2024年6月24日月曜日

【ダークパターン警察】ファイル02

やってはいけない「ダークパターン」.やりたくなる気持ちはわかるが,こういう設計はやめたほうがいい.そんな事案を収集するシリーズである.名付けてダークパターン警察.今回は,某通販サイトの事案である.


さて,今日取り上げるのは,SNSではあまりよい評判を聞くことがない,某通販サイトの1ページである.まずは次の図を見てほしい.

矢印の先には「特別セール」とあり,さらに「終了まであと01:58:13」とある.これ,カウントダウンタイマーという典型的なダークパターンではなかろうか.

終了まで2時間を切っていたので,そのまま放置してみた.すると,次のようになった.

タイマーはストップしたが,特別セールは終わってないやないかーい!そして,このページをリロードしてみると……


お,おう.時計が3日ほど巻き戻ってしまった.

こうなるともう,何も信じられない.左下にある46個のレビューや星4.9も,本当だろうか?ちょっと気になったので,いろいろやってみた.

在庫数もインチキ

「残り11」個とあるので(お急ぎください!),カートに入れてみた.その状態で,やおら,違うブラウザから同じページにアクセスする.カートに1個入れたので,残りは10個になるはずなのだが……あれれ?残り11のママじゃん.どういうこと?(ひょっとして決済されたら減るのだろうか.競合が起きたらどうすんの?)

レビューも,ブラウザによって微妙に異なっている.左はChrome,右はSafariでアクセスしたものだ.数やスコアも違ってるし,これいったいどういうこと?

まるでダークパターンの見本市のような印象を受けたが,皆さんどうだろうか(ちなみに,カートに入れた商品を削除しようとしたら,ダークパターン警察ファイル01で指摘したパターンと同様の課題も存在していた).

ということで,信じるも信じないもあなた次第.ダークパターンにはゆめゆめご注意めされよ……

2024年6月23日日曜日

身近になったジェスチャーコントロール

macOSの設定を眺めていたら,いつの間にか,ジェスチャー認識を活用したUI設定が実装されていたので驚いた.その設定手順は次のとおりである.

ヘッドポインタ

システム設定のアクセシビリティという項目に,「ヘッドポインタ」という設定がある(次図).この設定をONにすると,頭の向きでマウスポインタを動かせるようになる.

この設定を有効にして,顔の向きを変えるとそれに追随してマウスポインタが移動する.それはそれで面白いのだが,正直なところ,なくてもいいかなあという感じ.

まあでも,とくに効果を感じないのは,私が小さなMBP13"の画面で作業しているからかもしれない.大きなディスプレイで作業している皆さんには効果的なのかな.複数画面でマルチディスプレイ環境を作って作業しているひとには便利になるかもしれない.ていうか,マルチディスプレイのときは画面を超えて移動していくんだろうか?そこはまだ検証していない.

代替ポインタアクション

さて,マウスポインタを顔の向きで動かせるようになるとすれば,クリックはどうするの?という話になるのは自然な流れであろう.マウスポインタを移動させるだけでなく,マウスやタッチパッドに触ることなくクリックやドラッグができれば,それはそれで,便利な使い方が考えられまいか?

というわけで,次に注目すべきは,ヘッドポインタの上にある「代替ポインタアクション」という項目である.代替ポインタアクションを設定するには,右側にあるインフォメーションのアイコンをクリックし出現するダイアログで作業する(次図).

この図は,代替ポインタアクションで「+」をクリックすると出てくる選択ダイアログである.「顔の表情」を選ぼう.「次へ」をクリックすると,選択した顔の表情とそれに紐付けるアクションを選ぶ画面に進む.

「顔の表情」の選択肢は,笑う,口を開ける,舌を出す,眉を上げる,目をまばたく,鼻をしかめる,唇を外側に向けてすぼめる,唇を左側に向けてすぼめる,唇を右側に向けてすぼめる,というもの.対応させるアクションの種類としては,左クリック,右クリック,ダブルクリック,トリプルクリック,ドラッグ&ドロップを選べる.

面白いけど

いろいろ試してみると面白いだろう.「口を開けると右クリック」などという設定にしておけば,口をぱかっと開けるとコンテキストメニューが出てくる,なんていう動作も実現できる.でも唇を捻じ曲げてひょっとこみたいな顔をする動作で操作するって,たいへんそう…….

もちろん,マウスやトラックパッドが使えない状況など,このヘッドポインタと代替アクションの組合せが有効になるシーンもあるだろう.想像力の問題でもある.そして,一度でも試してみると,ジェスチャーインタフェースの課題を身をもって感じられるはずだ.疲れる,しんどい,不自然,という課題である.

未だ解決されていないそれらの課題だが,それを体験できるこれらの実装はとても有意義である.実際に試してみることで理解したうえで,「よっしゃいっちょ私が解決してみようやないかい!」という挑戦者が現れることを期待する.

2024年6月18日火曜日

HCD研究発表会の向かう道

HCD-Net研究事業部では,年に2度,HCD研究発表会を開催している.ここでは,本イベントの在り方に関する検討とその方針について論じる.

イベントの活性化,指摘と対応

我々は,HCD研究発表会というイベントを活性化すべく,これまで,論文誌への同時投稿制度やメンター制度,審査員によるコメントフィードバック,実践報告カテゴリの設置など,様々な工夫を重ねてきた.その努力が実ったのか,あるいは,たんにHCDやUXに対する注目が増えたせいなのかもしれないが,いずれにしても,年々,発表件数が増えてきているのはたいへん喜ばしい限りである.

一方で,発表数が増えてマルチトラックにした結果,従来のきめの細かな議論ができなくなった,あるいは,発表数は増えた一方で質の低い発表が増えた,といったご批判も頂戴している.これらのご指摘はたいへん有難く,今後どうしていくのが皆様にとって望ましい研究発表会になるのかを検討するうえでとても参考になる.真摯なご意見として受け止め,運営関係者で検討する材料としたい.重ねて,厳しいご指摘をくださった皆様には御礼を申し上げる.

発表数の増大に対してマルチトラックにするのか,開催日数を増やすのかの選択は,なかなか悩ましい問題である.シングルトラックのまま複数日開催とすれば,これまでどおりの議論の質は維持できるかもしれない.しかし,参加者の負担は増大する.開催側もたいへんである.どのような形が最適解なのかは,今後,慎重な検討を進めなければならない.

発表の質の担保は必要か

「たんなる思いつきの発表ばかりでけしからん,せめてプロトタイプを作った結果を報告せよ」とのご指摘を,ある先生からいただいた.しかし,それに対しては,我々は真逆の立場を指向していることを,ここで明確に示しておきたい.

マイクロソフトリサーチUKのSimon P. Jones氏は,彼の”How to write a great research paper”と題した文献のなかで「まずアイデアを発表せよ」と語っている.その理由は,最初のアイデアが間違っていると,そのあとの研究は無駄であるから,というものである.この考え方には強く共感する.そもそも最初のアイデアを学会で議論し,第三者の指摘を踏まえたうえで,適切な目標に向けて研究を進める,その考え方は,HCDのプロセスである,まず利用状況を適切に把握せよという考え方と合致するのではないだろうか.

また,発表の敷居を下げることは,研究会の活性化につながる.企業人が多いというHCD-Netの特性を踏まえても,学会発表に慣れていない皆様にも発表の機会を提供することが,重要な意味を持つと我々は捉えている.

もちろん,だからといって,安易な発表「だけ」に甘んじていてはいけない.その点では,先の先生による指摘もまた間違ってはいない.議論を重ね,皆様が切磋琢磨していくことを,期待している.成果を出して,さらなる発表に繋げることは大切である.提案発表を受け入れることは,当然ながら,そのような発表を妨げるものではない.次回のHCD研究発表会にも,たくさんの発表があることを期待している.