWをしみじみ感じた出来事

そんなCSCWだが,先日開催された2021年度春季HCD研究発表会で,うーん,まさにこれはCSCWなんだよなぁとしみじみ感じてしまったので,このしみじみ感を皆様にもお伝えしたい.

HCD研究発表会では,オンライン化した昨年春の回から,拙作の,OLiVES(On-Line Virtual Event Support System)(飯尾, 2021)というイベントオーガナイザーを活用(飯尾, 辛島, 2020)している.このシステムには,評価者権限を持つアカウントでログインして操作すると,各発表に点数を付けたりコメントを送ったりできるような仕組みが用意されている.これを導入したことにより,次のような利点が得られた.

  • 発表の評価がリアルタイムで記録・集計されるので,最後の発表者の発表が終わった直後に,優秀発表賞を決めることができるようになった
  • 評価票に手書きで書き込まれたコメントを転記する作業が省略された(というか,実はそれまであまり活用されていなかった評価コメントを活用できるようになった)
  • コメントを発表者にフィードバックできるようになったので,発表者も,質疑応答だけでなくたくさんのコメントを得ることができるようになり,発表すると嬉しい効果が得られるようになった
  • 評価者も手軽にコメントできるようになったため,以前に増してコメントをしてもらえるようになった

即時に発表賞を決められるようになったため,最後の発表が終わってから閉会式までの間に,評価票を集計する時間を稼ぐために用意していた「特別講和」なる謎のセッションを省くことができるようになったし(まあ,それはそれで面白いものではあったが),評価コメントを気軽に書けるようになったことで,発表者にとっても発表する意義が深くなった.これもすごく良いことなのではないだろうか.

身近になったものだと実感

これらの成果は後日またどこかで発表する予定ではあるが,いずれにしても,オンライン研究会ということは参加者は日本全国に散らばっているわけで……実際,分かっている範囲で,北は札幌から,西は福岡からの参加があった……,昔は夢物語のようなものだった地球規模のCSCWが,実に身近な存在になったものだとしみじみした次第である.

参考文献

  • 飯尾淳, (2021) オンライン・バーチャルイベント支援システムの開発と運用, 国際情報学研究, No. 1, pp. 1-20
  • 飯尾淳, 辛島光彦 (2020) オンライン研究会のあり方について, 人間中心設計推進機構 2020年冬季HCD研究発表会, pp. 49-52

Zoomアプリの設定にご注意

手元のMacを新しくした件についてはこれまでにいくつか報じたとおりだが,今日は新しくしたMacに新しくインストールしたZoomでちょっとしたトラブルが生じたので記録しておきたい.

そのトラブルとは,画面共有ができない!というものだ.オンラインで開催される週末の研究会を目前にして,学生の発表練習に付き合ってあげようとZoomのミーティングをホストした.このZoomは,Macを新しくしてから始めて自分でミーティングをホストしたものである.

さて,学生に「じゃあ画面共有して」と伝えたところ「できません」という.ああ,共有の許可設定を出していなかったかな?と思い設定しようにも,そもそも画面共有の許可を出すメニューが出てこない.

はてさて,どうしたものか?とググってみたら「セキュリティ」というアイコンから許可の設定ができるとあったものの,その「セキュリティ」なるアイコンがない!

いつもどうしてたっけ?と思い出してみると,共有ボタンの脇に三角のポッチがあって,そこから設定できたはず.でもそのポッチも出てこない(図)

はてさて,これは困ったぞ?とあれこれしてみるものの,どうにもならず.そこへ,発表練習のXくんから「先生,ひょっとしてMacのシステム設定じゃないですか?」とのサジェスチョンが.

これがビンゴであった.


すかさず,システム環境設定を開く.確かめてみると,「セキュリティとプライバシー」の「アクセシビリティ」設定で,Zoomに許可が出ていなかった.はたして,ここのチェックを入れて再起動すると,無事,設定項目が出るようになった.

意外と,ググってもなかなか出てこない情報のようなので,気をつけられたい.とりあえずは備忘録ということで.

2021年6月3日木曜日

オンライン講義に忍び寄る新たな刺客

以前,テレワークにネコが乱入してくる問題をどうする?と論じたことがあった.ネコはなかなかひと様のいうことを聞いてくれないが,今回は,いうことを聞いてくれなくてテレワークに支障が出るのはネコだけでもないというお話.

先日,Open Source Conference 2021 Online Nagoya というオンラインイベントにおいて,「Webアプリケーション開発はじめの一歩」というタイトルで初心者向けのセミナーを担当した.オンラインイベントであり名古屋まで足を運ばずとも自宅から配信できるという点はお手軽ではあったのだが,そこでやはりちょっとしたトラブルが発生した.


昼寝はよいが鼾は遠慮していただきたい

ZoomとYouTube によるオンライン配信ということで,多くの方々に視聴していただいたようだったが,リアルタイム参加できなかった方々のために録画が現在YouTubeのOSCチャンネルで公開されている.そこに,ばっちりと記録が残ってしまっていた!(まあ,編集して削除してもらってもよかったのだが,スタッフもお忙しいことだし,これもまた一興かとそのまま公開することにした).

問題のシーンは5分45秒あたりからである.都会のネズミである私とその家族は,狭い我が家で皆が額を付き合わせて暮らしている.そのため,オンライン講義を実施する際も場所の確保が問題で,苦肉の策ながら,寝室の片隅に簡易的なスタジオを急拵えでしつらえてオンライン配信している.同様の悩みを持つ先生方も多いようで,ウォーク・イン・クローゼットの中くらいしか場所がなく「ウォーク・イン・クローゼットならぬ,ワーク・イン・クローゼットだ」などという笑えない冗談を聞いた.これから暑くなるから大変だろうなあと,他人事ながら心配だ.

冗談はさておき,今回のオンライン・セミナーは土曜日の午後,というわけで高校生の息子も自宅でウロウロしていた.配信中は寝室に入ってくるなよ!と事前に釘をさしておいたにもかかわらず,配信前に寝室に入ってきた息子,日々の部活で疲れていたのだろう,昼寝をしはじめた.

おとなしく寝ているなら(どうせ画角に入らないし)いいか,と放置していたところ,配信を始めて5分ほど過ぎたところで,大イビキをかき始めた.さすがに音はマズい.ネコ以外にもいろいろな落とし穴があるもんだなあ,と思った次第である.

2021年5月22日土曜日

オンライン授業は成績の格差を助長する?

だいぶ前に「オンライン講義 vs 対面講義」と題して海外の記事がそれぞれのメリットとデメリットを指摘しているという記事を紹介した.この記事の指摘はしごくもっともだと思うし,今でもオンライン講義はオンライン講義の良さがあり,対面講義には対面講義の良さがあり,どちらに寄せるという議論には意味がないと考えているが,最近,どうにも気になることが出てきた.それは,オンライン講義は成績の下のほうの学生を救いにくいのではないか?という,教育としてはある意味で致命的ですらある懸念である.

具体的には,本人に学習意欲があるのに,理解が及ばず,それが積み重なって落ちこぼれてしまうというケースである.

対面の講義では,残念ながらあまり理解できていないけれども学習意欲は強く持っているというタイプの学生が,講義終了後に居残って,ほぼ毎回,質問に来るという状況がしばしば見られた.他方,今期,オンラインの講義(科目は1年生の数学)が半分近くまで進んだところで,やる気はあるもののどうにも理解が難しくなってきているという学生の悲鳴が目立つようになった.

提出された課題には「全て」フィードバックコメントを返しているので,そのような学生の「どうしたらよいでしょう?」という叫びが痛い.できる範囲でオンラインで詳しく説明を返しているものの,常々,私が指摘しているように,コミュニケーションのバンド幅という意味で,限界がある.

最後は「どうしても分からなかったら,いつでも質問に来なさい」と手を差し伸べている.実際,一昨年までは,研究室にちょいちょい学生が質問に来ていたし,昨年も完全オンラインだった前期はともかくとして,対面が再開した後期は何度か実際に学生が質問に来た.幸にして今は対面講義もまだ一部実施しているので,そのタイミングを合わせて質問に来てもらうぶんには,こちらは全く構わない.

仲のよい学生同士で相談しながら課題に対応している様子も伺うことができる.これも,一部,対面を実施して大学に登校させているからならではであろう.もちろん,完全オンラインだったとして,どこか別の場所に集まってということもあり得るが,頻度と可能性の観点から,やはりキャンパスで集まることの意義は大きい.

一方で,「先生に連絡をとりたくても取れない」という学生の悩みも耳にする(これはあくまで世間一般のケースとお断りしておく).そんな状況ではどうしようもなく,やる気がある学生であってもポロポロと脱落してしまいかねない.勉強のやり方を熟知していて,自分で自律的に学習することができ,自分のペースで学ぶことができる優秀な学生にとって,オンライン学習はやりやすいのかもしれない.しかし,はたしてそれでよいのか?という懸念を払拭することは今の私にはできない.