数時間後,意識が戻り,気付いたら窓の外が明るい.いや,正確にいえば,「明るそうにみえる」という状況だった.私は右(南向き)窓側の席に座っていて,上空には太陽が透けてみえていた.乗っていた飛行機は787なので,窓には物理的な日よけがなく,窓自体が液晶シャッターで電子的に暗くなっている.しかし,液晶シャッターでは直射日光を完全に遮られず,日差しが眩しかったというわけである.
「はて,深夜便で早朝着なのに,なんで太陽が燦々と輝っているんだろう?」と,寝覚めのぼーっとした頭でしばらく考えた.整理してみるとどうということもないのだが,1. 東行きの深夜便,2. サマーシーズンで白夜の北極圏という二つの条件が重なり,なんとも奇妙な体験になった.当該便で何が起こっていたのか,以下のとおり整理してみたい.
ことの顛末
飛行機の進み具合に合わせて順番に状況を説明する.まずは出発の状況を考えよう.0時台の出発であり,日付は新しくなったばかりである(図).
飛行機は順調に東北の方向に進む.地球の自転により夜は西に移動し,急速に朝を迎えた.当該便は微妙にロシア上空を避けながら,アラスカ方面に向かっている.この時点で,飛行機は24日の午前中を飛んでいることになる(図).
さて,ここで当該便は日付変更線を超える.日付変更線を超えてからは,23日,前日の世界である.次の図で「前日」と書かれたエリアを飛んでいることに注意しよう.北米上空を飛んでいるとき,飛行機は23日の一日を急速に過ごしていくことになる.
しばらくすると,再び24日になる.23日を駆け抜けるからである.ところが,ここで,サマーシーズンの北極圏は白夜であることが災いする.それが私に混乱をもたらした理由の一つとなった.すなわち,白夜であるがゆえに暗くならずに24日を迎えてしまうのである(図).
かくして,飛行機は周囲が明るいまま早朝のロンドンまで巡航し,無事,24日早朝のロンドンに着陸したというわけ(図).
頭のなかで考えていたときには「どうしてこんなことが?」と不思議だったが,このように図解で考えてみるとスッキリした.また,時刻表上は「深夜便」なのに「ほとんど明るい中を飛んでいた」というギャップも,混乱に拍車をかけていた理由の一つなのだろう.
以上が今回体験した不思議な出来事の顛末である.