2024年6月18日火曜日

HCD研究発表会の向かう道

HCD-Net研究事業部では,年に2度,HCD研究発表会を開催している.ここでは,本イベントの在り方に関する検討とその方針について論じる.

イベントの活性化,指摘と対応

我々は,HCD研究発表会というイベントを活性化すべく,これまで,論文誌への同時投稿制度やメンター制度,審査員によるコメントフィードバック,実践報告カテゴリの設置など,様々な工夫を重ねてきた.その努力が実ったのか,あるいは,たんにHCDやUXに対する注目が増えたせいなのかもしれないが,いずれにしても,年々,発表件数が増えてきているのはたいへん喜ばしい限りである.

一方で,発表数が増えてマルチトラックにした結果,従来のきめの細かな議論ができなくなった,あるいは,発表数は増えた一方で質の低い発表が増えた,といったご批判も頂戴している.これらのご指摘はたいへん有難く,今後どうしていくのが皆様にとって望ましい研究発表会になるのかを検討するうえでとても参考になる.真摯なご意見として受け止め,運営関係者で検討する材料としたい.重ねて,厳しいご指摘をくださった皆様には御礼を申し上げる.

発表数の増大に対してマルチトラックにするのか,開催日数を増やすのかの選択は,なかなか悩ましい問題である.シングルトラックのまま複数日開催とすれば,これまでどおりの議論の質は維持できるかもしれない.しかし,参加者の負担は増大する.開催側もたいへんである.どのような形が最適解なのかは,今後,慎重な検討を進めなければならない.

発表の質の担保は必要か

「たんなる思いつきの発表ばかりでけしからん,せめてプロトタイプを作った結果を報告せよ」とのご指摘を,ある先生からいただいた.しかし,それに対しては,我々は真逆の立場を指向していることを,ここで明確に示しておきたい.

マイクロソフトリサーチUKのSimon P. Jones氏は,彼の”How to write a great research paper”と題した文献のなかで「まずアイデアを発表せよ」と語っている.その理由は,最初のアイデアが間違っていると,そのあとの研究は無駄であるから,というものである.この考え方には強く共感する.そもそも最初のアイデアを学会で議論し,第三者の指摘を踏まえたうえで,適切な目標に向けて研究を進める,その考え方は,HCDのプロセスである,まず利用状況を適切に把握せよという考え方と合致するのではないだろうか.

また,発表の敷居を下げることは,研究会の活性化につながる.企業人が多いというHCD-Netの特性を踏まえても,学会発表に慣れていない皆様にも発表の機会を提供することが,重要な意味を持つと我々は捉えている.

もちろん,だからといって,安易な発表「だけ」に甘んじていてはいけない.その点では,先の先生による指摘もまた間違ってはいない.議論を重ね,皆様が切磋琢磨していくことを,期待している.成果を出して,さらなる発表に繋げることは大切である.提案発表を受け入れることは,当然ながら,そのような発表を妨げるものではない.次回のHCD研究発表会にも,たくさんの発表があることを期待している.

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